遊泳夢想
宙を遊泳する。
一人の人影が漂っている。
いまだ少女の面影を残す女性は目を瞑り、無音の世界に思いを馳せる。
「やっときた・・・」
誰にも届かぬ世界で孤独に呟く。
彼女は目を開けて自身の体を観察する。
腕を動かす。
宇宙服は軽量化されて、殆ど体と一体だ。
手の甲と指だけは鋼鉄に守られ、機械で握力を補強する。
その補強もあってか普通に指を動かすのとなんら変わりない自由を得ている。
彼女は指を動かす。
動作は問題なし。
初めての単独遊泳。
上司に特別な許可を得て、少しの間を楽しむ。
「規則違反だけど、頑張ってもらってるし」
上司は笑いながら許可してくれた。
親や兄弟、先生や上司や同僚がいてこそ達成した夢のカケラ。
だれが欠けても、奇跡のような偶然が重なっていなかったら実現しなかったんだと、改めて思う。
「へへ。私はラッキーだ」
そういって楽しそうに笑う。
地球を見下ろして、依然青いことに驚く。
地球の中だって美しいのに、宇宙に出る必要はあるのか?
確かにそう言われ続けた。
でも、宇宙に憧れた。
ただそれだけで今の自分がある。
「遠くへ、遥か遠くへ」
それだけが私を動かしてきた。
まだ見ぬ世界。
少女は星を見た。
遠くの星を。
「行くんだ!もっと遠くへ!燃え尽きたとしても!」
笑顔でそう呟く。
通信が入る。
「もうそろそろ帰って来い。シップに戻るぞ」
「了解」
そして彼女は船に向かう。
「待ってて。必ず行くから」
その言葉を残して。
短い文章なので、五分以内に読めると思います。
ちょっと夢想してみたいときにでも、ご使用ください