線引きの外側03 side 果琳
52インチのテレビ画面には大きくLenが映っていた。
けれど、ワイドショーで取り上げられていたのは、Lenの横にいた人物だったらしい。
「謎のプロデューサー兼歌手IORついに解禁!」って。
Lenの隣にいたIORって人は数々の歌手・アイドルに楽曲提供してきた人で、主にLen専任のプロデューサー…?…だったような気がする。
あたしは思わず、テレビと彼を交互に見るとその顔は更に不機嫌な顔になってしまった。
――なにかあったの?
そう携帯に文字を綴ったけど、彼には見せれなかった。
ただ険しい顔したとこを見たくなくて、思わず肩を叩いてしまっていた。
はっとした顔をして雑誌でみる「Lenの顔」に戻った。
無理してる…。
一瞬で悟った。
『休みの日までアイドルの顔しなくて良いんだよ?』
彼は文面を見て驚いていた。
『休みの日はひとりの人間に戻るの。そうじゃないと、壊れちゃう』
「何が」とは敢えて書かなかった。
書く必要が無いと思った。
『それは自分の経験上から?』
彼があたしの携帯にそう打った。
ただあたしは頷くだけ。
そして笑みを浮かべるだけ。
それで伝わるってなんとなく思った。
すると彼は、テレビに向かい合って、口を開いた。
「昨日、初めてイオの歌声を聞いた」
ゆっくり紡がれる言葉はあたしが読唇しやすいように動かされた。
「そして嫉妬した」
落とされた目線は、ガラステーブルの一点を見つめていた。
「俺の持っていない声質。 羨ましかった」
ちょっと顔をずらせば、あたしが言葉を読み取れない角度まで俯いて呟いていた。
ただ、あたしには励ます言葉すらいえなくて、どうしたらいいかわからなかった。
何も言えずに携帯を握りしめて、彼を見つめた。
「俺は自分で奏でる音楽に対して理想がある。 それを昨日、目の前でイオに歌われて、そしてレベルの違いを見せつけられて、悔しくて……やっぱり羨ましかった」
音を自発的に無くしたあたしには、音楽に関してとやかく言う資格なんてないと思う。
でも、ただ一言だけ。
『どうして羨むの? あなたにしか歌えない歌があるのに』
生意気な事を言ってしまったと思う。
穏やかな朝のリビングは、一気に氷点下へと気温を下げたんじゃないだろうか。
2人の間には沈黙が落ちてしまった(…元から沈黙だけれども)。
でも氷点下の沈黙はいとも簡単に破れてしまうのだ。
「IOR」という登場人物については、本家サイト掲載中の『キラリ。(完)』をご覧ください。