夜間の漁協事務所では
賢一たちは食事を食べ終えたあと、街角から離れて、漁協事務所の隣にあるビルに入った。
そこでは、休憩所と休憩室があり、広い空間には丸テーブルと椅子などが、並べられていた。
「甘、漁協事務所の部隊は、無事だったが? そちらと連絡が取れたようだな?」
『賢一、どうやら? 彼らの通信機が、ギャングとの戦いで故障したらしい? それで、機材を手に入れたあと、修理したそうだ』
沈む夕陽を見ながら、賢一は懐から取り出した無線機で、甘に連絡した。
「そうだったのか? 明日は、リゾート地に向かうが? そっちは、どうする?」
『先に、車両部隊とともに向かって、待っている』
賢一は、駐車場のハンヴィーが走る様子を眺めながら、甘と行動予定を話し合った。
「分かった? なら、そっちに行ったら合流しよう」
「ああ、マリンブルー・パラダイス・ホテルで待っているからなっ! じゃあ、切るぞ」
予定が決まったため、賢一に対して、甘は合流予定地を教えて、無線を切ろうとする。
「待ってくれ? ゾンビの中に、奇妙な個体を見つけたんだ? ソイツらは体に氷を生やしているようだった」
『興味深いニュースだな? 後で調べて見よう? では、切るぞ』
自分が見た氷ゾンビたちを、賢一は報告すると、甘は無線を終えた。
「切ったか? 武器の手入れでも、しておくか」
賢一は、そう言いながら近くのテーブルに、AR15やゴボウ銃剣などを載せた。
それから、時間が立ち、深夜になってしまったが、賢一は再び休憩所の窓ガラスを眺めていた。
「静かだな…………他の連中は、眠ってしまったか」
ビルの窓辺に立ち、駐車場に並ぶ、軍用車両などを、ボンヤリと眺める賢一。
「ん?」
背後から、誰かが歩いてくる足音をさっして、賢一は後ろに振り返った。
「あの? 賢一さん、眠れなくて…………」
「メイスー、怖いのか」
そこに立っていたのは、不安げな表情で、体を縮こめているメイスーだった。
彼女の怯えた様子に、賢一は昼間ゾンビ達と戦ったことで、恐怖が抜けてないんだろうと思った。
「はい…………賢一さんは、お化けやゾンビとかが怖くは無いんですか?」
「怖いさ、けど? 自衛隊員である以上は、戦わないとな」
メイスーは、素直に答えると、賢一は自分の右手を震わせながら呟く。
「そうですか…………私は、ただただ怖いです? ゾンビやギャング達もですけど? まるで、自分が自分じゃなくなるような怒りを感じるんです」
「怒りか? 君も疲れが溜まっているんだろう」
メイスーの話す症状に対して、賢一も同じような感覚を味わっていた。
PTSD、不安障害や適応障害、鬱病などと言った精神な病気は、二人を蝕む。
「俺も、ここの暑さには具合が悪くなる時がある…………しかし、リゾート地に行けば楽になるだろう」
「そうですね? 向こうまで、行けば安全に避難できますよね? はああ」
賢一は、訓練による疲れや、東南アジア特有の湿度に嫌気がさしている。
メイスーは、元から鬱病により、精神が悪化していたため、大きな溜め息を吐いてしまう。
ここも安全な場所だが、リゾート地は、完全に隔離されている。
そのため、二人は天国のように楽しみと平和が向こうにはあると思っていた。
「そう祈っているしかないな? 今夜は月も見えないっ! ふぅ…………明日に備えて、寝るとしようか」
「あの? 私たちは似た者同士ですよね? 日系人で、中華系で、しかも東南アジア系の血まで入っているしっ!」
見張りのスナイパーが、アチコチにある建物に潜み、ゾンビが来ないかと警戒している。
そんな中、賢一は不安げなまま、いつまでも自分が立っていても仕方がないと考えた。
彼が、明日に備えるため、就寝しようとした瞬間、メイスーは急に質問してきた。
