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音を捨てた日01 side 果琳
辺りは音に溢れている。
それが当たり前すぎて気付かないくらいに。
辺りは光に溢れている。
それが当たり前すぎて気付かないくらいに。
辺りは色に溢れている。
それが当たり前すぎて気付かないくらいに。
「大変お気の毒ですが、娘さんの耳はもう……」
人の不幸を誰が喜ぶ?
人の不幸をどうやって量る?
あたしが不幸かどうかなんて、他人は分からない癖に。
「先生、どうにかなりませんか!?」
「これからずっと、音が聞こえないって事なんですか!?」
「あれらの騒音」を避けられる位なら――
「事故によって頭を強打されています。レントゲンを見る限り、脳の聴覚を司る部分に損傷があるため、難聴になった可能性が十分あります。ただでさえ、1か月の昏睡状態から回復されたんです」
「目が覚めただけでも奇跡だと思ってください」
――音なんか神様にだってくれてやる。