彩りピース01 side Len
また、仕事に追われる日々が始まっていた。
愛想を振り続けるつまらない日常がたった一言で救われて、そしたら詰まんない仕事も楽しめばいいもんだなって、短い時間で実感しただけだ。
世の中の呑気な奴は、テレビの中で愛想を振りまいている奴に、自分の知らない人物像を作り上げて、イメージを押しつける。
ニコニコして金が入る凡人アイドルと一緒にしてくれるな、と何度思ったかもう忘れた。
この世に完璧な人間なんていない。
いるなら俺に見せてみろ。
そう思った時に、そう言えば…とたった1人の顔が浮かんだ。
この前の歌番組に出演してから、鰻登りでテレビの出演オファーが増えている奴だ。
イオ。
本名は芳我伊織俺の音楽プロデューサーで4つ下の後輩…と言えるのか言えないのか。
あいつは何に対しても完璧主義で、世の女性の王子様と言うべき存在だと思う。
俺は反対にそれとなくこなして、女性を敵視しているツンデレ王子だと世の中では思われているようだけど。
はあ。
最近では、イオと一緒に番組に出されることが多くて正直、俺の気持ちが揺らいでいる。
「俺、音楽の才能、無ぇんじゃねーかな……」
マネージャー田原さんの車での移動中にぽつりと呟きが漏れた。
すると運転中の田原さんは仰天した声を発して、焦りを見せていた。
「ええ!? お前、才能無いとか物騒な事を言うなよ!」
赤信号で車を止めると、ちらちらと俺の方を見て、心許無い声で俺に話しかける。
「IORと歌番出ずっぱりだからか? 先週もなんかヒス起こしてたよな!?」
年があまり変わらない田原さんは、何というか仕事の関係者だけど、友達みたいな感覚で話しをしてくれる。
それは俺があまり芸能界の中で社交的でないっていうのもあるけれど、とにかく気楽な感覚に今は救われている。
「元っちゃん…。もっと俺の話を聞いてくれ。マネージャーだろ?」
「言ってくれなくちゃ、聞くもんも聞けねぇっつの!」
バンバンと車のハンドルをもどかしそうに叩いているうちに、信号は青になり車を発進させる。
「『なんでそんな考えにたどりつくんだよー?』とか元っちゃん気の利いた質問もできないの?」
「おチャラけた風に言うから、聞いていいのか聞いちゃいけないのか、わかんないだろ? だいたい俺はLenのマネージャーだけど、すべてを知ってるって訳でもないんだぞ?普段の生活とか…色々」
「なに、元っちゃん俺と仲良くなりたいの?」
「そりゃ、マネージャーとして仕事がしやすくなるんなら、いくらでも! 個人的にも超興味あるしな!」
目尻に皺を寄せて言う田原さんは前を向いたままそう言った。
ただ、俺個人としては……
「俺、男に走る趣味なんてねーぞ」
げんなりとして助手席のシートベルトに寄りかかる。
「お前! 俺をおちょくってんのか!?」
『休みの日はひとりの人間に戻るの。』
あの子のたった一言が、今の不安定な俺の唯一の支えになっている。
「いや…、たださ。イオがいるんなら、俺は別に歌わなくてもいいじゃねーかって、そう、思っただけだ」
流れる夜の街の風景を見流しながら、自分の思いを声に出していた。
今は上手く歌える気が全然しなかった。
これが俺の初めての挫折だ。
Lenってアイドルとして致命的ですよね…(今さらながら)。てか本家掲載中の「キラリ。」との年齢あってるかも心配……。