豪邸への案内人
モイラは、コルト45を発砲しながら怒鳴ったが、銃声を聞いた何者かは、すぐさま反応する。
右側に曲がった奴は、狭い路地裏を、ゴミバケツや樽を転がしながら、駆け抜けていく。
「待ちやがれっ! 何者だっ! 警備員の仲間かっ!」
賢一は、走りながら怒鳴り、何者かを捕まえようと、必死で追いかける。
「あっ! 待ちなっ! 追うよっ!」
「おいっ! 止まれっ!! 止まれってんだ」
「怪しい奴めっ!」
「あ、ちょっと…………待って下さいっ!」
モイラも奴を追いかけ、ダニエルも走り出し、とにかく何者かを捕らえようとする。
当然ながら、ジャンも素早く動き、メイスーも遅れまいと必死で走ってゆく。
「この野郎ーー! なめるんじゃねえっ! 逃げやがったら、その舌あ~~引っこ抜くぞっ!」
「…………は」
賢一は、北野映画なみに罵声を浴びせるも、頭巾を被った何者かは、ひたすら走り続ける。
「ぐあっ!」
「はい、残念でした」
そんな中、左側の路地から何者かは、ラリアットされるように足を、サップで叩かれてしまった。
当然ながら、痛みに悶える奴に、エリーゼは冷たい視線を向けて、小さく呟きながら見下ろす。
「エリーゼ、助かったっ! 回り込んでいたのか」
「そう、たんに追いつくより、待ち伏せを仕掛けた方が楽だからね」
何とか追いついたことで、賢一は何者かの体を、すばやく取り押さえながら、エリーゼに感謝する。
「さて、それより、この男をどうする? 撃つか? 刺すか?」
「それとも、ゾンビの餌にしようかしら?」
生かしておいては、自分を殺すだろうと考える賢一は、背後から何者を睨みつける。
エリーゼは、相手を冷たい目付きで見つめながら、サップを鞭のように振るう。
「…………ま、ま…………待て、俺は警備員や私兵じゃない?」
「じゃ、何なのかしら?」
何者かは、流石に不味いと思ったのか、上を向くと、話しをはじめた。
よく見ると、コイツが白人男性であることが分かり、エリーゼは顔色を変えずに尋問を行う。
「グュア~~」
「ウアア」
「ここは安全じゃないね? いったん、ピックアップに戻りましょう」
「そうしましょうっ! ここは不味いですっ!」
「オラオラッ! さっさと、歩けってんだっ!」
「逃げられると、思うなよ? 民間人は撃ちたくないが、悪人なら赦さん」
ゾンビ達の鳴き声を聞いて、モイラは真顔で、壁に張り付きながら呟く。
不安気な表情と声色で、メイスーも彼女の案に賛成しながら、キョロキョロと視線を動かす。
周囲を、アンデッド集団に包囲される前に、ダニエルは、白人男性を後ろから押さえながら歩く。
ジャンも、奴が逃げられないように凄みを聞かせて、レストランの方へと、足早に向かう。
「…………で、お前は誰なんだ?」
「リカルド、雇われの整備士だ、運転手も兼ねた」
ピックアップを止めた場所まで戻ってきた賢一は、特殊警棒を何者かの首に向ける。
そうして、ギロりと睨みながら尋問すると、奴は焦った顔で名前を答える。
「俺は、ただ食糧探しに出歩いていただけだっ! 俺の雇い主は、射撃場グループから離反しているっ! 着いてきてくれたら、安全な場所まで案内する」
「その話し、信じられないな? コノヤロー、嘘ついてんじゃないよな」
「どうやって、信じればいいんだい? 本当は警備員の仲間なんじゃないかしら…………」
リカルドの胸ぐらを掴みながら、賢一は十四年式拳銃を眉間に突きつける。
コルト45を構えながら、モイラも尋問に加わり、真剣な表情で、引き金に指をかけた。
「頼む…………安全な場所まで、案内するからっ! 殺さないでくれ」
「さっき、射撃場のグループと撃ち合ったんだよ? 連中、老人を平気で撃ち殺したわ」
リカルドの頭に、モイラは斜め上から、コルト45を突きつけて、グリグリと皮膚や髪をこする。
「お前、ガタガタ言ってると、ブチ殺すぞっ! このやろうっ!」
「ウオオーー!?」
「グルアア~~!!」
賢一は、堪忍袋の緒が切れているらしく、怒鳴り散らしながら、凄みを効かせる。
彼は、長引く戦闘と、さっき救出したはずの警備員たちから攻撃されたことで、プッツンしていた。
だが、そこへゾンビ達の大集団が、四方八方から現れたことで、事態は一変した。
今度の群れは、先ほどと違い、ウォーリアー&スピットゲロー達が混ざっている。
「不味いな? 敵が来たぞっ! 数が半端ないっ! 賢一、モイラ…………逃げるぞ」
