音を捨てた日03 side 果琳
あたしはお父さんに知られないように、
そっと自分の部屋でお泊りの準備をして急いで家を飛び出した。
あれだけ信じていたお父さんが、自分たちが知らないところで裏切っているだなんて。
幼心にもそれは分かっていた。
お父さんがしていたのは、不倫と呼ばれる関係だって。
息が切れるまで走り続けた。
走る途中で何人もの人にぶつかった。
何人目かにぶつかった後、高校生くらいの人に嫌な顔をされた。
でも、そんなの気にしていられなかった。
頭の中の残像を、消し去りたかった。
だからかな……。
信号にすら気付かずに、走ってきた車に轢かれてしまったのは。
『おいっ、しっかりしろ……!!』
車に轢かれた時の記憶の片隅に、男の人の声がした。
でも頭が痛くて、目の前は涙でぼやけてて、よく見えなかった。
だからこのまま死ぬんだって、死ねるんだって、そう思わずにはいられなかった。
気がつけば、暗い道を彷徨っていた。
それから、世界に一人ぼっちになる夢を見た。
でもなぜかその時、1人だったけど、不思議と寂しくなかった。
ずっと、歌が聞こえてた。
辺りには聞こえない、頭の中に響いてくる歌が聞こえた。
その歌はあたしを光へ導くように、体を押してくれた。
けれど歌は、儚いんだね。
聴き続けていたい歌はいつの間にか消えてしまったから。