音を捨てた日02 side 果琳
【R-18】
――あたしが10歳の時だった。
あたしは至って普通の家庭に生まれたと思っていた。
お父さんは、商社勤めのサラリーマン。
お母さんは、雑誌の編集者。
今時珍しくもなく、あたしが物心ついたころには、家族で立派な分譲マンションに住んでいた。
2人がどこで知り合ったかなんて、あたしには分からないけれど、それでも2年くらい前までは仲の良い家族だったと思う。
お母さんとお父さんは、いつからか毎夜毎夜大声で喧嘩を始めた。
寝る前に聞こえる、何かが壊れる音。
その音を聞くたびに、心の中の何かも壊れていく気がしていた。
完全に壊れたのは、そう遅くはなかった。
ある日、お母さんが急な仕事の関係で家を空けていて、自分もちょうど友達のユリちゃんのお家へお泊りに行く予定だった。
家にはお父さん1人。
大変なお仕事をこなすお父さんは、休日になると家に閉じこもる癖があった。
あたしはお父さんと公園で遊んだり、どこか遠くに連れてってもらったりしたことはなかった。
だから、いつものようにお父さんはお部屋で寝てる・・・そんな安心感がどこかにあった。
でも……。
玄関に置かれた花束に交じる、それとは違う香水の匂い。
お母さんとは「チガウニオイ」。
あたしたちがいない間に誰かお客さんが来ていたのかと思った。
頭の隅にそのことを置きながらも、あたしは自分のお泊りの準備をしに部屋へ向かったのが、運の尽きだったのかも知れない。
あたしの家には1つ客室がある。
商社勤めのお父さんにはたくさんのお友達がいる。
だから、時々お友達を呼んでパーティーとかもしていたから、その時にその客室が活用された。
自分の部屋へ行くには絶対にその客室を通らなくちゃいけない。
けれど、その時あたしは異変に気付いてしまった。
あたしはは聞いてしまったんだ。
客室のドアの隙間から漏れる、知らない女の人とお父さんが互いの体をぶつけ合う音を。
お父さんが一息漏らすたびに、女の人も艶やかな声を漏らす音を。
「ふんっ……ふっ……ふんっ…」
「あっあっ…あぁっ…はぁっん」
夢だと思いたかった。
今聞いてる音は、幻聴だと。
でも、現実はなんて残酷なんだろう??
「ふっぁっ…ねっ…ねぇ」
「んっ…ん、何だ?」
「本っ…とっにっ…奥さん、だいっ…じょっ…ぶ、なの?」
「ふんっ…今更」
信じていたものは、こうも簡単に壊れる、もろいものだなんて。
「俺はユカが一番だよ」
 




