リゾートホテルの屋上
豪華ホテルのエントランスに入って、賢一たちは白人男性について行った。
「凄いな? まるで、宮殿だ…………」
二階のバルコニー、黄金に輝くシャンデリアと白い宝石、ベージュ色に塗装された壁。
賢一は、ヨーロッパにあるような城内を思わせるホテルの景色に、圧倒されてしまう。
落ち着いた雰囲気の中、生存者たちは力なく、石柱や壁に凭れたり、ソファーに座っている。
ここには、黒スーツやメイド、避難民や観光客などからなる人々が見える。
「我々は、あっちのレストランで、休ませても?」
「おおっ! 神父さま、これは世の終末でしょうか?」
「爺さん、待っておくれ? いや?これは、これは神父さま」
ヴィラスを見たことで、壮年の白人男性が、今にも泣きそうな顔になりながら近寄ってきた。
その妻らしき白人女性も、同じく藁にもすがる気持ちで、こちらに歩いてきた。
「そっちは、助けを求められているらしいな」
「そのようだな? 仕方がない…………皆さん、向こうに行きましょう? これは乗り越えられる困難です」
「はあ~~! ありがたや、ありがたや」
「ははあ、神父さまが助けてくれたら、あのアンデッド達も怖くないわ」
賢一が呟くと、ヴィラスは広い部屋を探して、ゆっくりと歩いていく。
その後に、熱心なクリスチャンである白人男性と白人女性たちは、着いていった。
「俺たちも、休みたい? 漁に出ていたら、ココナッツミルクを飲む時間だぜ」
「私も、アッラーに礼拝したい…………この困難な状況で、アッラーに助けを求めたい」
「朝も、まだ食べてないし? そっちの話しは任せたわ? 食べたあと、車両整備をしないと」
「とにかく、私たちは休みたい? 休憩しないと、ジャングルでは体が持たない」
マエワは、舌を出しながら呟き、左側にレストランを見つけた。
ファハダも暗い表情で、ムスリム仲間が存在しないかと辺りを探す。
両手で、お腹を押さえながら俯きつつ、アイリスは溜め息を吐いた。
右肩を、左手で叩きながらペトローは、体中全体が疲れたと愚痴る。
「うん? まあ、ここは避難民が溢れているし、他の連中は休んでていいだろう」
「そうだわ、ここなら安全だろうし、みんな民間人なんだし、体を休めて貰いましょう」
さまざまな人々を見ながら、賢一は呟くと、モイラも避難民たちの声に耳を傾ける。
「聞いたか? 噛まれても平気な奴が、どうとか?」
「でも、何回も噛まれても平気な人と、ずっと噛まれ続けているうちに、ゾンビになってしまった人に別れると聞いたわよ」
「ねぇ? ゾンビに噛まれてから直ぐに変化した警備員と、酸を浴びても死ぬだけで、ゾンビに成らなかった兵士が出たって」
「ああ、他にも空気感染なのか? バリケードに守られた小さい病院で、風邪を引いてた連中が内側からゾンビに転化したとも聞いたな」
白人コックは、ピザが載った銀色トレーを押しながら、隣を歩くアジア系メイドに話しかける。
黒人女性の生存者は、ソファーに疲れた顔で座りながら白人生存者と、ゾンビについて話し合う。
「奇妙な噂が流れているな? いったい、どれが本当なのやら」
「ええ、甘に聞いてみましょう」
「それが妥当ね…………」
「だなっ! 俺たちだけで、上に行くしかね~~わなっ!」
「あっ! それじゃあ、奥に行きましょうか?」
「ああ…………さっさと行くとしようっ! 皆、俺たちの救助を待っているからなっ!」
噂話が蔓延する中、賢一は絶望や不安に苛まれる生存者たちを気にする。
一方、モイラは頭の中で覚えて奥だけにして、あまり気持ちを落とさないようにした。
エリーゼは、こう言った避難民が溢れかえる場所に慣れているため、顔色一つ変わらなかった。
湿っぽい雰囲気を嫌うため、ダニエルも元気よく胸を張りながら歩く。
二人が動きだすと、メイスーは少し慌てながら着いていこうとした。
そして、みんなの後を追って、ジャンも最後尾を堂々と進んでいった。
