自動車整備工場での話し合い
乗用車、二台のピックアップ、トラック等からなる車両部隊は、草原に囲まれた工場を目指す。
それは、まばらな家屋に囲まれた中心に、ポツンと一件だけ立っていた。
「あの赤い屋根の体育館みたいなのが、そうらしい」
「ゾンビは居なさそうだね?」
「一先ず、休める場所があって、良かったな? これで、避難民も落ちつける」
三角屋根の建物を横目で、賢一は見ながら呟き、ピックアップを走らせる。
曲がり角にある事務所を、通りすぎる際、モイラとジャン達も、そちらに視線を集中する。
「着いたな?」
整備工場の正面ドアは、開かれており、中に人間が入られるようになっていた。
賢一たちは、ピックアップを敷地内の脇に停めると、中に向かっていく。
「お前ら? 何人か、見張りを残しておけ? あの事務所にな? こっちは、リーダーと話がある」
「後ろ側にも、見張りを何人か配置するのよっ! 襲撃されるかも知れないから? 工場内の鉄板とかは遮蔽物になるから、持っていくといいわ」
「わ、分かった…………」
「急がなきゃ」
自動車整備工場の中に入る前に、賢一とモイラ達は、ギャング達に指示をだした。
ラテン系のギャングは、急いで走りだし、白人女性ギャングもあとを追っていく。
「さて、ギャングリーダーの話を聞こうか?」
「俺は、代理リーダーではある…………だが、ギャングじゃないっ! 休暇中だった、ただのビジネスマンだ」
「私だって、会計士事務所の職員よっ! この混乱の中で、彼らと合流しただけよ」
賢一は、正面の大門から中に入るとともに、マヌエルとアリアニー達に話しかけた。
中は広く、赤や紫色のスポーツカーが並べられていたり、エアタンクや工具箱などがある。
「なるほど? 通りで、ギャングらしくない見た目なワケだ」
「彼らのリーダーは? ゾンビに食われたのかい?」
「あるいは他のギャングに撃たれたか…………」
「いや、俺が合流した頃は、集団がゾンビに襲われていてな? リーダーは、その前に殺られていたらしい」
「私も、助けて貰ってからの副リーダーだから、それ以前の状況は知らないのよ」
コンクリート床を歩きながら、賢一は工場の中心で、後ろに振りかえる。
モイラは何があったと問い、ジャンも眉間にシワを寄せながら呟いた。
三人に対して、マヌエルはギャング達を率いるようになった経緯を、疲れきった様子でつぶやく。
アリアニーも懇話したまま、首と手を左右に降って、残念そうに語った。
「ソイツはぁ~~分かったが? ギャング連中は警備員に撃たれたんだぜ? どうなっているんだ? まさか、お前らから先に襲ったんじゃねぇのか?」
「あの老夫婦も、撃たれてしまったわ…………」
「民間人を襲うなんて、最低な奴らだっ! こう言う時こそ、助け合わなければ成らないのに」
ダニエルは、疑問に思っていたことを聞いてみると、エリーゼも焦燥した顔で呟く。
「私たちも、さっきの探索では銃撃を受けたわ、彼らは自衛のためなら、誰でも殺すのよ」
「ここから離れた場所には、金持ち所有のリゾートビーチがある…………警備は厳重だし、連中はスラムの人間を好ましく思ってないんだろう」
アリアニーは、苦虫を噛み潰したような表情で、さっきのことを思いだす。
暗い表情で、うつむきながら、マヌエルは近くの黒いピックアップに背中を預けつつ答えた。
「まあ、だいたいの状況は分かったな? 俺たちも、ここの拠点化には協力するっ!」
「皆さんに、私たちの食べ物を分けましょう…………そろそろ、お昼の時間? 子供や老人たちが、お腹を空かせるでしょうし?」
「ここは宇宙人の基地だ~~」
「悪い宇宙人が、やってくるぅ」
「ふぅ…………」
休める場所が必要だった賢一は、この整備工場を強化して、襲撃に備えようとする。
無邪気に走りまわる子供たち、ドラム缶に座る壮年男性などを見て、メイスーは呟く。
「そうだな? メイスーの言うとおり、子供たちが快適に過ごせるようにしないと」
