これから向かうべき場所
あれから、賢一を最後にして、全員がシャワールームに入っていた。
バスローブを運んできて貰った仲間たちは、先にVIPルームで休んでいる。
「ふぅ? エンジントラブルか、また面倒な事になったな」
熱々のシャワーを浴びて、全身をシャンプーで洗い流した賢一は、そう呟きながらタオルを探す。
それを見つけると、体を拭いて、頭をドライヤーで乾かしながら思案する。
「はあ? まだまだ、ギャングやゾンビが登場するのか? …………ぐぅ?」
PTSDか、適応障害かは賢一にも分からないが、どうしようもない不安や怒りに苛まれる。
「ふっ! 怒ったところで仕方ないな? さて、バスローブを着たらっと」
「賢一さん、料理が来ましたよ?」
賢一がドアを開いた途端、バスローブ姿のメイスーが、そこに立っていた。
「ああ、飯か?」
「ええ…………そうです」
「おい? いちゃラブってねぇで、はやくこいよ?」
「余計なこと、言わないのっ!」
賢一は、メイスーとともに歩きながら、ゆっくりと仲間たちの元に向かう。
テーブルを挟んで向かい合うダニエルとエリーゼ達は、すでに食事を口にしていた。
二人とも、ホテル側が用意した替えの衣装に着替えており、黒スーツと赤ドレスを身に付けていた。
料理は、ガーリックライス、煮込み料理アドボ、酸味汁シニガンなどが並んでいる。
そこに、マンゴージュースがあり、外の陽光を浴びて、光輝いていた。
「止してくれ、そう言う事を言っている場合じゃないだろう…………」
「そそ、そ、そうですっ!」
具合が悪そうな顔になり、ダラリと両腕を下げて、賢一は背中を丸めてしまう。
そして、メイスーは顔を真っ赤にしながら、モジモジしてしまう。
「まっ! そう言う仲だろうが? そうじゃ無かろうが? 料理が覚めちゃうわよ」
「そうだぞ? せっかくの飯だ? はやく食べて、すぐに行動しなくちゃな」
「はああ、分かってるさ…………」
「ですね、食べたら準備しましょう」
モイラとジャン達も、灰色スーツと水色ドレスに着替え終わっており、料理を食べている。
黒いソファーに、賢一とメイスー達も座ろうとしたが、二人とも着替えてないことに気がついた。
「着替えは、あっちだよ?」
「分かったぜ、俺はシャワールームに行く? メイスーは、そのまま個室で着替えてくれ」
「はい、早くしましょう」
モイラは、玄関の左側から、少し離れた位置あるドアを指差して教えた。
賢一とメイスー達も、素早くバスローブを脱ぐために、そこに向かった。
「用意ができたけど? これ、結婚式用やイベント用の衣服だな…………他のはなかったのか?」
「たぶん、他の避難民たちも普段着みたいなのは、もう既に使っているんじゃ…………」
賢一が、紺色スーツを着ながらバスルームから出てくると、メイスーは緑色のドレス姿で登場した。
「そんな事より、食事が覚めちゃうわよ? それから甘たちは、ホテルの責任者や軍人との話し合いに向かったわ」
「俺たちは、ガーリックライス、アドボ、シニガンを食べないとな」
「マンゴージュースで、喉に潤いを与えないと」
「本当は、ビールやワインの方がいいんだがなっ!」
「朝から飲んだら、ヘロヘロになって戦えないぜ? まあ、訓練中は隠れて飲んでたけどな? 主計科に頼めば貰えるんだよ」
「私も飲むのは慣れてないです…………それに、こう言う場所では、料理を作る方でしたし…………ふぅ」
モイラとは、醤油醤油と酢で、鶏肉や豚肉を煮込んだ料理アドボを食べている。
ジャンは、肉やエビ、野菜を煮込み、タマリンドなどの酸味を効かせた酸味汁シニガンを飲む。
グラスを傾け、エリーゼは口に甘く冷たいマンゴージュースを流し込む。
ガーリックライスの黄色い米を、何度もスプーンで掬いながら、ダニエルは愚痴る。
賢一も、出口側の空いた席に座ると、取り敢えず、胃を満たそうと食べ物に手を伸ばす。
メイスーも、反対側の席に座り、ため息を吐いてから、大きなアクビをした。
「まあ、メイスー? 一生懸命に戦った御褒美なんだし、黙々と食うとしようか」
「そうですね? 私たちは、まだまだ危険地帯に行かねば成りませんし」
