狙われた自動車整備工場
賢一とメイスー達は、二人並んだまま、何とも言えない気まずい雰囲気で、ボンネットに座る。
「ふぅ? メイスー、俺の爺さんは日本兵として、この辺りにある南の島に来ていたらしい? ただ、どこの島かは知らんがな」
「賢一さんのお爺さんが…………私の場合は、祖父の家系が日系でした」
黙っていても、仕方がないため、賢一は前にも話した同じような自身の家系について話しだした。
メイスーは、それに耳を傾けながら、深く息を吸い込み、彼女も少しだけ呟く。
「ああ…………村の親戚や仲間たちとともに志願してな? 戦後は色々あって、故郷が嫌になったから? 日本兵に紛れながら、本州に来たらしいが? そっちは? たしか…………」
「こっちは、祖父母の代から日本は、エリート層で憧れでした…………ただ、父は若い頃に仕事を探して、シンガポールに行って、母と出会いました」
賢一とメイスー達は、二人とも共通点である自分たちのルーツに関して語る。
彼等は、日本・中華・アジア太平洋などの共通点が持っているからだ。
「賢一さんと私は同じアジア系ですっ! 私から見れば、東京や北海道は夢の国ですっ! いつか、絶対に日本に行きますっ! 行きたいですっ! だから連れていってくださいっ!!」
「そ、そうか? じゃあ、まずは生きの…………」
「大変だっ! 負傷者を発見したっ!」
メイスーが興奮すると、賢一は少しだけ驚いたと同時に、その熱意に感心する。
それから、彼女が抱いているであろう密かな思いに関しても気がついた。
と、考えていた時、ジャンが誰かを背負い、工場の中を駆け抜けてくる。
その負傷者は、カートに座らされて、血を流している左肩に手を当てている。
「何があったんだっ!? この男は?」
「大丈夫ですかっ!?」
負傷者を前に、賢一とメイスー達は、慌てながらも手当てをするべく近づく。
「ああ、俺は大丈夫だっ! 噛まれたワケじゃないっ! 金持ち連中に撃たれたんだっ! いつも、自動車の修理を受けつけていたのに…………」
「負傷者の救護に、包帯が必要だっ! ここには無いのか?」
灰スーツ姿の負傷者は、アジア系らしく、どうやら痛みを堪えながら話せる程度には元気なようだ。
ジャンは消防士であるため、こう言ったことに慣れているらしく、冷静に対応しようとする。
「救急箱が、事務所のロッカーにあるっ! 持ってきてくれ」
アジア系の男性は、左肩を押さえながら、事務所がある方角を指差した。
「場所を知っているのは、ここの従業員だからか? 傷の方は、肩に当たっただけだから、死ぬことはない…………とりあえず、落ち着け」
「ああ、弾が綺麗に抜けているな?」
「そうか、あたた…………? 俺は事務員なんだっ! 痛たたたた…………」
負傷箇所である左肩を、賢一とジャン達は、丁寧に調べながら銃創を確かめる。
うつむいてから、アジア系の男性は、安堵したらしく、溜め息を吐いた。
「はあ、はあっ! 持ってきたぞっ! 救急箱だっ!」
「よし、包帯を巻いてやる」
「これで、助けられますねっ! 良かった」
白人ギャングが走ってくると、両手に抱えられた救急箱を、ジャンに差しだす。
メイスーは、かなり焦っていたらしく、それで黙っていたが、彼が無事だと分かると呟く。
「お前、ここの従業員か? 俺たちは、ここを借りているんだが、文句は無いな? みんな難民なんだ」
「ああ…………俺は、持ち主の社長じゃないしなっ! 名前は、ユンだっ! 普段は事務所の中で座ってたんだよ」
賢一が質問する間、ユンは左肩に消毒液をかけられたあと、包帯を巻かれていく。
「ユン? 負傷しているんだから、安静にしていろ? そのあとは好きにしていい」
「そいつは助かるぜ、なら少し休ませてくれ」
