市役所で、一泊する事に…………
賢一たちは、甘と話しながら、ドタバタと人々が歩き回る、市役所内を進む。
『今夜は、そこで宿泊してくれ? もう時間帯も、夕暮れだ? 外を出歩くワケには成らんからな』
「分かった、じゃあ明日は残りの部隊を調べに行ってくる」
そう言いながら、甘に対して、賢一は役場の受付カウンターが見えた場所を目指しつつ歩いていく。
「缶詰め工場や漁協、それから市場とビーチに向かう? そこから、また少し時間がかかるからな」
『缶詰め工場、漁協だな? そっちには兵士や作業員のゾンビ達が、さ迷っているだろうから気をつけてくれ? 市場まで行ったら、船を用意してくれ』
賢一は、次なる目的地を告げると、甘は移動手段の確保を頼んだ。
「分かっているっ! 他の島への移動手段だな? じゃあ、また明日な」
『ああ、また何かあった場合、遠慮なく連絡してくれ…………』
受付まで来てしまった、賢一は無線を切ろうとすると、甘が先に切ってしまった。
ここは、入口から左側に設けられた市役所の窓口であり、様々な人々が床や椅子に座っていた。
市役所の職員は、段ボール箱を運び、兵士はグロック17に、マガジンを装着する。
白人生存者とアラブ人生存者たちは、ゾンビに関して話し合い、警備員は鉄パイプに重りを着ける。
ここは、長椅子が並べられており、足りない分はパイプ椅子が追加で設置されていた。
当然ながら、それでも避難民が座るには足りず、壁に背中を預けたり、床に座る者まで存在する。
大勢の人々で溢れ変えるため、受付担当を行う職員は、大慌てで走ったり、物資を運ぶ。
「やっぱり夜は危険か…………これから、どうする? 俺たちは、ここの防衛は任されてないが? 一泊する必要はある」
「そうだね? 明日は薬局に寄りながら缶詰め工場に行って、漁協の建物に行くしかない? で、今日は休ませて貰うしかないわ」
「なら、配給ががりの場所に行って、避難民とともに食糧配給を受け取りに行こうぜ」
「お腹が空いたら、餓死するからね…………ここで、死にたくは無いし」
ゾンビが凶暴化するため、賢一たちは、今晩は市役所に泊まるしかない。
モイラは、薬局に行くことを思いだしたが、その表情は疲れきっていた。
腹を擦りながら、ダニエルは食べ物を探して、受付や、奥の方を眺めた。
同じく、エリーゼも死んだ魚のような半目で、ため息を吐きながら呟いた。
「これは、田舎の村から来た奴の話しなんだが? ゲリラか? カルテルの仕業かは知らんが…………無惨な遺体が、最近は森の中で増えてたらしい」
「いや、それは夜を徘徊するゾンビの仕業じゃないか? 吸血鬼だか? 幽霊を見たとか、かなり前から変な噂を、地方のバナナ農家が話していたし」
「武器弾薬が足りてない? 今度は、白兵戦も想定しないと成らんな」
「明日、また援軍を送って貰って、弾薬や銃器を持ってきてくれるように頼んでおくしかない」
白人生存者は、アジア系の生存者と、ゾンビに関する噂話を両方とも、腕組みしながら喋っている。
漁師のような格好と、作業員に見える服装や話し方から、おそらく、二人は地元民だろう。
メラネシア系の兵士は、フリッツ・ヘルメットを脱ぎながら、金色アフロに手を添える。
悩む彼に、白人警備員は、険しい標準をしながら、無線機を取り出す。
「あ、おいっ! アイツら、噛まれているぞっ!」
「本当だっ! あの女、ゾンビ化するぞ、はやく殺せ」
そんな中、メイスーの怪我が、黒人警備員や白人生存者に見つかってしまった。
「い、いや…………これは違いますっ! 私は感染しているけど、発症はしないんですっ!」
「黙れ、強酸を浴びた奴や噛まれた奴は、例外なく、ゾンビに成ったからな」
怒鳴り声を浴びて、メイスーは萎縮してしまい、黒人生存者が、トンプソンの銃口を向ける。
「よせっ! 俺たちは保菌者だっ! 感染症に耐性があるから、噛まれただけでは、ゾンビ化しないっ!!」
「私たちを撃つなら、その前に、こっちも撃つわよ…………」
