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Miracle Sound 【本編】  作者: 柏田 華蓮
第4章 触れた手のひら
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彩りピース07 side Len


 目の前の人物は自信満々に俺に言ってのけた。


「だからと言っちゃなんだけど、奏太にはこれまでの活動と、ちょっと違う事に挑戦してもらおうと思ってるんだ」

「違う事?」


 社長の言葉に俺はオウム返しに尋ねると、彼は嬉しそうに目に弧を描いて大きく頷いた。


「“Len”に、役者デビューしてもらおうかと思って」

「役者? それって、どう言うことですか?」


 眉を顰めた俺は、両腕を組み思案する。


「つまり、歌番組とかちょっとしたバラエティでのゲストに、今まで出演してもらっていたけど、奏太が歌いたくて歌いたくて歌いたくて、たまらなくなるまで、演技してもらおうかと考えている」

「……」


「俺は優しい方だと思うよ? お前が歌いたくて堪らなくなるまでって、期限を決めているんだから」


 社長が無言の圧力をかけるごとく俺に言って見せると、俺はため息をついてそれに返事をしようとした。


「Len! どう言うことだ!?」


 驚きを隠せないというような声音と同時に、今や見なれた奴の顔が突如会議室に現れた。


「歌、辞めるって、どう言う事!?」


 そいつは部屋にノックも無しに入るなり、俺の方へ鷲掴みする勢いで向かって問い詰める。

 俺と社長は驚きに茫然として、辞退を飲み込めないでいた。


「…イオ?」


 かろうじて出たのは奴の名前だけで、まだ頭の整理ができずに見つめた。


「デビューから一緒にやってきたのに、今更、どうして辞めんだ!?」


 必死こいた奴の顔をここで2度目に見れた俺は、なんだかおかしく思えて笑いを堪えるのに必死だった。

 いつもと違うイオの様子を見ていた社長は、事態を把握したのかにやりと冷静だった口元をゆがめていた。


「伊織、Lenが苦しいそうだ。手を放してあげて」


 俺は何も言っていないのに、社長は笑いを含める声でイオに注意した。


「え…? あ、ごめん」

「いや、別に。大丈夫だ」


 以前、俺がイオにバックバンドの助っ人演奏をするときに連れて来た彼女や、俺の前でも見せたちょっと眉根を寄せて必死子いた顔が俺にとっては何ともおかしなことだった。


「伊織。どこで聞いたの? その話」

「あ…、さっき田原んさんを見かけて、その時に歌番組以外のアポってどう取るのかって、高原さんに聞いていたから」


 それで…、と急に大人しくなったイオに社長は大きく呆れたため息をついた。


「田原も馬鹿だねぇー」


 頭を抱えるようにして、でもそれが彼の良いところだと言う社長は、顔をあげてイオの名前を呼んだ。


「Lenはね、ちょっとの間、歌手活動以外に挑戦してもらうことになったんだよ」

「え?」


 社長の言葉にイオは、意表を突かれたように彼の顔を見た。


「本当はずっと前からLenにドラマ出演の依頼が来ていてね…。本人も思うところがあったから、ちょうどいい機会だと思って、やってもらう事になった」

「…はぁ?」


 社長の言葉を聞いて今度は俺が意表を突かれ、2人を見ていた俺は声をあげて顔を見た。


「バラエティのレギュラー出演のオファーもOKしてしまったし、CM撮影とかこれまでに無いくらい忙しくなるから、イオには悪いけど当分の間アイドル歌手Lenはお休みっていう事で頼めないか?」

「え…でも…」

「伊織には自分の曲作成とか、海外アーティストの楽曲提供とかあるだろう? お前にはそっちに専念してて欲しい。ただでさえ、テレビ出演には不慣れなお前だから」


 笑顔でイオを言いくるめるあたり、俺は社長がイオに何も言わせないように事を進めていたんだと悟った。

 そうしなければ俺に楽曲を提供し続けるイオの納得を得られないと考えた末の結果だと思う。

 イオは自分で納得して今まで晒さなかった顔をテレビにさらしている。


「ちょうどいい機会なんじゃねーか? 俺が歌わなければ、お前自身の音楽の才能を最大限に表現・活用できるんだから」


 素直じゃない俺は、可愛くもなく年下のイオにまで皮肉を言ってのける。

 でも、コイツは皮肉を何んとも無しに、俺の目をまっすぐに見て言ってのけた。


「前にも言わなかったか? 俺の歌を“本当に”歌いこなせるのは、Lenだけだ」


 信じて疑わない…こいつの自信を俺はどうして信じられるというんだろうか?

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