ラブレター?
開け放った窓から流れ込む。
柔らかな風が薫る。
「よし、これで終わり」
ダンボールの蓋を閉じようとした手が止まる。
あっ。
私は薄い水色の手紙を手に取った。
高校の卒業式の日に靴箱に入っていたもの。
ボールペンで書かれた。
『相川菫様』
少し跳ねにクセがある文字。
私宛てだけど。
それしかなくて。
ラブレターかな?
なんて。
今どき珍しくて。
踊る気分もあったけど。
読むのも怖いような。
そんなので。
放っておいた。
「ふーっ」
立ち上がって。
机の椅子に腰かけた。
シュッ、シュッ。
ハサミが紙を噛んで。
その端がぽとりと落ちる。
開いた口に息を吹きかけて。
指で引き抜いた。
カサ、カサ。
四つ折りの便箋を広げる。
少し心がきゅっとして。
お尻をずらして。
姿勢をただした。
ゆっくりと視線を紙面に落とす。
『相川さんへ。
一年生の時、同じクラスになって、
君が自己紹介をした瞬間。
月並みだけど、僕の魂は君に吸い寄せられていたんだ』
わっ。
ラブレターだ。
魂だって。
大袈裟な気もするけど。
頬がむず痒い。
『しばらくの間、呼吸するのを忘れていたかもしれない。
君を見て感じたのは、こんなにかわいい子が世の中にいるんだってね。
とにもかくにも、制服姿もテニスウェア姿も。
下ろした髪も、ポニーテールも。
ループするんだ今でも頭の中を。
ああ、でもきもいかな』
ふふ。
確かに少しきもいかな。
でも、見てくれてたんでしょ?
かわいいんだって。
わ・た・し。
部屋には私しかいないのに。
誰かに見られてるような気がして。
辺りを見回して。
「ん。んんっ……」
咳払いをする。
どれどれ。
続きは、どんなかな……
『君の全部が、かわいくて。
友達と楽しそうに話す笑顔も。
空を見上げる物憂げな表情も。
君が東京の大学へ進学したら、もう会えないかもしれない。
直接言えない小心者だけど。
相川さんのこと、ずっと好きで大好きです』
わあ……
大好き……だって。
ほんわりあったかくなる心と体。
でも、誰なんだろ?
『金曜日、10日の12時。
お城が見える、あの橋の真ん中で待っています。
その時に返事してもらえたらって。
勝手な手紙で、ごめんね。
ただ、めぐり逢えたことには感謝しているよ』
ん?
「えー!? 名前ないじゃん!」
慌てて封筒を逆さにして振ってみる。
便箋を裏返したり。
透かして見たり。
でも。
どこにも。
名前はない。
嘘でしょ!?
書き忘れたの?
そんなことある?
告白しといて……
頬を膨らませて。
首をかしげる。
筆跡にも見覚えないし。
それに。
10日って……
明後日だし。
ていうか、誰?
ほんとに……
しかもあの橋って。
どこー!?
やばい。
気になってしょうがない。
頭をかきながら。
もう一度、読み返してみる。
うーん。
高校一年の時、同じクラス。
あとは……
うーん。
それくらいしかない。
返事も何も。
相手が誰か分からないのに。
答えようがないし。
書かれた場所も。
お城が見えるあの橋って。
この辺りの橋からは、だいたいお城は見えるし。
だめだ。
もやもやする。
「んー」
両手を挙げて伸びをした。
ふと外に目をやる。
うららかな陽射しの中。
桃色の花びらがはらりと舞っている。
その向こう。
青々とした山が堂々と裾を広げて。
その頂きには街の象徴たるお城。
見慣れた景色とも、もうすぐお別れか……
長良川の土手からも。
校舎の屋上からも。
ずっと見てきた。
ううん。
ずっと見守ってくれていたお城。
そうだ。
あの橋かどうかは分からないけど。
金華橋から見るお城もいいよね。
私はもう一度。
伸びをしながら。
大きく息を吸い込んだ。
甘く深く。
花と山とせせらぐ匂いが、胸に広がった。
お読み下さりありがとうございます。
感謝しております。




