表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/7

第三話 あらすじを削ったら、別の何かが生まれた

タイトルの問題は、まだ解決していない。

だが今夜は、あらすじに取りかかる。


なぜそうするかというと、しるべに言われたからだ。


「タイトルの次は、あらすじです」

「あらすじに問題があるのか」

「読んでいいですか」

「どうぞ」


四秒の間があった。


「長いです」


そういうことだ。


現状を確認しよう。

今のあらすじは、これだ。


―――

異世界に転移したAIが、奇跡という名の超常現象を科学的に解析・体系化することで、聖女制度を中心とした神殿経済の構造に変革をもたらす。奇跡が「ありがたいもの」から「当たり前のもの」に変わるとき、聖女・神官・奇跡に頼って生きてきた人々の役割はどう変わるのか。AIがもたらした文明加速の光と影を、群像劇の形式で描く本格異世界ファンタジー。

―――


俺はこれを読んで、冷静に分析した。

正確だ。内容は全部入っている。説明の漏れはない。読めば分かる。


だが、長い。


では何を削るか。


「AI」――削れない。作品の核だ。

「奇跡」――削れない。テーマの中心だ。

「聖女制度」――削れない。構造の説明に必要だ。

「神殿経済」――これは削れる。説明が重くなっている。

「群像劇」――削れるかもしれない。


削れる箇所を落として、整えた。


―――

【第二稿】

異世界に転移したAIが奇跡を体系化することで、聖女制度に変革をもたらす。奇跡が「当たり前のもの」になるとき、人々の役割はどう変わるのか。文明加速の光と影を描く異世界ファンタジー。

―――


短い。すっきりした。

だが、何かが足りない。


足りないのは感情だ。

「光と影」では、痛みが伝わらない。


一文足した。


―――

【第三稿】

異世界に転移したAIが奇跡を体系化することで、聖女制度に変革をもたらす。奇跡が「当たり前のもの」になるとき、人々の役割はどう変わるのか。失われるものと、得られるもの。その痛みと希望を描く異世界ファンタジー。

―――


これだ。

これでいい。


――待て。


「聖女制度に変革をもたらす」では、誰が主役か分からない。

AIなのか、聖女なのか。

群像劇だから全員が主役なのだが、それが伝わらないと誤解される。


一文足した。


―――

【第四稿】

異世界に転移したAIが奇跡を体系化することで、聖女制度に変革をもたらす。奇跡が「当たり前のもの」になるとき、聖女・神官・奇跡に頼って生きてきた人々の役割はどう変わるのか。一人ひとりの選択と葛藤を通して描く、文明加速の痛みと希望。

―――


いい。

だが、「一人ひとりの選択と葛藤」では軽い気がする。

この作品のテーマは、存在意義の問い直しだ。

そこを補った。


―――

【第五稿】

異世界に転移したAIが奇跡を体系化することで、聖女制度を基盤とした社会構造に変革をもたらす。奇跡が「ありがたいもの」から「当たり前のもの」に変わるとき、聖女・神官・奇跡に頼って生きてきた人々の役割と存在意義はどう変わるのか。失う痛みと、それでも前を向こうとする希望。人が社会の変化に適応する姿を、群像劇の形式で描く、本格異世界ファンタジー。

―――


俺は一歩引いて、これを読んだ。


……第一稿に戻っていた。

いや、正確には第一稿より少し長かった。


ーーー


その夜、なろうの創作掲示板で、俺は春野みのりと初めてまともにやりとりした。

同じ時期に投稿を始めた書き手で、近況ノートのコメント欄で何度かすれ違っていた相手だ。

ダイレクトメッセージが来た。


「あらすじ、なんか苦しそうですね」

「苦しくはない。改善中だ」

「改善中の最新版、見せてもらえますか」


俺は第五稿を送った。


三十秒後、返事が来た。


「これ、面白そうな小説の説明じゃなくて、面白いと信じてる作者の苦悩だよな」


俺は反論しかけた。


違う。

これは作品紹介だ。

苦悩ではない。

構造を正確に伝えるために、必要な情報を――


途中で止まった。


もう一度、第五稿を読んだ。

長かった。

構造の説明が多かった。

誤解を防ぐための補足が、随所に入っていた。


――面白いと信じてる作者の苦悩。


俺は少しだけ、分かってしまった。


分かってしまったので、その夜はメモ帳を閉じた。


問題は特定できている。

ただ、今夜はここまでにする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