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豪邸の晩餐会


 夕陽が暮れて、景色がオレンジ色に染まり、さらに時が過ぎていった。


 やがて、夜になると空が月明かりに照らされて、海が青く輝いた。



「ふぅ? 青い海か…………北海道の町を思い出す」


「北海道?」


 生暖かい潮風が吹いてくる中、窓辺に立ち、賢一はボケ~~と景色に見惚れていた。


 すると、後ろで、メイスーが何だろうと言うふうに呟いたため、彼は振り向いた。



「メイスー、居たのか? …………自衛隊は、災害派遣や訓練のために、南北間を年に一回は移動するからな」


「それで、北海道に…………アジアの北欧と言われる北の雄大な大地へ」


 賢一は、西部方面の普通科隊員だが、北海道には上陸訓練や野戦訓練などで何回も行っている。


 しかし、東南アジア系のメイスーは、日本に行くと言うだけでも強い憧れを抱く。

 


「アジアの北欧か? 親戚が住んでいるが、雪が降って大変だし、意外と夏は暑くてヤバイらしいがな」


「それでも、いつかは行きたいですっ!?」


 賢一は、メイスーが日本旅行を望んでいるのは、前から話していたため、知っている。


 だが、北海道の気候は厳しく、訓練や旅行などで何度も訪れている彼は、甘い幻想を抱きはしない。



「だから、連れていっ!? 誰ですか?」


「失礼します、夕食会の準備が整いましたので、皆様を食堂へと案内しに来ました」


 コンコンと、ドアを叩く音が聞こえてきたため、メイスーは少し驚いた。


 そして、彼女が誰かと問いただすと、執事のレオナルドが向こう側から話しかけてきた。



「メイスー、行こう…………ほらっ! ダニエル、ジャン、飯の時間だ」


「はいっ! 皆さんっ! 起きてくださいっ!」


 賢一とメイスー達は、眠っている他の仲間たちを起こそうとする。



「ふぁぁ~~~~? 朝か、今日は日曜日だから、朝から赤ワインの日だぜっ!」


「うん? 寝ていたか?」


「ZZ? …………ふぁぁ? …………ZZ」


「時間かい? いや、起きなよ?」


 小さなソファーに座ったまま、ダニエルとジャン達は寝むっていた。


 ベッドの上で、エリーゼは欠伸あくびしたあと、二度寝しようとして、モイラに起こされる。



「では、皆様? こちらにどうぞ」


 ドアを開けた面々を、レオナルドが出迎えると、廊下を通って、食堂に連れていく。



「来てくれたな? 隣に座っているのは、妻のバーバラだ」


「宜しくね…………坊や、それにお嬢さんたち」


 食堂にある長いテーブルの奥では、アーサーとバーバラ達が、賢一らを待っていた。


 彼女は、紫色のドレスを着ている落ち着いた非常に気品ある黒人女性だった。



「さて、料理が冷めないうちに食べて頂くとしようか? 飲み物は、好きな物をレオナルドに頼んでくれ」


「食べながらの質問になるが、そちらが射撃場に居ないのは何故だ?」


「それは、私たちも気になります」


 アーサーは、並べられた料理を前にして、ナイフとフォークを握る。


 風鶏バーベキューであるチキンイナサル、豚足の揚げ物、クリスピーバタなどが並べられている。



 白米を、スプーンで救うのかと思いながら、賢一は疑問を感じていたことを質問した。


 メイスーも、気になっていたらしく、取り敢えず彼女も聞いてみた。



「それは…………長くなるな? レオナルド、タンドゥアイ15年を頼む」


「旦那さま、畏まりました」


 アーサーは、高級ラム酒を、レオナルドに注文しながら語り始める。



「マフムード率いるサバイバリスト派と、私のレスキュー派で意見が別れたんだ」


「マフムード…………」


「聞いた名だな?」


 マフムードの名前を聞かされると、賢一とダニエル達は、整備工場を襲った連中を思い出す。



「ユンが撃たれたように、マフムード派は遠くに見えた人影は、見境なく射殺していた…………彼らは、密猟から殺人まで行っていると言う噂も絶えなかった」


