朝食の時間ですよ
豪邸での食事が終わると、男女別々にされた部屋で、賢一たちは、シャワーを浴びたあと眠った。
そうして、朝が来ると、彼らは廊下に窓から景色を眺めながら話し合いを始めていた。
「浜辺には、複数の人影が見える? だが、彼らが生存者か? 生前の習慣で動いているだけの死者かは区別ができない」
「だなーー? こっからじゃあ~~! あの立っているのも、ビーチチェアに座っているのも、全部ゾンビに見えちまう」
「生存者でも、悪人でないなら助けるべきだが、そうでないなら、ギャングや私兵と見なす」
遠くに見える国道沿いを越えた先には、クリーム色の浜辺があり、波が揺らめいている。
そこには、賢一が呟いたとおり、小さな人影が動いていたが、彼は凝視することしかできない。
ダニエルは、そう呟きながら、シャドーボクシングを行って、体を解そうとした。
同じく、腕立て伏せを行い、ジャンも真剣な顔つきで、ストレッチをしている。
「メイスーも、俺と同じ地元民だから知っているだろうが? 私兵による自警団行動として、ギャングへの殺人事件は多かったし、一部の狩猟者による密猟も聞いている…………しかし、連中が敵となると厄介だな」
「私兵部隊は、訓練を受けているだろうし? 狩猟者は狩りに長けているだろうからか」
「それより来たぜっ! 入りな」
ジャンは、ここ数年間、新聞やテレビを賑わしていた私兵部隊とギャングの抗争などを思いだす。
その話を聞きながら、賢一は新たな強敵や武器、それに戦術を考慮しながら憂鬱な気分になった。
ゾンビとギャング達だけでも、充分に厄介なのに、そこに更なる強敵が加わるからだ。
そんな中、ドアをコンコンと叩く音を聞こえてきて、ダニエルが答えた。
「皆さま…………アーサーさまが食堂で、お待ちしています」
「分かった」
レオナルドに従い、賢一たちが廊下に出て見ると、すでに女性陣が待っていた。
「遅かったね、アンタたちっ! おはよう」
「おはようございますっ!!」
「ふぁ~~」
モイラとメイスー達は、朝の挨拶をすると、エリーゼは眠たそうな顔つきで、欠伸した。
「寝坊はしてないぜ? しかし、朝から元気でいいな…………こっちは、すでにヘタってるよ」
「ご飯を食べたら、またガッツが出るわよっ!」
「そうです、心配は要らないです」
「それよか、早く飯を食いに行こうぜ? 爺ちゃんも待ってるしなーー」
賢一は、ストレスがたまっており、昨日のように自分が切れるかも知れないと不安にかられる。
彼の前で、モイラは元気だせと力強く肩を叩いてきて、メイスーもガッツポーズをする。
腹を擦りながら、ダニエルは後ろで、レオナルドが待っていると、だるそうに話す。
それを思いだして、全員が口を動かすのを止めて、彼に視線を集めた。
「コホン…………では、みなさま? 行きますよ」
レオナルドは、ゆっくりと廊下を歩いていき、一階の食堂へと、皆を連れていく。
「ゴホッ! ゴホッ! 咳が止まらんっ!」
「喘息の薬だ、ここに用意して置くぞ、水は?」
「暑い…………」
「ぐたっているわね、経口補水液を持ってくるわ」
ある部屋では、ベッドに白人男性が横たわり、黒人の医師から水と薬を渡される。
別の場所でも、若い黒人が横たわり、白人女性看護師が、ペットボトルを持ってくる。
「昨日は、ドアが閉めてあって見えなかったが、本当に負傷者や病人を助けていたんだな」
傷病人が見えなかったのは、アーサーが自分たちを警戒しており、それで近づかないようにした。
そう考えながら、賢一は松葉杖を突いて歩く、黒人男性のために、道を譲る。
「おお、待っていたぞ? 食事を終えたら、武器は手入れしてあるから、外で受けとると良い」
食堂にくると、アーサーとバーバラ達が待っていた。
「さあ、ロングシログが覚めないうちに頂くとしよう」
