心ん中と表面上の自分01 side Len
お久しぶりです。
かなり短いですが、Lenサイドプロローグということで。
「なぁーLen。番組収録中ってなに考えてる?」
「え?」
それはイオがテレビに出始めて、ようやく世間にもイオの顔が認識され始めた頃。
「例えば~…」
「歌う事しか頭にない」
「やっぱまじめだな~…」
珍しく間延びしたイオの言葉に、俺は読みかけの雑誌を閉じて面と向き合って言った。
「じゃないと聴いてる人に失礼だし、自分が納得しないだろ?」
俺が眉間にしわを集めて言うとイオは納得したように頷いた。
一応、歌に関してはストイックな自分と自由に絡みあうイオの音楽が、歌うことを離れた最近になってやっと好きだと思えるようになってきた。
「俺はさ、」
思いに浸っていた俺とは逆に、今度はイオが眉間にしわを寄せて言葉をつむぎ始めた。
「たった一人に聞いてもらえたら、自分の音楽としては満足なんだよね。…って言ってもわがまま…なんだろうけど」
俯きがちな顔は少し疲れたように見えて、きっと俺とは違う仕事を今、一生懸命覚えている最中なのだろう。
聞くところによると最近では、海外のアーティストのプロデュースも手がけるようになって来て、プライベートの時間がとれずに、癒しとなる彼女と会う時間すらないのかもしれないと思った。
ただ、
「たった一人に…ね」
俺は、この仕事を始めてからそんなこと考えたこともなくて、ただ自分が気持ちよく歌えたら良いとか、究極の音楽を生み出したいとしか考えてなった。
「それは自分の歌をたった一人のために歌うってことか?」
考えればすぐ答えは出るはずなのに、俺は当たり前な質問をイオに投げかけていた。
「そうだよ? 俺はLenのように“万人のために歌う”ってことに慣れてないから、歌番とかに出るといつもどうやったらいいか戸惑うんだよね」
それなら彼女のために歌いたいし、と半ば呆れそうな答えが返ってきた。
彼女のため、オウム返しのように俺が呟くとイオは縦に激しく首を振っていた。
彼女と俺が声に出して思い浮かんだのは、やっぱり果琳だった。