「だいたいのアイテムは回収できたわっ! もう逃げましょう」
「ひぇぇ~~!? 賛成です~~とっとと、逃げましょーーーー!!」
九九式軽機関銃を、敵が多い方向に向けて、ジャンは腰だめで撃ちまくる。
荷台後部の鉄板を、エリーゼは掴んでから、ジャンプして飛び乗り、MP28を乱射する。
メイスーも、運転席まで走っていくと、エンジンを急いで始動させる。
こうしている間にも、特殊ゾンビを含む、アンデッド達の大群は、彼らに突撃してくる。
「な、なあ? 安全な場所に案内するって、言っただろう…………そこまで行けば、あのゾンビに怯える必要はないぜ?」
「信用できん、ここに置いていくっ!」
「賢一さん、それは…………? 連れていって、上げましょう」
懇願するリカルドの頼みを聞いても、賢一は顔面を殴って、冷酷に捨て去ろうとした。
だが、そう思っていた瞬間、メイスーがドアを開けながら叫んだため、彼はハッとなった。
「メイスー…………仕方ない、はやく乗れっ!!」
「助かったああ~~」
「乗ったか? じゃ、出すぞっ!」
迫る驚異を前に、賢一はピックアップの荷台に飛び乗りながら、リカルドを引っ張りあげた。
ダニエルは、トンプソンを座席から撃っていたが、彼が飛び乗るとともに、車を急発進させる。
「こっちに乗ったのね? まあ、いいわ」
「ああ、だが、どっちでもいいだろ」
「なあ? 撃つなよ? このまま、真っ直ぐ行ってくれ」
「罠じゃねーーだろうな~~」
「ウグィィ~~!?」
クールな表情を崩さず、エリーゼはMP28を撃ち続けて、追いかけてくるゾンビ集団を倒す。
賢一も、リカルドの顔に、十四年式拳銃を向けながら掠れた声で呟いた。
ダニエルは、運転しながらゾンビの群れを引き殺して、ピックアップを段々と加速させていく。
アンデッドの軍団は、車の速度には追い付けず、交差点を曲がられると、やがて彼らを見失った。
「罠じゃない、罠じゃないってばっ!」
「だったら、その時は? …………分かってるわね」
「……………………チッ!」
リカルドは、右側に立っているエリーゼから、MP28の銃口と冷たい視線を向けられる。
左側からも、賢一が睨みつけながら、十四年式拳銃を腹に押し付ける。
「おい? いい加減に殺意を向けるのを、止めてくれないかっ! あの場所に居たのは偶然だし、食糧を取りにいっただけだ」
一人は、冷酷な雰囲気を放ち、反対側からは真っ赤な鬼のような顔が殺気を醸し出す。
そんな空気に耐えられず、リカルドは口を開いて、ペラペラと喋りだした。
「もうすぐ、住宅街を抜けるな? 向こうに見える黄色い壁の豪邸が、安全地帯だ」
リカルドが、指差した右側には、オレンジ屋根の黄色い豪邸が、丘に立ててあった。
「なんだ、あの丘に行けばいいのか」
「そうしてくれ」
ダニエルは、カーブした道路を通り、リカルドの支持に従って、取り敢えずは進んだ。
そうして、豪邸に着くと、窓からキラッと何かが光るのが一瞬だけ見えた。
「スナイパーだっ! このやろう、罠に嵌めやがったな」
「わーー!? 待て、待てっ! 撃たないでくれーー!?」
「撃たないと思うのかしら? あちらさんも、私たちもね…………」
スコープに反射した光を、賢一は見逃さず、リカルドの胸ぐらを掴んで、こめかみに銃口を当てる。
その間、窓に向けて、いつでも機銃掃射できるように、エリーゼはMP28を構える。
豪邸の前で、ピックアップが止まると、ダニエルは両手をポケットに突っ込む。
そこに隠しているベレッタ98を引き抜きながら、窓越しに相手を撃つためだ。
「おい? 撃たないでくれーー! 一応、助けて貰ったんだ? 頼むよ?」
リカルドは、豪邸に向かって、叫び声を上げると、黄色い塀の正門が左側に動いていく。
潮風が吹くと、賢一たちの髪が揺れ動き、余計に神経を刺激して、緊張感が高まる。
「リカルドを撃ってみろ、お前ら、全員を殺すっ!」
「ギャングめっ!」
「やっぱ、警備員の連中じゃねぇか? ああ?」
「いや、違っ!?」
「待ちたまえ、話し合いをしようじゃないか」
塀の上から、白人生存者や黒人警備員たちが飛び出てきて、こちらに銃を構えた。
二人だけでなく、他にも二十を越える人数の警備部隊が、賢一たちを狙う。
弁明するリカルドだったが、一触即発の事態は、彼には変えられない。
しかし、そこに護衛を連れた初老の黒人男性が現れると、笑顔で説得しようとした。




