絶望の中の閃光06 side Len
あの手紙を見て以来俺は色々なことを考えるようになった。
どうして母親はあの手紙を書くことにしたのだろう?
それも、片手に余るほどの束を3つも。
そして、「永井 悟」という人物が母親とどういう関係なのか。
そうやってぼんやり、今日も一日だるかった授業を終わらせ、オヤジのところまでのろのろと歩いていた。
すると、急に小さな影がドンっと激しく自分にぶつかり後ろに倒れそうになる。
「痛って!!どこ見てんだよ……っ!?」
ぶつかってきた影に文句を言うと、俺は怒りを相手に訴えようとした。
しかし、
プォァップォァ――……ッ!!
ドン、と凄まじい音が辺りに響いた。
目の前でスローモーションのように、小さな影が空を飛ぶ。
そして、地面に落ちた小さな少女は辺りに血の海を広げていた。
「おいっ、しっかりしろ……っ!!!」
自分に呼びかけられた、血の海に沈む少女はうつろな目をして、声のした方向へ目を向ける。
そして、小さな手を伸ばして小さく呟く。
「どうして?」と。
それは残酷にも、俺が母親をはり倒して部屋を出たあの時と、
同じ言葉だった。
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少女が伸ばした手を俺は振りはらうことが出来ず、そのまま救急車で病院に搬送されて治療室に入るまで、ずっと俺の冷えた手は彼女に握られたままだった。
『どうして?』と呟いた姿が、忘れかけていた俺の何かを縛っていた。
事故に遭った少女とは何も関係ないけど、気になってしょうがなかった。
治療室の前の席で、俺は俯きながら母親の事がフラッシュバックされる。
すると、エントランスのところから、バタバタと騒がしい音が聞こえた。
血相をかけた女の人は、近くの看護婦さんを掴まえると、「む、娘は!?」と聞いていた。
「望月さんですね? 落ち着いてくださいっ! 現在、娘さんは集中治療室で治療中です。先生方が頑張っておられますんで、あちらでお待ち下さいっ!」
それを聞いたとたん、女性はあわてたように走ってきた。
治療室の前に立つと、「あぁ…っ!!」と声を漏らし地面にへたり込んだ。
その後ろでは、女性の旦那らしき人物が女性の肩に両手を置きあやしていた。
俺はその様子を見ながら、すこし彼女が羨ましくも思った。
そして、幾分か彼女が落ち着いたのだろうか、後ろにいた俺に気がつくと、訝しそうに俺に聞いた。
「あなたは…?」
母親と同じ歳か、少し下か。
半年ぶりに母親と同じ年のような女性と接して、俺は戸惑いを覚えた。
「あ、俺…、えっと…蓮見、と言います…」
俺は会釈をしながらそう言うと、女性も合わせて返してきた。
「あの、えっと…、事故の前に俺が街でぶらついてたら、ちょうどお嬢さんとぶつかってそれで、…彼女信号に気付かずにそんまま飛び出して行っちゃって、それで…俺、止められなくて」
今まで気がつかなかったけど、事故の時の場面を思い出すだけでも、手が凍りつくように冷えるのが自分でもわかるくらいに、驚いていたんだと思った。
それがわかるくらいに、冷静だと思っていた自分がこんなにもどもっている。
一言簡潔に説明すると、女性は両手を口に当てて涙を浮かべた。
「そう……」
嫌でも分かるくらいの悲しそうな声だった。