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親友ともう一歩。  作者: 薄桜
おまけ - 聡太くんの憂鬱 -
18/20

会話

おまけの2話目です。


・・・ではどうぞ。

翌日は気まずいまま過ぎ、その次の日の朝。

出かける気マンマンの格好をした妹が部屋に入ってきた。

「お兄ちゃん出かけるから支度して!」

え? それどういう事・・・? そんな約束なんかしてないし、家族で出かけるなんて話も聞いてはいない。

「理佐、何? 出かけるって、誰と?」

「私とに決まってるでしょ?」

こいつ察しが悪いな・・・と、顔に書いてある気がするが、察しようがない。

僕は普段着のまま、本を開いていた体勢で固まり、頭だけを手がかりの無い問題に使っていた。当然の事ながら答えには辿り着かない。

「いいから、さっさと着替える! 私と一緒に歩くんだから、マシな格好してよ!?」

それだけまくし立てると、部屋から出て行った。

・・・マシな格好って何だ?


仕方無く上だけ着替え、上着を羽織ると、まあいいでしょと、妹から及第点をもらえたらしい。

「どこに連れて行く気だ?」

「しつこいなぁ、着けば分かるから、今は黙ってて!」

前を行く妹の後ろを追いかけながら、何度目かの質問をぶつけるも。『着けばわかる』の一点張りで、今はさっぱり分からない。

そのうち見知った姿を見つけ、その人達はこちらに手を振ってきた。

「理佐ちゃん待ってたよー。」

「ごめんね和歌ちゃん、お兄ちゃんが準備遅くってさ。」

はいはい、いいよどうせ僕のせいですよ。何も聞かされてないのに、突然準備させられた僕が遅かったんだ。いいよ、それで。

理佐は、美晴さんの妹の和歌奈ちゃんと、手を取り合ってピョコピョコしている。

この二人はとても仲がよくて、しょっちゅうお互いの家を行き来している。

そしてこの場にいるのはそれだけではない。

「ほらほら聡太くん、そんな顔しない。そんなストレスばっか溜めてたら、胃を壊すよ?それにほらここの皺・・・消えなくなるよ?」

そう言って、おかしそうに僕の眉間を美晴さんが指で突付いてくる。

「止めて下さい。理佐、何で・・・」

「だから、楽しめって言ってんの!? 何でもかんでも、そうやってつまんない顔するの止めてよ。」

僕の言葉の途中で、妹が先に爆発した。

「突然何も教えられずに連れて来られて、困惑しない方がおかしいだろ?」

「結局付いて来てるくせに、今更何言ってんの!?」

「まーまー、そのストレスはこれから解消しに行こうね。」

往来で声を荒げる僕達に、美晴さんはまったく動じる事無く笑っていた。



・・・ストレス解消ってこれですか?

連れて来られた場所はカラオケ。

「僕、人前で歌うの苦手なんですけど・・・。」

「気にしない、気にしない。大きな声出すだけでストレスって結構発散できるものなんだよ? 他には泣くのと、笑うのもあるけど、そっちの方が良かった?」

・・・何を泣けと? いや、泣きたい気分ではあるけどそう簡単に泣けるものでもない。

「じゃ、行こうか。」

渋る僕の意見はさらりと流され、美晴さんに背中を押されて店内に押し込まれた。


店の人に案内された個室に連れ込まれ、とりあえずウーロン茶を頼んだ。

ランキングや、プロモーション映像の流れる賑やかな室内で、妹と和歌奈ちゃんは、分厚い曲のリストを真剣な顔で覗き込んで選んでいる。美晴さんも同じように分厚い冊子を抱え、パラパラと何気なく(めく)りながら、少し微妙な表情をした。

「どうかしたんですか?」

違和感を感じてそう声をかけると、美晴さんは僕の方に少し寄ってきて、意外な事を言った。

「本当はね、私も苦手なんだよ。人前で歌うの。」

「は? どういう事ですか、それ?」

じゃぁ何でこんな所に、しかも楽しそうに連れて来るんだ?

