まだ無事な街角へ
あれから、二人組の生存者たちと別れて、賢一たちは、ビル街へと来ていた。
「あっちに、レストランがある? 行ってみるか?」
「行きますっ! しかし、さっきの場所より人が多いですね?」
賢一とメイスー達は、二階建ての白い建物と、鶏肉が描かれた看板を見て、早歩きで向かう。
漁協事務所と違い、ここで多数のは避難民たちが、街中を歩いていた。
「ゾンビに噛まれたら、ソイツは一発で終わりだとよ」
「私は空気感染するって、聞いたけれど…………」
「噛まれても、平気な人間も存在するとか?」
「そう言う奴でも、何回か噛まれると、毒で殺られると聞いたんだ」
疲れた感じで話ながら歩く、アジア系の生存者は、背中に、ロング鉄パイプを背負っている。
不安そうな表情をしたまま後に続く、黒人女性の生存者は、具合悪そうに見える。
二人は、左側にあるビルの手前を歩いて、向こう側から、こっちにきた。
ニューギニア系の金髪女性は、腰に日本刀を帯刀しながら、レストランから出てきた。
黒人生存者も、真面目な顔で、眉間に皺を寄せながら彼女とともに、こちらに進んでくる。
彼らは、右側の方をから、周囲を警戒しながら移動してきた。
「異常なし」
「異常なしっ!」
「…………」
もちろん、警備のために、銃を持っている兵士たちも堂々と、道路を歩いている。
青い制服と防弾ベストを着ている、三段警棒を持っている警察官も、道路左側に見える。
「何だか、重たい雰囲気だな? まあ、ゾンビやギャング達が暴れているんじゃあ~~仕方ないか?」
「そうだぜ、この状況じゃ、みんな不景気みたいに暗くなるさっ! 成らない方が、オカシイぜっ!」
「そんな事より、晩御飯…………お腹を満たすのよ」
「そうね? ここは警備も厳重だし、私たちは少し早い晩御飯に行かないと」
街中を歩いている人々は、疲れきっており、絶望的な状況から神経が、ピリピリしているようだ。
それを感じて、賢一も嫌な雰囲気に耐えきれなくなり、つい愚痴を溢すと、ダニエルは呑気に呟く。
腹を押さえながら、ポーカーフェイスを崩さず、エリーゼは呟いた。
モイラも、鋭い目付きで、ストリートを観察していたが、やがて緊張を解いた。
「だな、じゃあ行こうぜっ!」
賢一は、先頭になって、レストランの木製ドアを開いて、中に入っていった。
店内は、黄色の光に照らされており、かなり広く、六人用の椅子と長い木製テーブルがある。
「ふぅ? 食ったら、また大工仕事だ」
「俺も、電気工事がな」
「敵が来たら、このグロック17で倒すわ」
「私は、シグP226を使うわよ」
何人か話す客も点在しており、外の重たい空気と違って、ここは明るい雰囲気に包まれていた。
アジア系の作業員は、愚痴を溢すが、腹が満たされたため、笑みを浮かべる。
同じく文句を言いながら黒人作業員は、オレンジジュースの入ったコップを手にする。
黒人女性警察官が、腰のホルスターに手を当てて、鋭い目付きになる。
すると、向かいに座るラテン系の女性生存者は、笑顔を浮かべながら、スプーンを口に運ぶ。
「いらっしゃい? 六名さまですねっ! あちらの席へどうぞ」
「ああ、そうだ」
「やっと、飯を食いながら休めるぜ」
「そうだな…………」
東南アジア系のウェイターが、賢一たちに笑顔を向けながら、席へと案内する。
それから、白い歯を見せながら笑みを浮かべて、ダニエルは歩き、ジャンも少しニヤけた顔になる。
「さあ、ビールの時間だわっ! と言っても飲まないけどっ!」
「流石に、この状況では、飲めませんからね」
モイラとメイスー達も、楽しそうに、メニュー表を眺めながら呟く。
かなり疲れきっているため、みんな夕食に期待して、頬を緩ませているのだ。
「さて、何にするか? 俺は、これにしようっ! ドリンクも決めたっと」
「私は、同じのにするわ、いつもなら自分で決めるけど、今日は疲れ過ぎたし?」
「同感だわ…………普段は、こんなに疲れないのに」
