お伺い?
9話目です。
・・・ではどうぞ。
「・・・お兄ちゃん、何回溜め息吐いたら気が済むの?もう、鬱陶しいから止めてくんない?」
対角線に位置する席で食事をする妹が、うろんな視線を投げつけてくる。
「悪い、理佐。」
今日も両親は仕事で遅い。母さんはフレックスタイムで出社時間をずらし、朝のうちに色々と家事を済ませてしまうので、その分帰りが遅い。でもこうして僕達の夕食を冷蔵庫に残しておいてくれている。だから平日は妹と二人でこうやって夕飯を済ます事が多い。
ただ最近はやたらと一方的に疎まれ、あまり会話も無くテレビの音が響いているばかりだ。しかも今日はこれといった番組も無い。二人っきりで、目障りな人物の溜め息ばかり聞かされては確かに鬱陶しいだろうな。
・・・って、自分でこんな分析をしてると余計虚しくなる。
「で? 今は何悩んでんの?」
おかしな事に妹は、無理やりな上から目線で一丁前に人生相談に応じようとしているらしい。今までこんな事を言い出した事は無かった。ちなみに、逆に相談されたような覚えも無い。
「あー、お兄ちゃんひどい! せっかく私が話聞いてあげようって思ったのに!・・・もう、知らない、勝手に一人で悩んでれば!?」
吹き出すのは堪えたけれど、笑ったのはバレてしまったらしい。割れるんじゃないかってくらいの勢いで茶碗をテーブルに置いて、そっぽを向いてしまった。
「・・・悪い、理佐が珍しい事言い出すからさ。」
「お兄ちゃんが暗いから!・・・みんな外見に騙され過ぎよ。本当はこんなにウジウジで面倒なのに・・・」
一つ違いの妹は、一切兄に敬意を抱いていない。それは薄々分かっていたけど、こうも面と向かってはっきり言われると、かなり堪える。
「うるさい、僕は誰も騙してるつもりはない。人を詐欺師みたいに言うな。」
「だって、絶対航兄ちゃんの方が男前だよ?」
航? いいやつだし、ああ見えて実はかなり色々気を回すし、僕より確実に運動神経はいい・・・だが、そこはあえてコメントしないでおく。
「・・・今回は僕の事じゃなくて、その航の問題。」
「えっ、何々どんな問題?」
僕の悩みだと思っていた時よりも、明らかに興味を示す妹に複雑な思いを抱きながら、事の次第を説明した。
「そういうのはさー、お伺いたててみようか?」
「はっ? お伺いって何?」
僕の質問は無視され、妹は携帯を取り出して、文面らしき事をブツブツ呟きながらメールを打っている。
「送信~!」
そんな必要も無いのに携帯を上に掲げてボタンを押す妹から、僕は意図的に目を逸らした。そのポーズに意味は無いだろ? そう突っ込みたくてたまらないが、そんな事をすると3倍くらい憎まれ口が返ってくるのは確実なので、見なかったフリを選ぶ事にした。
「これで何かいい解決策が返ってくると思うよ?」
予想外の笑顔を見せる、妹に驚いた僕は、
「・・・あぁ、そう。」
としか言葉が出てこなかったのだが、それが不満だったのか、妹はいつもの見慣れた不機嫌そうな表情に戻ってしまった。
風呂上がりにやたら機嫌のいい妹に捕まった。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん、返事来た。」
抑えきれない感情が溢れて、それが面に出ているのだが・・・結局誰に送って、誰から返事が戻ってきたのかは分からないままだ。
「何て書いてある?」
濡れた髪をタオルで拭きながら聞くと手招きするので、ソファに座る理佐の隣に座った。何も言わない。更に意外な事に携帯ごと渡されて、隣でクスクス笑っている。
「なぁ・・・何か嵌めようとしてないか?」
違和感だらけの状況に、そうこぼすと、
「いいから早く読んでよ。」
と、急かされ、仕方なく携帯の画面に目をやるが既に省電のために黒くなっていた。適当にボタンを押して復帰させると、そこには僕の問いの答が表示されていた。
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From 美晴さん
Sb 人生相談って言われてもな・・・
どうも何も、それはもう付き合ってし
まえばいいだけだと思うんだけど?
航が何知りたいのか分かんないけど、
何もしなくていいんじゃない?たぶん
勝手に丸く収まるよ。
で、理佐ちゃんの兄貴も、人の事で思
い悩んでないで、自分の事頑張れって
伝えといて。
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「・・・理佐は美晴さんと仲いいのか?」
「うん、尊敬してる。」
やたらとキラキラした目をする妹に、僕は無言で携帯を返した。正しくはかける言葉が見つからなかった。僕も美晴さんの事は・・・たぶん、よく知ってるけど、あの人に感化されたり、影響されるのは歓迎したくない。
美晴さんは葵姉と仲がよくて、僕も小さい頃から付き合いがある。基本的にいい人なのだが、信用し過ぎると痛い目をみるはめになる。時々ものすごい行動力で大掛かりなイタズラを仕掛けてくる事があるのだ。そのための努力を、あの人は一切いとわない。
僕も航も葵姉もその被害者で、僕としては少々距離を取りたい人物だ。でも、葵姉はそれでも親友であり続けていて、それが僕には不思議でならない。
・・・うん、悪い人ではないんだけどさ。
「ただいま~」
玄関が開く音がして母さんの声がした。
もう帰ってくる時間なのかと、壁の時計を見ると8時40分を指していた。ちなみに父さんはもう少し遅く9時より前に帰って来る事は、まず無い。
リビングに入ってくるなり母さんは、僕達の姿を見て笑った。
「二人揃って並んでるなんて珍しいわね、そんな仲良さそうなとこ久し振りで、いいもの見た気分だわ。」
少し嬉しそうに言い、脱いだ上着をイスに掛け流しに向かった。
「お母さんひどーい。別に仲いいわけじゃないもん、たまたまだもん、たまたま!」
妹は口を尖らせながらあっさりと僕の横から消え、母さんの所に行ってしまった。
そんな様子見ながら、母さんは再びおかしそうに笑っていた。
その笑いには、すねた妹だけじゃなく、何となくガッカリした僕の事もきっと含まれているんだろう。
やっぱり狂言回しが出てこないと話が進みません。
って言うか「不思議な人。」でいいくらいにメールの話が出てたので利用。




