忠告
おまけの1話目です。
2話では長すぎて、3話になりました。
・・・ではどうぞ。
・・・よし、覚悟を決めた。
美晴さんにメールを送ろう。
美晴さんの言うように、航はちゃんと色々考えてて、きちんと自分でどうにかしようとしていた。確かに部外者の僕が首を突っ込む事ではないらしい。
その報告とお礼を兼ねて、メールを送ろうと思ったのだ。
だが、アドレスを知られると、何か悪用されそうな気がして携帯を見つめたまま悩んでいる。美晴さんの番号とアドレスは妹から渡された。イーブンと言えなくも無いが、僕には悪用する気は無く・・・あの人はやりかねない性格だ。
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To 美晴さん
Sb その通りでした
航は確かに色々考えてました。確かに
僕は見てるだけしか無いんですね。
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後は送信ボタンを押すだけだ。
でも押せないまま、昼の休憩がかなり消費された。
・・・いい、送る。
断腸の思いで送信ボタンを押した時には、手にかなりの汗をかいていた。
緊張から解き放たれて、一息ついた頃にはもう携帯のバイブが揺れた。
返事が返ってきたらしい。早いな・・・暇なのか?
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From 美晴さん
Sb Re.その通りでした
おっ?これ聡太くんの携帯?
貴重な情報Get!
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うわっ、やっぱりこうなるのか?
やっぱりあの人を信用しちゃ駄目だったのか!?
僕は慌てて返信した。
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To 美晴さん
Sb Re.Re.その通りでした
止めて下さい!!
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From 美晴さん
Sb Re.Re.Re.その通りでした
冗談だよ。
あのさ、もう1つ気になる事があるん
だけど、どっかで直接話せない?たぶ
ん、聞いといた方が身のためだよ?
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To 美晴さん
Sb Re.Re.Re.Re.その通りでした
何の脅しですか?
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To 美晴さん
Sb Re.Re.Re.Re.Re.その通りでした
脅しじゃなくて、忠告。
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そんな気になる書き方されると、会わざるを得ないじゃないか。
・・・わかりました。と返事を出して、帰りに待ち合わせる事になった。
高校の校門の側で待っていると、お待たせと声がして美晴さんが近付いてきたが・・・顔色が良くない。
「大丈夫ですか? 体調悪いんじゃないですか?」
「大丈夫。気にしないで、お腹痛いだけだから。」
いやだけって言われても、気にしないのは難しいと思う。辛そうで全然大丈夫そうには見えない。
「それ本当に大丈夫なんですか?」
「・・・どうにもできないから、気にしないで。」
美晴さんは完全拒絶のオーラを放っていて、だからこそ余計に気になる。
「でも・・・、」
「はい、わかった。はっきり言おう、ただの生理だから、そういうものなの。」
「・・・失礼しました。」
開き直ったようにはっきりと明かされた理由に、僕はただ非礼を詫びる他なかった。
シュンとした僕に、美晴さんの笑い声が浴びせられた。
「そういう時は察しようよ・・・私は別にいいけどさ、他の人なら分かんないよ?」
「はい、以後気を付けます。」
確かに。気付けなかった自分の、あまりのデリカシーの無さに情けなくなった。
「でも、そんな話じゃないんだ。」
そう言ってすぐに切り替え、美晴さんは真面目な顔になった。
「あのさ、航と・・・名前何だっけ?」
「あぁ、石井朋花です。」
「そっか、うん、航と朋花ちゃんがうまくいったら、聡太くんはどうする?」
何が言いたいんだろう?
歩きながらの問いかけに、僕は首を傾げるしかない。
「どうって・・・嬉しいですけど?」
互いの思いに気付いて、二人が幸せになれれば、友人としては嬉しい。そして僕も、前みたいにいつも通りで、ギスギスした空間で板挟みの状態からは開放される。
「うん、けど聡太くん一人あぶれちゃうよ? しかも、聡太くんは航くらいしか仲のいい友達いないよね? どうする? 一人でいる? それとも二人の邪魔をあえてする?」
痛い所を衝かれた。そっか、前と同じっていうわけにはいかないのか・・・。
「聡太くんは邪魔なんかできないよねー、きっと離れて一人でいるんだ。」
何でこの人はこんなに見透かした事を言ってくるんだ?