「私は? えっと? やっぱり任せます、同じく体がだるいですし」
「そいじゃあ~~女子連中に合わせるとしますかっ!」
「そうだな? ワガママを言って、浮くのも嫌だからな」
メニュー表を見ると、直ぐに美味しそうな料理が目に入ったため、賢一は即決してしまった。
モイラとエリーゼは、何だかグッタリとした様子で答え、メイスーも二人に合わせた。
いい加減な性格のダニエルも、同じ物に決めると、ジャンも静かに呟いた。
こうして、全員が同じ物を頼むと、ちょうど良いタイミングで、ウェイターが現れた。
「ご注文は、決まりましたか?」
静かに話しかけてきて、ウェイターは、クリップボードに黒ペンを近づける。
「ああ? カレカレ、ビコール・エクスプレス…………ドリンクは、サゴット・グレラン、マジックウォーターを頼む」
「分かりました、お待ち下さい」
賢一は、料理と飲み物を、二品ずつ頼むと、ウェイターはメモしながら去っていった。
「さて、メニューは決めたが、今日はどうするんだ?」
「スマホは、最初の戦いの時に落としたのか? 見つかりませんし…………」
「無線機だけじゃなくて、スマホや携帯も使えるのかしら? はぁーー詰まらないわ、カメラだけが唯一のオモチャね」
「通信タワーや施設が、無事に動いているか心配だ」
「発電所は、無事だろう? 今、レストランの照明が光ってるんだからな」
「ああ言う場所は、軍隊が対テロで確保するだろうし、警備員も見張っているから、きっと無事よ」
料理が運ばれてくるまで、賢一は何の話をしようかと言って、対面に座る女子たちを眺めた。
真ん中に座るメイスーは、残念そうな表情を浮かべながら、ポケットを探る。
肩提げバッグからカメラを取り出して、レンズを拭きながら、エリーゼは呟く。
ジャンは、消防士として、インフラ施設の心配をしながら眉間に皺を寄せた。
そんな彼とは、対照的に欠伸をしながら、ダニエルは深く息を吸い込む。
モイラも、重要施設などは、まだ無事だろうと推測しながら話した。
そうこうしている間に、時が流れ、人数分の料理が運ばれてきた。
「ご注文の品です? 暑いので気をつけて、下さい」
「おっ! きたか」
「さあ、時間よ」
さっきのウェイターが、トレーを運んできて、料理をテーブルに載せてゆく。
それを、賢一とモイラ達は受けとると、奥の方に座っている仲間たちへと渡す。
「このビーフシチューは、クリーミーで、美味いな」
「豚肉シチューも辛いけど、ウメーー!!」
「こら、静かにしなさい」
「ムスリムが食べていいの…………それ?」
「それより、サゴットを飲むと生き返ります~~」
「まずは、カラカラの口を湿らせて、と? 甘いっ! やはり、仕事終わりのジュースは美味いもんだ」
茶色いカレカレを食べる賢一は、牛肉をピーナッツソースで煮込んだ味を堪能する。
白い豚肉料理、ビコール・エクスプレスを頬張るダニエルも、舌上に広がるピリ辛味を楽しむ。
騒ぐ男性たちを叱りながら、モイラは料理を、ゆっくりと、口に運ぶ。
エリーゼも、メニュー表の素材を確認しながら、クールな顔で、突っ込みを入れる。
タピオカ&ゼリーを、カラメルシロップに混ぜている、サゴット・グラマンをメイスーは飲んだ。
一見すると、ただの水に見えるマジックウォーターを飲んだあと、ジャンは深いため息を吐いた。
「その土地に行ったら、その土地の風習に従え、豚肉しかなかったら食べてよいっ! コーランには、そう書いてある」
「はああ? アンタ、いい加減な解釈する方のムスリムなのね…………」
「マジックウォーターは、そんなに甘いのかっ!」
「甘いぞ、そらっ! 飲め、飲め」
ダニエルの偉そうな物言いに半ば呆れながら、エリーゼは、豚肉を噛る。
賢一は、マジックウォーターを飲み込み、ジャンも同じく、喉に甘水を流し込む。
こうして、彼らは束の間だが、平和な一時を楽しく過ごすことができた。