「賢一、ちょっといいかい? エリーゼが呼んでいるんだよっ! そこのギャング連中、アンタ達も来てくれっ! そっちの連中は正面に回ってくれ」
手当てが終わったので、賢一は苦しそうにしているユンを気遣うと、彼は背中をカートに預けた。
ようやく、一大事が終息したと思った瞬間、スポーツカーの間を、モイラが駆け抜けてくる。
「いったい、何なんだ? 騒々しい」
「もしかして、敵襲かしら」
「あの警備員か? それとも、右派の私兵部隊かもね?」
「どっちでもいい、戦うだけだ」
黒人ギャングは、M1カービンピストルを抱えながら、整備工場の裏手に走っていく、
ラテン系の女性ギャングも、ショルダーバッグから、トマホークを取り出しながら後を追う。
両手に、CF98を握りながら、アジア系の女性ギャングは正面大門から飛びでていく。
ラテン系のギャングも、M1ガーランドを肩に担ぎながら、表に面した敷地内へと急ぐ。
「どうやら、厄介ごとのようだな? やれやれ?」
戦闘になるだろうと予測して、嫌そうな顔をしながら、賢一もギャング達を追ってゆく。
「賢一さん? 私も…………」
「そうだな? メイスー、君も一緒の方がいい、だが気をつけてくれっ!」
不安がるメイスーを、賢一は心配して、一緒に着いていかせることに決めた。
工場内は、安全ではあるが、それでも一人にするよりかは、護衛していた方が彼女を守れるからだ。
「エリーゼ、敵の様子は? 何人くらいだっ!」
「見える範囲だと、五人くらいね…………でも、まだ動いているわ」
賢一は、窓を見上げ、工場の金網通路に立ち、カメラを握るエリーゼに声をかけた。
彼女は、レンズ越しに何人かの敵兵を発見して、ズーム機能を調節しながら観察を続ける。
「場所は、どの辺りだ? 距離と位置を、だいたいで良いから教えてくれっ! こっちは待ち伏せの準備をするっ!」
「待って…………距離は40メートル、あの赤屋根の邸宅からくるっ! 他は左右から来ているわ」
裏側の大門左側に、身を隠しながら、賢一は頭上で、監視を行うエリーゼと話しあう。
二人は、緊張感を高めながらも、冷静に敵の移動経路を予測して、待ち構えようとする。
赤い屋根の邸宅では、警備員たちが自動小銃を構えている姿が確認できる。
その左右にある森でも、連中が木々に紛れて、こちらに近づいて来ていた。
「左側の道路沿いにある森から、来るわね? そろそろ、私も? うわ…………」
「エリーゼッ!?」
「どうしたんですかっ!」
カメラを下げた瞬間、エリーゼを狙って、長距離から狙撃が行われた。
賢一とメイスーたちは、撃たれた彼女を心配して、思わず叫んでしまった。
「大丈夫よ? もう少しで、耳が吹き飛ぶところだったけどっ! それより、くるわ」
エリーゼは、かなり運が良かったらしく、狙撃で殺される事はなかった。
そして、反撃のために、MP28だけを頭上に掲げて、窓から弾を乱射した。
「始まったか? お前ら、あの家に向かって、集中砲火しろっ! 森の方にも気をつけろよっ!」
「うぎゃっ!?」
「あわわっ! きゃあっ!?」
双方が、一斉射撃を始めると、賢一は指示を出したが、それをギャング達が聞いている暇はない。
工場の裏手で、両側に設置されたドラム缶を盾にしている彼らは、ただ慌てるしか出来なかった。
たちまち、左側ではアジア系のギャングが、胸を撃ち抜かれてしまい、絶命する。
右側では、太平洋系の女性ギャングが、慌てて身を低くしたが、頭を撃たれてしまった。
一気に、攻めてくる敵を迎え討たんとしていた賢一たちは、機先を制されたため、形成不利に陥る。
「これは不味い、迂回してくる連中にも対処しなければっ! メイスー、撃ちまくるぞっ!」
「は、はいっ?」
賢一は、CF98を両手で構え、メイスーはM1カービンで狙いを定める。
二人の射撃は、邸宅を狙って行われたが、向こうも激しい機銃掃射をしてきた。