「よせっ! 喧嘩するのは意味がねぇっ! せっかく、ゾンビの襲撃を生き延びたんだ」
「そうだっ! 俺たちは保菌者として、ワクチン作りと生存者の救出をしているだけだっ!」
焦りながらも、賢一は相手を説得しようとするが、エリーゼは、スカンジウムに手を伸ばす。
その間に入って、ダニエルは騒動を収めようとし始め、ジャンも自らが楯になろうと、前に出た。
「武器を下ろせっ! 撃たれたくは、ないだろう? お前らは包囲されているんだ」
「ゾンビなら、転化する前に頭を撃てば、確実に殺せる…………」
東アジア系の兵士は、両手で構えるM16A2を、こちらに向けてきた。
白人兵士も、同じ武器を持ちながら、真剣な顔と殺意の込もった眼光で、睨んでくる。
「よしなっ! 流れ弾が、民間人に当たるわよっ! 対テロ訓練はしてないの? それに、この距離なら弾丸が、私たちの体を貫いてしまうわ」
「その通り…………で、どうする? 私の腕前なら貴方の頭くらいは当てられるわよ」
「ま、待ってくださいっ! 私たちに戦う意思は無いわっ!」
M16A2の小口径高速弾は、貫通力があり、モイラは乱射された場合を考慮して、手を上げた。
一方、平然とした顔で、エリーゼは両手に握るスカンジウムを下ろそうとはしない。
メイスーも、先ほどと同じように、アタフタしながらも、戦闘をどうにか止めようとする。
さっきまでは、生存者と兵士たちの声で、騒がしかった受付も、緊迫感で静まりかっている。
「知るかっ! 足を撃てば、民間人への被害は気にしなくていい」
「チッ! 仕方ない、お前ら…………降伏しようっ! だが、撃たないでくれよ? 大人しくするから」
白人兵士の前で、賢一は暴れる積もりは無いと示すために、両膝を床に突いた。
「そんなワケに行くかっ!」
「いや、待てっ! ソイツらを撃たないでくれっ!」
「彼等が、保菌者なのは本当なのよっ! 今、責任者を連れてきたわ」
兵士たちや警備員たちは、感染者の危険性を放置です筈がなく、銃口を賢一たちに向けた。
だが、銃弾が放たれる前に、ショーンとリズ達が、背後から軍人を連れて現れた。
「中尉っ!?」
「敬礼しろ」
「ああ、諸君? 敬礼は別にしなくていい…………それよりも、忙しい市長に代わって、私が説明しよう? 実は刑務所から連絡があってな」
白人兵士と黒人兵士たちは、赤いベレー帽を被った中年の下士官を見ると驚いて、銃を下ろした。
「彼等が、保菌者であり、行方不明の部隊を捜索する任務と、ワクチン製造のために首都を目指しているのは本当だ…………だから、協力してやってくれ」
下士官が、ゆっくりと喋ると、その場から緊張した雰囲気は収まった。
「刑務所の方から連絡があってな? それから、アダムス二等兵を、助けたのも彼等だっ! そのお陰で、援軍を呼べたのもな? だから、できる限りの支援をしてやってくれ」
「はっ! 分かりましたっ!」
「し、しし失礼しましたっ!!」
「助かったか…………はぁ」
「どうやら、そのようですね…………」
下士官の話しを聞いて、白人兵士と黒人兵士たちは、銃口を下げた。
賢一とメイスー達は、殺されなくて良かったと思い、ほっと胸を撫で下ろした。
「助かりました、自分はJSDF所属の尾野賢一ですっ!」
「私は、アメリカ海兵隊のモイラ軍曹ですっ!」
「マンダウエ消防局の消防士、ジャン・ルイーズ・シュミット、ただいま民間人の救助隊に加わっ!」
「敬礼は、要らないよ? それより、物資が今は乏しくてね? 明日、武器や弾薬が届いたら君たちにも、分けてやろう」
敬礼する、賢一とモイラ達に合わせて、ジャンも公務員であるため、少尉に敬礼した。
「私からの僅かな礼だ、遠慮せずに受け取ってくれ…………今日は、もう避難民とともに休むといい? あと、部屋を用意したから、そこで休んでくれ?」
少尉も、先に敬礼をされたため、自分もしないワケには行かず、仕方なく手を振るうのだった。




