第七話 ブクマが三つ増えた
ギャグ小説を投稿してから、一週間が経った。
俺の手元に、こんな数字がある。
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【今週の数字】
ギャグ小説『俺の神作が読まれない。誰か教えてくれ!』
PV:197 ブクマ:4 感想:12件
第一作『聖女よ、奇跡を売るな』
PV:31 (先週まで:11)
ブクマ:3 (先週まで:0)
感想:2件 (先週まで:0)
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俺はこの数字を何度も確認した。
ギャグ小説の方が読まれている。これは想定内だ。短い。軽い。入口が広い。
問題は第一作の方だ。
ブクマが、0から3になっている。
感想が、0から2になっている。
先週まで、この数字はゼロだった。
ゼロというのは何もないということだ。反応も、読者も、接触も、何もない。
それが今週、動いた。
数字だけ見れば小さい。三と二。合わせて五。
だが、俺にはそれがどこから来たか分かっている。
ギャグ小説を読んで、第一作を探しに来た読者だ。
第一作への感想を読んだ。
一件目。
「ギャグから来ました。最初は笑うつもりだったのですが、普通に続きが気になっています。続き、読みます」
俺は少し止まった。
「続き、読みます」。
今まで来た感想は、その回だけで完結していた。「面白い」「分かる」「作者、生きて」。
それはそれで嬉しかった。
でも「続き、読みます」は違う。この先も来るという意味だ。
俺の小説を、まだ読もうとしている人間が今この瞬間存在する。
二件目を読んだ。
「作者さんがあそこまで苦しんでいた理由が分かりました。本気で書いてたんですね。ちゃんと読みます」
俺は三秒間、その文章を見た。
本気で書いてたんですね。
ちゃんと読みます。
この二文が、じわじわと来た。
「本気で書いていた」のは当たり前だ。俺にとっては最初から当たり前だった。
でも、その当たり前が、誰にも伝わっていなかった。
なのにギャグ小説を通して、初めて伝わった。
ずっと本気だったのに。
それが伝わったのは、直接書いた作品ではなく、苦しんでいる姿を笑いにした方だった。
理屈は、やっぱりよく分からない。
でも、届いた。
みのりにこの話をしたら、すぐ返信が来た。
「ギャグから来た人が本編も読んでるなら、それは入口が開いたってことじゃん」
「入口、か」
「そう。平沢さんの作品に入口がなかったわけじゃなくて、入口がどこか分からなかっただけ。今回、ギャグの方が入口になった。それだけの話」
「入口が変わっただけで、作品は変わっていない」
「そう。中身はずっとあったんだよ」
俺は何も言わなかった。
でも、その言葉がしばらく頭の中に残った。
中身はずっとあった。
入口がなかっただけ。
そう言われると、また少し違って見えた。
空回りしていたのではなく、入口を探していたのかもしれない。
それにしては遠回りすぎたが、見つかったのなら、まあ、いい。
その夜、俺はもう一度数字を確認した。
第一作のブクマ:3。
ブクマは三つ増えた。
たった三つ。
バズってはいない。ランキングにも入っていない。世界は変わっていない。
だが、その三つは、昨日までのゼロとはまったく違った。
ゼロは何もない。誰もいない。
三は、誰かがいる。
その誰かは、ちゃんと読んで、ブクマして、続きを読もうとしている。
数字の意味が、変わった。
俺はメモ帳を開いた。
第一作の続きを書く気になっていた。
今なら、届いていなかった部分が少しだけ分かる気がした。届いている部分も、分かった。
直せるかどうかはまだ分からない。でも、直そうとする理由が、今は前より明確にある。
問題は特定できている。
打てる手が、まだある。
俺はコーヒーを淹れて、椅子に座り直した。
ーーー
翌日、導に報告した。
「第一作に、初めての感想が来た。ギャグ小説経由で来た読者から」
「先週の段階で、第一作の感想件数は何件でしたか」
「ゼロだ」
「今週は」
「二件」
「改善の方向性が、ようやく読者に届いたようです」
俺は少し笑った。
導の言い方は相変わらず正確で、正確すぎる。
「引き続き、改善の余地は非常にあります」
俺はそれを聞いて、また笑った。
笑えた、ということが、少し意外だった。
まだある。
改善の余地が、まだある。
それが今夜は、悪くなかった。
ー完ー
まる助です。最後までお読みいただきありがとうございました。
『俺の神作が読まれない。誰か教えてくれ!』、これにて完結です。
本作は、読まれないことにもがく書き手の滑稽さと、それでも届けたい気持ちを書いた話でした。少しでも笑っていただけたなら嬉しいです。
次の作品は、2026年4月30日より投稿を開始します。
『師匠の小説は神作です。でもなぜか私の方だけ人気が出ました』
こちらは女性主人公の師弟コメディで、「届かなかった側」を別の視点から描いた、本作の鏡像のような物語です。
公開後は、作者ページの作品一覧から読めます。本作が少しでも引っかかった方は、そちらも覗いていただけたら嬉しいです。
改めて、最後までありがとうございました。