そう言いながら、賢一は工場の中を見渡して、やるべき事が、いくつもあると考えた。
「ニック爺さんとマリアン婆さんを運べ? 丁寧に埋葬するんだ」
「ゾンビが、寄って来ないだろうか?」
「だから深く掘らないとっ! あと、ゾンビ化させないために、悪いが首は切っておかないと」
「空のドラム缶を転がすわよ? 来て」
「身を隠す物が無いとな…………他の略奪者が来たら、ヤバいもんな」
あれから、ギャング達は作業を進め、老夫婦の遺体を整備工場から離れた場所に埋葬しようとする。
内部にあった幾つかのドラム缶も、敷地には金網や柵がないため、遮蔽物として四隅に運ばれる。
「お前ら…………ゲームと違って、ドラム缶は弾丸を貫通する? 二重三重に重ねたり、中に土を容れるんだ」
「あ? アンタは詳しいな? その服装からして、共産ゲリラなのか? それとも、ムスリム過激派か」
「何の組織に所属していたんだい?」
工場の周りに設置されるドラム缶を見て、賢一はギャング達に、効果的な置き方を教えた。
白人ギャングはドラム缶を転がしながら呟き、ラテン系の女性ギャングも、腰を叩きつつ話す。
「あのな? 俺は日本の自衛隊だっ! だから、こう言うのには詳しいんだっ! 因みに、黒人女性はアメリカ海兵隊だ」
二人の前で、半ば呆れつつも、賢一が愚痴るように所属を説明していると、車輪が回る音がした。
「その海兵隊が、帰ってきたぞ」
ピックアップと水色のピックアップ型ジープが走ってくると、黒人ギャングが指差した。
「みんな、肥料の袋を持ってきたよっ! これに土を積めて、土嚢を作るんだ?」
「近くのトラックから、食糧を頂戴してきたぜ~~」
ピックアップが、工場手前で止まると、モイラが運転席から出てきた。
ピックアップ型ジープからは、ダニエルが荷台後部ドアを開いて登場する。
「はあ? 肥料袋? それに食糧だと…………」
賢一は、二人の話を聞いて、スコップを地面に刺しながら首を傾げる。
「近所の家から、持ってきたのさっ! 家主は、家庭菜園が趣味だったんだろうね?」
「食糧は、食い散らかされているギャングの死体が転がる? あーー? ジープだったか? これの中にあったぜっ! きっと、どっかから盗んだ物だろう?」
モイラは、空になっている大量の堆肥袋を取り出し、ダニエルは両手に、缶詰めを持つ。
「まあ、良い? それより、作業を手伝わないとな」
賢一は、そう言って自らもスコップを手にとり、草原から土砂を取ろうと、歩きだした。
それから暫くすると、工場周辺には人が死なない程度のブービートラップが仕掛けられた。
これは、誤って助けを求める生存者たちを、殺害しないための措置である。
工場の四隅には、遮蔽物として、ドラム缶が設置されて、そこには見張りが立つ。
肥料袋は、建物の左右に、防壁となるように土嚢として積み上げられた。
「終わったな? これじゃあ、今日は漁港まては行けないだろう…………甘に連絡は取っておこう」
「賢一さん」
工場内で、無線機を取り出した賢一は、紫色のスポーツカーに腰掛ける。
そんな彼の元に、顔を赤く染めるメイスーが歩いてきて、恥ずかがりながら声をかけた。
「どうした? メイスー、何かあったか」
「いえ、何か手伝うことはないかと思いまして…………」
ゲンナリとした顔の賢一は、メイスーが隣に座ると、少しだけ緊張してしまう。
それは、もちろん彼女も同じであり、赤面しながら、うつ向いて無言になってしまった。
「何もない? ただ、君も休んでおくんだ…………今日は周辺の散策だけで終わるっ! それから、ここに泊めてもらう」
「そうですか…………あの~~? エリーゼさんは、工場の背面を監視するとか言ってましたし? ジャンさんも民間人の捜索に向かいました」
賢一は、メイスーを気遣いながら、背中をボンネットに預けて、グレーの天井を眺める。
二人は、ぎこちない会話を続けながら、お互いの距離を縮めようとした。




