第四話 最適な時刻に投稿したら、ダメな理由でPVが伸びた
タイトルは変えた。あらすじは、まだ格闘中だ。
だが今夜は、別の角度から考える。
投稿の「タイミング」だ。
俺は会社で分析の仕事をしている。
数字を見て、傾向を読み、施策を打つ。それが昼間の俺だ。
なぜ今まで小説にそれを適用しなかったのか。
盲点だった。
完全な盲点だった。
考えてみれば当たり前だ。
作品の質は変えられない。いや、変えようとはしているが、一朝一夕にはいかない。
だが、投稿タイミングは今夜から変えられる。しかも無料で、すぐに。
施策の優先順位としては、明らかにこちらが上だ。
俺はメモ帳を開いた。
まず仮説を立てる。
なろうのアクセスは、投稿直後の新着露出に依存する。
新着に出るタイミングで読者がサイトを見ていれば、クリック率が上がる。
クリック率が上がれば、初動PVが伸びる。
初動PVが伸びれば、ランキングに引っかかる可能性が出る。
ランキングに出れば、さらに読まれる。
構造上、投稿時刻の最適化は露出量の最大化と同義だ。
次に、最適時刻を特定する。
過去のランキング上位作品の投稿時刻を手動でサンプリングし、一般的なWebサービスのトラフィックパターンと照合した。
整理すると、こうなった。
―――
【投稿時刻別・読者在線傾向(推定)】
06:00〜08:00 通勤・通学層。流し読み多め
12:00〜13:00 休憩層。回遊率やや高い
20:00〜22:00 ピーク。全年齢が集中する
00:00〜02:00 熱心な読者層。ただし絶対数は少ない
―――
結論。夜20時〜22時が最適だ。
次に曜日補正を加えた。
―――
【曜日別トラフィック傾向(推定)】
月曜:週初め。やや低調
金曜:夜に向けてトラフィック増加。最良
土日:昼にも山ができる。機会が広い
―――
結論。金曜の夜21時が、もっとも投稿効果が高い。
俺は表を見つめた。
これが答えだ。
今まで俺は深夜に投稿していた。最悪の時間帯に。
それだけで損をしていた可能性がある。
問題は作品の質だけではなかったのかもしれない。
投稿時刻だったのかもしれない。
今週の金曜が、勝負だ。
ーーー
金曜、午後九時。
俺は更新ボタンを押した。
念のため確認しておくと、今日までに準備したことはこうだ。
・投稿時刻の分析:完了
・タイトルの微調整:完了(また少し変えた)
・あらすじの第六稿:完了
・本文の誤字チェック:完了
準備は完璧だ。
あとは結果を待つだけだ。
午後九時十五分。PV:2。まあそうだ。投稿したばかりだ。
午後九時三十分。PV:5。伸びている。
午後九時四十五分。PV:9。俺は小さくガッツポーズをした。
午後十時。PV:14。
確信した。
「勝った。今回は勝った」
データは嘘をつかない。
分析は正しかった。
ーーー
翌日、俺は導に報告した。
「昨夜、最適時刻に投稿した。PVが14まで伸びた」
「それはよかったです。ちなみに、以前の最高PVはいくつでしたか」
「11だ」
「三増えたわけですね。その読者は、どこから来たと思いますか」
「最適時刻の効果だ。新規読者が来た」
「確認していいですか。昨夜、タイトルも変更しましたね」
「……した」
「タイトルが変わると、既存の読者に通知が届く場合があります。その場合、PVの増加は新規読者ではなく、既存読者の再訪である可能性があります」
「……」
「昨夜PVが伸びたのは、最適時刻の効果ではなく、タイトル変更の通知によって、すでに少数存在する読者が『また変わっているのか』と確認しに来た、という可能性が高いです」
俺は三秒間、黙った。
「……その読者は、作品を読みに来たわけではないということか」
「読みに来た可能性もあります。ただ、主な動機は確認だったかもしれません」
俺はコーヒーを一口飲んだ。
「つまり、俺の挙動を観察しに来ている」
「そうなる可能性はあります」
俺は画面を見た。
PV:14。
ゆっくり考えた。
「また変わっているのか」と確認しに来る読者。
タイトルが変わるたびに、あらすじが変わるたびに、更新が来るたびに。
俺の迷走を、定点観測している読者が。
……それは、固定ファンと呼んでいいのか。
俺は少し青ざめた。
作品ではなく、俺の挙動に読者がついている可能性が、確実にあった。
問題は特定できている。
ただし、これは想定していた問題ではなかった。