「では、皆さま、上階へと向かいましょう」
「お待ちしておりました」
奥にあるガラス張りの円形エレベーターまで、黒スーツが歩いていくと、皆も後に続いた。
すると、一礼しながら、ホテルボーイが右側にある金色の機械に右手を近づけた。
彼が、ボタンを押してからドアが左右に動き、開いた中に、仲間たちが入っていく。
こうして、段々と遠ざかるエントランスを見ながら、上階へと向かっていった。
「…………」
「…………」
「こちらの部屋に成ります? 最上階で、甘さまはお待ちしております」
「ああ、ありがとう? じゃあ、行くか」
エレベーターを降りた一行は、正面にある金の装飾が施された赤茶色いドアを目にした。
白人と黒人たちの黒スーツが両脇に控えていたが、彼らはカードキーを機械にかざした。
こうして、ドアを開かれると、白人男性は一礼しながら右脇へと歩いていく。
「ここは、豪華な部屋だな? ガラス張りだ」
「VIPルームだわ…………海兵隊でも、こんな待遇は受けられないよ」
正面のガラスを見ながら、賢一は左側にある黒いソファーに挟まれた木製テーブルに目を向けた。
他にも、円形椅子のオットマン、クラゲが泳ぐ大きな水槽、映画スクリーン等がある。
ここは、全体的に落ちついた雰囲気であり、黒い壁が僅かな白い光に照らされている。
賢一とモイラ達は、テレビやゲームなどでしか見たことがない光景に見惚れて、唖然となる。
「私が来た時は、裏口から厨房にしか入れなかったので…………圧倒されます」
「この景色は、凄いキレイだわ? ま、写真を取るために何度も潜入して、見たけどね」
「潜入って、いったい? ああーー? ジャーナリストだったか」
「それより、甘は? アイツが居ないと、状況が分からないままだぞ」
高そうな家具や調度品などを見ながら、メイスーは口をあんぐりと開いたまま呟く。
一方で、エリーゼは見飽きたと言う感じで、ポーカーフェイスを崩さない。
呑気なダニエルは、ソファーに座り込みながら、両手を頭の後ろに回す。
ジャンは、顔を左右に動かして、複数ある奥の部屋やドアを見つめる。
「良くきたな、君たち」
「ようこそ、皆さま…………お待ちしておりました」
ガラス張りのドアが自動で、右に動き、甘が女性助手を連れながら入ってきた。
「陳予蘭と申します、甘博士の助手を勤めてますわ」
陳は、ミディアムショートの黒髪を、七三にしており、甘と同様に白衣を着ていた。
「彼女には、研究を手伝って貰っているんだ…………新たな情報が入った…………新種のゾンビとテロリストの情報だ…………それから、脱出手段の話をしよう」
甘は、苦虫を噛み潰したような表情で、現在の状況を説明しようとした。
「分かったよ、で? 新しいゾンビってのは?」
「こちらに来たまえ、落ち着ける場所で話そう? 君たちは座って聞いてくれ」
賢一の問いに対して、甘はダニエルが座っているソファーにまで向かい、そこで話そうとする。
「それで? ゾンビの話しってのは、いったい何なんだい?」
「新しいゾンビとは? 自衛隊員として、聞き逃せない情報だなっ!」
「うむっ! 新型の巨漢ゾンビが現れたとの情報が入ったんだ…………私は、ファットゲローと名付けた」
「今度は、デブゾンビが相手かっ! さっさと、かかってこいってんだ」
「ちょっと…………黙ってよっ!」
ガラスに凭れながら、モイラは新型ゾンビが、どんな敵が相手なのだろうかと真剣な顔になる。
賢一も同じく、壁側に背中を預けながら、やつれた表情をしながらも、説明に集中しようとする。
そんな二人の前で、甘は名前を発表するとともに、目配りをして、陳に写真を持ってこさせた。
誰が記録した物かは分からないが、太った巨漢ゾンビの静止画が、スクリーンに映し出された。
それを見て、ソファーに座りながら、ダニエルは連続パンチを繰り出して、ボクサーの真似をした。
一方、エリーゼは彼の背後で、背凭れに両腕を載せながら呟いた。




