いつか大人になったら01 side Len
「…手話を取り入れたダンス…?」
ポカンと呟いたのは、作曲家兼プロデューサーのイオだ。
それもそのはず。
俺は歌うのを中止してから、1年が経とうとしていた。
ぼろぼろな声が変わってないと良いと思っているが、プロの道は簡単ではないからすぐに前の声質には戻らないだろう。
「…唄う…のか?」
歌えるのか、とイオはそう問いたかったに違いない。
でも、言葉にならない想いを伝えるには、俺には歌しかないから。
「俺にお前の音楽をくれないか?」
静けさが漂うレコーディング室には、俺とイオと、果琳。
果琳はあのまま連れてきてからというものの、初めての事務所に、初めてのレコーディング室で、仔犬のようにキョロキョロして可愛くてしょうがない。
そんな彼女を見たイオは、最初に少し躊躇ったものの、音が聞こえないと説明してからは、何か思案して眺めていた。
「彼女にあげたいのか? Lenの気持ちを」
今いる場所を確認するように、やつはじっと俺を見て聞いた。
分かりきっていることを聞かれるのは、あまり好きではないけど、聞かれるがまま縦に頷いた。
「Lenて、いつも俺の先を行くよね…」
ポツリとイオが呟いた言葉をこの時理解することは出来なかったけど、後になってイオの胸中を思い知ることになった。