「皆さん、遠慮なさらず」
タプシログとは、目玉焼き・甘辛い豚肉&牛肉・ガーリックライス等からなる料理である。
アーサーとバーバラ達は、柔和な笑顔を浮かべて、六人に食事を促す。
「アーサーさん? 朝から悪いが、俺たちは食べたら出ていく…………武器は返して貰うが、問題ないな?」
「私たちは、漁港にボートを探しに行くのだけれど?」
「漁港か…………多くの金持ちや漁師たちは、海に逃げただろう? だが、造船所には何か残っているかも知れない」
賢一とモイラ達の質問に、アーサーは天井を見上げながら思案しつつ答えた。
「そこは、フェルナンデス造船所と書いてあるから、すぐに分かるだろう」
「分かりました、そこへ行ってみます」
「貴重な情報を、どうもっ!」
アーサーから聞かされた場所に行くと決めて、賢一は黄色いガーリックライスを口に運んだ。
モイラは、礼を述べたあと、目玉焼きを噛みながら笑みを浮かべた。
「それじゃ、俺たちは行きますっ! 何から何までご厚意に甘えた上に、最初は誤解がありましたが、申し訳ありませんでした」
「いや、気にしなくていい? それにホテルの科学者から聞いたが、君たちだけは感染しないんだってな…………だから、多くの人間を救ってくれ」
頭を下げる賢一に、アーサーは力強い顔つきで、人々を救出するように頼んだ。
彼から見れば、感染症に強い六人は、絶望に対する救世主であり、逆に救いを求めていたのだ。
「はっ! もちろんですっ!」
「市民救出は、任せて下さいっ!」
「それが、我々の任務ですから」
「では、我々は下がる? また、何かあったら頼りに来なさい」
「またね、みんな」
賢一とモイラ達が敬礼すると、ジャンも慌てて、同じポーズを取った。
二人は、正規の軍人であり、彼も公務員である消防士だったからからだ。
「では皆さん、こちらへどうぞ? 部屋で休みますか? それとも出動しますか?」
レオナルドは、食事を終えたばかりの賢一たちを、食堂から連れていく。
「ああ、出ていくっ! ぐっすり眠れたから、休みは必要ないっ! みんなも元気そうだしな」
「それならば、武器は返却いたします…………車両に載せて起きましたので、そちらで確認をしてください…………では」
任務のために、早く出発したがる賢一たちを引き連れて、レオナルドは正面玄関に向かう。
そうして、玄関を出ると、彼は一礼したあと、屋敷の中に戻っていった。
「くあっ! よし、ピックアップは停めてあるな? 警備も大勢だ」
豪邸から出てきて、賢一は自分たち乗ってきた車両が、左側に並んでいるのを見つけた。
黄色い壁を見ると、裏側には長い木製の台があり、そこに様々な人間が立っていた。
「さて、出発するか? ん? 車が走ってくる」
「何だろうね?」
「何かしら…………」
豪邸の右側から、赤いバンが走ってくると、運転席から誰かが降りてきた。
賢一は、何だろうかと思って眺めると、モイラとエリーゼ達も首を傾げる。
「アンタ達、武器は要らないかい? パイプガン、弾薬? アサルトライフル、ナイフ、何でも揃っているわよっ!」
「武器屋か? ドラクエとか思い出すぜ、てか? 漁協事務所にも居たな」
「私は、FFの方です」
アラブ系の女性が、スライド式ドアが開いて、中に積み込まれた武器や弾薬を見せた。
賢一とメイスー達は、懐かしきゲームを脳裏に浮かべながら、商品に目をむけた。
「で、買って行くのかい? このマリク様が用意した銃やナイフは質が良いよっ!」
「パイプガンは既に持っているし、銃弾だって足りているが?」
マリクと名乗る女性は、とにかく品物を買わせようと、セールストークを始めた。
先を急ごうとする賢一は、面倒なので、ガンガン喋られる前に、断りながら歩いて行こうとした。