 疲れた顔で、アーサーは語りながら、グラスに注がれるタンドゥアイ15年を眺めた。



「私と妻たちも、射撃場に併設されたリゾートホテルに避難していた…………だが、マフムード派の半数が、整備工場に現れたと言うギャング達の討伐に向かった」


 テーブルを左右に座っている賢一たちに、真剣な顔で、アーサーは経緯を語る。



「結果、手薄になってしまった射撃場は、私兵部隊に襲撃されてしまったのだ…………我々は混乱の最中、ホテル側から自動車で、この場所まで逃げてこれたがね」


「アーサーが指揮を取って、子供、病人、負傷者や職人たちを逃がしてくれたのよっ!」


 アーサーが語り終えると、バーバラは夫をヒーローだと言わんばかりに、誇らしげに話す。



「じゃあ、射撃場は? どうなったんだ?」


「もう、武器は残ってないのかしら? あったら、取りに行こうかしら?」


「我々が、車に乗って去る際に、大爆発が起きた…………恐らくは、私兵部隊に略奪され尽くした跡になっているだろう? また、警備員たちが残っているかも知れない? だが、どちらも敵だな」


 賢一とモイラ達の質問に、アーサーは目を閉じながら、戦闘時を思い出しながら答える。



「分かった? 今日は、警備員を殺害したんだが? どうやら、マフムード派の残党だったらしいな」


「まだ、生き残りが居たのか? 紛らわしいから、私の警備員たちは屋敷の防衛に回しているんだ…………それに、リカルド見たいな私服の者たちを偵察やパトロールに出しているんだ」


 賢一の話を聞いて、アーサーは、驚いた表情を浮かべたが、すぐに平静さ取り戻す。



「ギャアアーーーー!?」


「ガウッ! ガウッ!」


「うわっ!」


「きゃあっ!」


「何なんだ? 武器を持っていかないと」


 豪邸の中にまで、外からゾンビや野良犬による吠え声が響きわたる。


 賢一とメイスー達は、焦りまくり、ダニエルはナイフとフォークを握りしめたまま立ち上がる。



「感染者だな? なに、心配は要らない…………こちらには罠や防衛設備が整っているかな」


「ふぅ? それなら、安心できるな」


「アーサー氏に質問するが、ここは病人や負傷者を受け入れていると聞いたが? そう言った人物たちを見つけたら、ここに案内しても良いでしょうか」


 ゾンビ達が、大きな奇声を発しても、アーサーは平静さを保ち、フォークで肉を口に運ぶ。


 ジャンは、この地域で救出活動をするなら、一番近い、ここが良い避難場所になると考えた。



「負傷者が、感染していなければな? 人によって、その度合いや感染方法が違うと聞いたから何とも言えないが…………元より、その積もりではある」


 そう呟きながら、ジャンが願い出た救出活動に、アーサーは協力すると答えた。



「まあ、細かい話しは明日にしよう? 私と妻は、仕事に戻るとする…………外出は許可できないが、屋敷の敷地内なら好きにしてくれていても、構わない」


「アーサー、行きましょう…………」


 アーサーは食事を終えると、妻であるバーバラの車椅子を押しながら下がっていった。


 こうして、賢一たちも食事を終えたあと、何もすることは無くなり、部屋で就寝するしかなかった。



「アーサーさまから、貴方たちの敷地内の散策は許可されましたが? 夜風は体に悪いので、就寝することをお勧めします」


「昼間の部屋でも、監禁とまでは言わないが、トイレ以外は、あんまり出られなかったな」


「廊下も、何人もの見張りが歩いているしさっ?」


 レオナルドが来ると、賢一とモイラ達は、愚痴りながら歩いていく。



「済みません、非常自体ですので」


 頭を下げながら、レオナルドは静かに答えると、賢一たちを連れて、再び部屋まで連れていった。


 廊下には、昼間と同じく、生存者や警備員たちが銃を構えながら巡回していた。

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