「歌うのは嫌いじゃないけど、私あんまりポップス聴かないから曲分かんないし、人前ってのはやっぱり恥ずかしいんだよ。」

「じゃぁ何で、ここに?」

「ストレス発散って言ったよ? 声出すのはいいんだってば。」

「発散しに、無理して来る事無いんじゃないですか?」

「何言ってんの、聡太くんに発散してもらうためだよ? それに私も、意地でも楽しむに決まってるじゃないか。」

いや、それ何かがおかしい。

「ワンパターンって言われても、知ってるのしか無理だから、それを魂込めて歌う。適当に歌うなんて事もしたくないからね。で、聡太くんは何にする?」

リモコンで曲を入力し終わると、それまで自分が見ていた冊子を「ほら」と渡された。


この人、完璧主義者なのか?

知ってるのを魂込めて歌うとは言ったが、確かに相当歌い込んだ感じがあって・・・他の曲は知らないけど、この曲に関しては上手いと思う。

発声にしても、感情を込めるにせよ、たかがカラオケにそこまでしなくてもいいんじゃないかって思うくらいだ。

次は僕の番が回ってきて、嫌々ながらもマイクを取った。


「さすが男の子、低い音出ていいなー。」

そんな所を羨ましがられるとは思いもしなかった。

次の曲を選ぶのに忙しい二人は、聞いてる感じは一切なくて、観客はこの隣の人だけなのだが、僕が歌い終わっての第一声がこれだ。

「・・・そんなもんなんじゃないんですか?」

声変わりは2年の初め頃に始まった。その時はさすがに戸惑ったが、今はもうこれが当たり前だ。

「あー、その決め付け気に入らないな。できない事をできないって言っちゃうのは簡単だけど、そこを・・・こう、クリアした時の達成感ってのがいいって思わない?」

力説が始まった。達成感は悪くないと思うけど、本当に無理な事は無理だと思う。

「できない事は、やっぱりできないでしょう?」

「それは、やってみてできなかった時に初めて使う言葉だ。」

やっぱり言う事がおかしい。

「いいなって事はつまり、できなかったって事ですよね?」

「ぐっ・・・私まだ認めてないから。」

しかも負けず嫌いなんだ。

視線を逸らせ、口を尖らせ、しかも拳まで握り締める姿は・・・子供だろこの人?


とりあえず何曲か歌い、後は歌いたい二人に好きにしてくれといった感じで、席にもたれて幾分薄まったウーロン茶を流し込んだ。

美晴さんも似たような態度で、こちらは冷めた紅茶を今更のように飲んでいる。それ絶対ホットの意味が無いと思う・・・けど、本人は満足そうだ。

いいんだけどさ、それよりもっと気になる事がある。

「美晴さん?・・・何で僕にこんなに構うんですか?」

オモチャにされてる感じでもなくて、異論はあるけど真面目な事言って、自分が好きでもないカラオケにわざわざ引っ張って来て・・・その行動原理が分からない。

「ん? 聡太くんが私に似てるから。」

軽く言われた以外かつ驚愕な内容に、まずは耳を疑った。

・・・僕が美晴さんに似てる?

「どこが? ・・・ですか?」

「こうじゃなきゃいけないって、勝手に自分を枠に嵌めてるとことか、我が侭言えない所とか、頑張っちゃう所とか、あとは・・・妹に振り回される所?」

最後は取ってつけたように言って笑った。

「・・・僕には美晴さんが、奔放な人に見えるんですが?」

「そっか、なら良かった。」

そう満足そうにして、再び紅茶に口をつける。

一体何がいいんだ? よく分からない。

「何がいいんですか?」

「んー? 人の隠してる部分を暴こうなんて事、しちゃ駄目だぞ?」

・・・それ、僕の事を見透かしたように言う人の台詞ですか?

「そんなにしんどい生き方してるんですか美晴さん? ・・・それに僕も?」

枠とか我が侭とか、そんな言葉を使うと、ひどく不自由な人生のような気がしてくる。

「さあ? 自覚の有る無しは分からないけど、楽しく生きたいだけだよ、私は。」

夕飯の時に妹が、この人の受け売りで言っていた事と同じだ。


やっぱりよく分からない。

服装は、ご自由にご想像下さい。


妹が喧嘩売ってきました。

なぜかカラオケでした。

書いてて、へーって状態。

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