賢一とメイスー達も、冷たいジュースを飲んだり、ガーリックライスを食べ始めた。
それから、少し時間が立ち、みんなは高性能な乾燥機で、乾かし終えた衣類に着替えていた。
「はあ~~食った、食った…………眠くなるが、甘はまだか?」
「まだ来ない見たいですね? リゾート地の屋上なんて、通常じゃ無理だし? 好きな人と…………」
賢一は、ガラス戸を開けると、寝ぼけ眼のまま手摺に近づいていく。
そこに彼がたどり着くと、右側からメイスーの声が聞こえてきた。
「メイスー、何か言ったか?」
「い、いえ、何でもありませんっ!」
振り向いた賢一の側で、メイスーは再び顔を紅潮させながら俯いてしまう。
「そうか? 俺は上に行く、君は休んでてくれ」
「は、はい、そうしてますっ!」
賢一は、ここよりも背後にある高台から景色を眺めた方が、全体を見渡せると思った。
そこで、手摺から去っていく彼を前にして、メイスーは少し緊張しながら答えた。
「そっちは、何か見えるか?」
「後ろは海、前はホテル群、南は山と小さな港町、北の対岸にもリゾート地や漁港が見えるわ…………カメラで調べて見ましょう? たぶん、なにかが見えるかも知れないわ」
「それより、プールに入ろうぜっ? ここのホテル、海パンを貸してくれないかな」
高台に行くには、左右にある階段を上がらないと成らないため、賢一は右側の方から進んでいく。
そこに立つ、エリーゼが遠くの景色を気難しそうな顔で、監視を続けていた。
辺りを見ると、六角形の休憩小屋や四角い日除け小屋、そして黄色いベンチが多数あった。
また、円形プールが四方に配置されており、絶景を楽しみながら水遊びできるようになっていた。
プールは、それぞれが水路で繋がっており、四体の灰色マーライオンが水を出していた。
大きめの黒い木製アーチ橋も、そこには四つずつ設置されてあった。
ダニエルは、右端の方で酒樽に腰掛け、冷蔵庫から持ってきた、コーラ瓶をラッパ飲みしていた。
「はああ? ダニエル、お前は気楽な奴だな」
「待たせたな、君たちに説明しようっ! あっちの山には別チームが向かうっ! もちろん、君らは反対側のリゾート地に向かってもらう」
木製アーチ橋を渡るとととめに、賢一はダニエルを見つめながら、ため息を吐きつつ愚痴る。
そこに、後ろから甘が仲間たちを引き連れてくると、遥か遠くにある山陵や建物などを指差した。
「南の方ね? ホテルと漁港が見えるわ、またウニだらけのゾンビや氷ゾンビが出ないといいけど」
「それでも、行くしかね~~だろう? はぁぁ? 面倒だぜーー!」
「ですね? 次いでに、当初の目的だった私の親戚が勤める中華料理屋やスーパーにも寄れますし? たしか、ラテン系の女性も食糧を必要としてましたね?」
モイラが敵の襲撃を予想して、険しい顔になる側で、こちらに向かってくるダニエルは愚痴を溢す。
一方、メイスーは身内やスーパーの事を思い出して、急に不安が増してきた。
「ふむ? 刑務所の食糧なら心配ないはずだ? 軍の補給部隊や近くの避難所から集められたからな? それに備蓄と合わせれば、しばらくは大丈夫だろう」
そう言って、甘は刑務所が無事なままであると、説明して、メイスーを安心させた。
「とにかく、頼んだぞ? 道中は新型ゾンビが出るかも知れないし、ギャング達の活動も活発化しているからな」
「皆さん、下の車に必要そうな物資は集めておりますから使って下さいね」
「分かったわ、もう行かせて貰うよ? 海兵隊員は迅速に行動しないとねっ!」
「行く覚悟はできているっ! 民間人のためなら、水や火の中にも飛び込めるっ!」
甘と陳たちは、期待を込めて話し終えると、モイラはすぐに歩いていく。
ジャンも、いよいよ救助活動できると思って、早歩きで、彼女の後を追っていった。
「と言うワケだ…………甘、陳、行ってくるっ!」
「ああ、他の病院や避難所と連絡を取っているから、また新型ゾンビの情報が出たら伝えるっ! あと、行き先の漁港がある地図を渡しておくっ! 行くのは、この造船所だからな」
「お気をつけて」
賢一が地図を貰い、二人の後に続くと、甘と陳たちも研究を行うために歩きだした。




