表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

第二話 タイトルを最適化したら、何かが生まれた

PVが動かない。


投稿から五日が経過した。

現時点のPVは十一。

俺のアクセスを七回分引くと、実質四。

一日あたり〇・八人だ。


落ち着いて考えよう。

これは「伸びていない」のか、それとも「まだ伸びていない」のか。

区別は重要だ。


俺は分析した。

なろうの新着作品は、一日に何百本も投稿される。埋もれるのは当然だ。

問題は、埋もれる理由である。


作品の質ではない。

そこには絶対の自信がある。


ならば、問題は入口だ。


読者は入口で判断する。

入口とは何か。タイトルだ。

タイトルで引っかからない限り、本文は読まれない。本文が読まれない限り、面白さは伝わらない。面白さが伝わらない限り、PVは増えない。

構造上、タイトルはすべての入口だ。


そして俺のタイトルは――

『聖女よ、奇跡を売るな――AIが変える異世界文明加速論――』


……問題がある。


問題は、かっこいいかどうかではない。

何の話か、一瞬で伝わるかどうかだ。


冷静に考えると、これは一瞬では伝わらない。

三秒かかる。

なろうの読者に三秒は長い。


俺はメモ帳を開いた。

タイトルを、作り直す。



まず現状のタイトルを解剖した。

要素は三つある。


①「聖女よ、奇跡を売るな」

文学的。ただ、誰に向けた言葉か分からない。


②「AIが変える」

これは強い。時代性がある。


③「異世界文明加速論」

正確だが、硬い。


次に、目指すべき条件を整理した。


・短くて格好いい

・何の話か分かる

・流行要素が入っている

・作者のこだわりが死なない


これを満たすタイトルを作ればいい。

理屈の上では、簡単だ。


――二時間後。


四十個、書き出した。ふるいにかけた。

残ったのは五つだった。


【文学寄り】

『奇跡よ、終われ――文明が自立する日――』


格調がある。

ただし、何の話か分からない。

「文明が自立する」は俺には意味が分かるが、初見の読者には「?」だ。

入口として弱い。


【なろう要素全振り】

『チート転生AIが聖女制度をぶっ壊して異世界文明を最速で加速させた結果、世界の構造が変わった件』


分かりやすい。

非常に分かりやすい。

だが、俺の書きたいものとは別の何かになっている。

これは却下だ。俺の魂がない。


【スタイリッシュ版】

『ZERO MIRACLE』


かっこいい。

英語だ。二語だ。余白がある。

ただ、何の話かはまったく分からない。

SFなのか、恋愛なのか、ホラーなのか。

これは入口ではなく、壁だ。


【説明特化版】

『AIが異世界で奇跡を体系化したら聖女が職を失いそうになったが、それでも人々が前を向こうとする話』


正確だ。

内容は全部入っている。

ただし長い。

体感として、読み終える前に読者の意識が別の作品へ移動する可能性がある。


【全部盛り・最終調整版】

『聖女よ、奇跡を売るな――転生AIが文明を加速させ、奇跡が「ありがたいもの」から「当たり前のもの」に変わるとき、人は何を失い何を得るか。そのPAINとHOPEの百二十話――』


俺はこれを見て、少し間を置いた。


四つの条件を、もう一度確認する。

短くて格好いい――格好いい。

何の話か分かる――分かる。

流行要素が入っている――入っている。

作者のこだわりが死なない――死んでいない。


完璧だ。

論理的に、完璧だ。


俺は静かに呟いた。


「……少し長いか?」


画面を見た。

タイトル欄が、みっちり詰まっていた。

どう見ても「少し」ではなかった。


ーーー


その夜、俺はしるべに見せた。


「タイトルを改善した。これを読んでくれ」

「拝見します」


十秒の間があった。


「ご質問があります」

「なんだ」

「これはタイトルですか。それともあらすじですか」

「タイトルだ」

「タイトルにしては、内容が充実しています」

「全部必要な情報だ」

「そうですね。ただ、読者がタイトルを読み終える前に、別の作品へ移動する可能性があります」

「それは読者の集中力の問題では」

「そうかもしれません。ただ、タイトルの役割は読者の集中力を引き出すことではなく、引き止めることです」


俺は黙った。

論理的には正しい。

正しいが、腹の立つ正しさだ。


「では、どうすればいい」

「短くしてください」

「それだけか」

「まず、それだけです」


会話を終えて、俺はメモ帳を閉じた。

今夜はここまでだ。


明日また考える。

問題は特定できている。

打てる手はある。

それだけは確かだ。


――ただ一つ、今夜確実に言えることがある。


タイトルだけで息切れする作品が、完成した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