「航が用意してくれた場所で安心してないで、これを機にでも、自分で切り開いて行かないと駄目だと思うよ? この先ずーっと航と一緒ってわけじゃないだろうからね。」
美晴さんは前に回り込んで僕を見た。その目にはどこか優しいものがあって、その言葉はとても辛辣だった。メールにあった忠告という文字の通り、確かに・・・僕があえて目を向けずにきた部分を見事にえぐられた。
何故この人はこんな事を言ってくるんだ?
小さい時からあまり積極的では無かった僕にとって、幼稚園は怖い場所だった。
親と離れるのが不安で、最初のうちは泣いてばかりいた。しかし、そんな僕にあれこれちょっかいを出して、ガンガン話しかけてきたのが航だった。
年長に姉のいる航からすれば、歩きだした頃から通っている幼稚園は憧れの場所で、やっと自分も通う事ができるようになったのが嬉しくてたまらず、僕のように怯えているのが理解できなかったらしい。
航のおかげで家とは違う環境にも向かう事ができるようになり、僕達は当然のように仲良くなった。
そして、その関係は今もそのまま続いている。
航の側が僕の居場所で、その外に向かう事なんか、これまでまったくしてこなかった。
それどころか、思いもしない所で、僕が原因のようないざこざが起きていたり、距離を取った扱いを受ける事も多く、僕も自分から距離を置くようになった。
だから僕の交友関係は、ごく狭い。
いつも受身で、このままでは良くない事は理解している。
・・・でも僕はどうしたらいいんだ?
「まだ航兄ちゃんの事悩んでんの?」
夕飯を食べながら、妹が不満気な顔で口を開いた。
「それもあるけど、今は自分の事。」
「なーんだ、じゃぁ鬱陶しいから止めて。」
妹は冷たい視線を一瞬僕に向けて、テレビに視線を戻した。
そこに映るのはバラエティー番組で、最近は芸人ばかり目にする。
どこのチャンネルでも、どの番組でもあまり変わらないような気がして、僕は正直飽き飽きしてきているのだが、この時間のチャンネル権は、基本的に妹が握っている。
「お兄ちゃんもさ、たまには笑おうよ。」
唐突に妹がそう言った。目はテレビに向けたまま淡々と更に続ける。
「笑おうが悩もうが、過ぎる時間はどうせ変わらないんだよ? だったら楽しんだ方がいいって思わない? 悩んで悩んで、つまらない時間の使い方して損ばっかしてるのはもったいないと思う。」
妹はそんな考え方をするのかと、自分との違いに少なからずショックを受けていると、更に言葉が続いた。
「って、美晴さんが言ってた。」
・・・そこ、受け売りなのか。
「でも、私もそう思うよ。」
妹は僕を見た。
「お兄ちゃんは、もったいない事ばっかしてるから、私見てて苛々するんだから。」
睨むように・・・きっと長年の思いをぶつけられたのだろう。でも、僕には何も言えなかった。理佐の言葉は・・・受け売りの言葉は驚きの膜に弾かれて、まだ僕の中に染み込んで来ていない。
「ご馳走様!」
そんな僕の様子に妹は、苛ついた様子で自分の食器を流しに置いて、部屋を出て行ってしまった。
最初の頃の何となくの設定で聡太くんは、ちょっと腹黒目?
とか思ってたんですが、書いていくうちに本当に結構黒くなってきた気がして、ちょっとそこを・・・
それと、そろそろ引っ張り出さなきゃ!?
って、まぁ、いつも通り勝手に二人が動き出したんですが。
まさか、こんな事になるとは・・・書いててびっくり。
という事で、
あと2回、お付き合い下さいませ。