そして、彼女は顔を若干、少しだけ赤くしながら目を泳がせている。
「前にも言ってたな? まあ、俺のは複雑怪奇な家系だよ? 爺さんは太平洋戦線から帰ったあと、国民党を嫌い日本に逃げてきた台湾の平埔族だ?」
賢一の祖父は、台湾人日本兵であり、戦争が終わったあと、故郷に帰国した。
だが、国民党による独裁政治と弾圧から逃れるため、日本兵に紛れて、帰還船に乗ったのだ。
「つまり、台湾先住民と中華系の混血…………その爺さんと日本で結婚したのが、婆さんだからな? メイスーの方は?」
「私の方は、日系パラオ人の父が、シンガポールで就職した時、酔っぱらいから母を救ったのが出会いで、付き合い始めたと」
賢一は、ゆっくりと話し、自らの出自が複雑であることを、メイスーに教えた。
彼女も同じく、顔を紅潮させ続けながら、両親の出会いを語った。
「そうか、でも何で君は、ここに?」
「マレーシアの会社に就職したんですが…………鬱病にかかり、両親に辞めさせられたため、ここで心を癒しながら、母方の親戚が経営する中華レストランで働かされたんです」
賢一は、自分と同じような出自を持つ、メイスーに対して、本の少し興味がわいた。
「そうだったのか、辛かったな」
「ええ…………」
賢一も、日々の猛訓練やゾンビと戦ったことで、病名が分からないが、精神疾患を抱えている。
そして、メイスーもまた鬱病や戦闘による疲労が溜まっており、元気が無さそうに見えてしまう。
長い沈黙が支配する中、二人は共通する血筋や問題などから、お互いを同じ弱い人間だと思った。
その時、とつぜん駐車場で、何度も爆発が起こり、強烈な炸裂音が響き渡った。
「はあっ!? 何が起きたんだっ!!」
「ななな、何でしょうか?」
「いったい、何が起きたんだいっ!」
「襲撃かっ!」
大慌てで、賢一とメイスー達は、自身らの武器や装備などを取りに、休憩室へと走ろうとする。
それとは反対に、モイラとジャン達は、こちらに勢いよく向かってくる。
「爆発だっ! 地上の軍用車両やバリケードが吹き飛んだんだ」
「何ですって…………」
「俺たちは、先に下に向かっているからな」
賢一は、ド派手な爆炎を思いだし、すぐさま、モイラとジャン達に伝える。
「ああ、任せたぞっ! こっちも装備が整い次第、助けに行くからなっ!」
「私たちも、後から必ず向かいますっ!」
「先に行って、戦ってるわよ」
「援軍を待っているぞっ!」
そう言いながら、賢一は休憩所を突っ切り、休憩室に向かっていく。
彼を追いかけながら、メイスーは丸テーブルや椅子の間を駆け抜ける。
モイラは、ヘンリー小銃を背負いながら、コルト45を片手に、エレベーターの方に走る。
ジャンは、ハリガンバーを両手に抱えながら、彼女に着いていった。
「痛い、痛い、体中の節々が痛い…………何が起きやがったんだ?」
「寝ぼけてないで、下に行くわよっ!」
眠たそうな半目のまま、ワケも分からず、ダニエルは、ひたすら走っている。
その後ろから、エリーゼは駆けてくると、彼を追い越しながら渇を入れた。
「お前ら、下に行ってくれっ! モイラとジャン達は、すでに向かっているからなっ! 戦闘が起きているっ!」
「私たちも、今から向かいますからっ! 頼みましたよっ!」
「分かったぜ、じゃあ先に行ってるから早く来いよ」
「できるだけ、素早くしてね」
賢一とメイスー達は、行くべき場所を伝えると、真っ直ぐに休憩室へと向かった。
ダニエルは、眠そうな顔から真剣な表情になり、ポーカーフェイスのエリーゼは短く答える。
彼らと別れてから、二人は目的の場所に入り、ロッカーに積めていた様々な装備を身につける。
こうして、すぐに準備ができたため、仲間たちと合流するべく、すぐに階下を目指していった。




