6.その後の世界~人の想いは力になる~
あれから、ようやく舞は退院できるようになった。
病院から出るや否や「やっと病人生活から抜け出せる~!」と元気に自分に治癒の魔法をかけていた。
投げ捨てられる松葉杖とガーゼ。すぐに炎の魔法で完全燃焼かつ証拠隠滅。
最初からそうすれば? あの献身的な僕の介護は何? とか言ってはいけない。
医者が魔法を信じてしまう。というか商売上がったりだ。
彼女は世を忍ぶ魔法少女なのだ。世を混乱させてはならない。
複雑骨折ならば複雑骨折のままで耐え忍ぶのが魔法少女なのだ。
「ジャーン!」
舞が口を大きくして歯並びを僕に見せる。
折られたりした歯は、全部新品同然に生え揃っていた。
「歯はアイドルの命だもんね!」
光沢のある歯から「キラッ☆」という効果音が聞こえてきそうなスマイルを決める。
――歯科医もだめだな。
あれから。
あの男は姿を見せない。マリスの自動発生装置もでてこなくなった。
どうやらこの世界を収益化することを諦めたらしい。
今頃は他の世界に乗り込んでイチから悪意集めの営業活動に精を出しているのか。
あの男といえば。
僕は思い出す。
あの男との一件の後で変わったことがある。
魔法の産物が科学的に初めて発見されたのだ。
内容は人の悪意の結晶と、善意の結晶らしきものを観測したというもの。
あの日、舞が世界中の悪意を相殺するほどの力を持った影響かどうかは分からない。
だけどそれはこの世界の人間が自力で科学的に見つけたものだ。
それらの結晶が世界にどういう影響を与えているのかも科学的に現在も不明のまま。
あの男の世界のようにみんなが魔法を使えるとは程遠い。
だが、この革命的な発見がこの先どうなっていくかは分からない。
僕たちの世界は良くなっていくのか、悪くなっていくのか――。
病室の彼女にそのことを報告すると素直に喜んでいた。
意外だった。
あれだけ魔法が広まることを恐れていたのにだ。
「この世界の人間がちゃんと自分たちの技術で見つけたものだからいいの」
舞やあの男が魔法を広めるような人為ではなく自然に魔法が見つかっていく。
彼女はそれを望んでいたのだ。
「それに、これでやっとアイドル魔法少女としてマリス退治ができるしね!」
彼女の表情が晴れやかになる。
僕は内心複雑だった。
アイドルになったら恋愛禁止だし、それに初めてのあのAは――
絶対に『契約』させられる。他言禁止の。
ところで彼女のCDの発売日が決まった。
CDでは伝えられないかもしれない。彼女のあの声は。
本人にももう出せないかもとか言っていた。
けれど、僕はきっと彼女は成功すると信じている。
なにせ一瞬でも世界を共感させた彼女のデビュー曲だ。
きっと耳に残る。心に響く。
僕は祈る。
この世界において――人の想いは力になる。
ならばどうか、この想いが結晶となって、少しでも彼女を支えますようにと。
(終)
おそらくは一人いるかいないかだろう全話を読破された剛の者。
最後まで読んでいただいた方、それだけで感激でございます。
ありがとうございました。