スポーツジムの中で
大柄なゾンビ達は、三体とも意外と機敏に動き、早歩きで、賢一たちに迫ってくる。
「アホどもがっ! こっちに来るんだっ! 俺を倒してみせろっ!」
「ウオオオオ」
「グオオ~~」
「ガオオーー」
賢一は、薄暗いスポーツジムの中で、窓側に近寄らないようにして、三体を引き寄せる。
「賢一、どうする積もりだっ! そんな警棒、一本では、どうにも出来ないぞっ!?」
「俺の連続パンチも、コイツらには効きそうに無いぜっ! あと、このナイフも届くかどうか…………」
三体の大柄なゾンビ達を、左右から、ジャンとダニエル達が挟む形で、睨み続けている。
「ウゴアアアア」
「お前ら、先に向こうに行けっ! コイツ等は、俺が引き受けるっ! ドアから出たら、何時でも閉められるように準備しておけっ!」
三体と対峙している、賢一は特殊警棒を振り回しながら、派手に動で、敵の注意を惹きつける。
ゾンビたちは、生臭い血肉の臭いを漂わせながら、以外にも、素早く歩きながら近づいてくる。
「賢一、分かったよっ! うわっ! これは、不味いねっ!」
「フンッ!!」
「先に行くわ、待っているからね」
「賢一さんっ! 気をつけて、下さいよっ!」
「ガアガアッ!!」
左側から、モイラが向こう側にまで走り抜ぬけようとすると、大柄なゾンビは直ぐに反応した。
奴は、機敏に動き、ラリアットを繰り出して、彼女の頭を迎え打たんとするも避けられてしまった。
右側から、エリーゼは二体の間を素早く通り抜けてしまい、一気にドアまで、たどり着いた
メイスーは、右端の壁際に並べられた運動器具に近寄り、敵から距離を取りながら逃げた。
「賢一、お前だけだっ! さっさと、着てくれっ!」
「こっちに来ないと、置いて行くわよっ!」
「心配は要らんさっ! 俺も、今そっちに…………うごおおぉぉ」
「グオオ~~~~~~」
ダニエルとモイラ達の呼び声に、賢一は直ぐさま、三体から逃げようと走り出す。
彼の心臓は高鳴ったが、それでも行くしかないと思い、すばやく駆け出した。
しかし、その瞬間に、下腹部に鋭いキックを喰らってしまい、凄まじい衝撃が全身に迸った。
そして、右手で腹を押さえるのだが、予想以上に苦痛が酷く、思わず吐きそうになった。
「大丈夫ですか? 賢一さんっ!」
「カハッ! ヨダレが出てしまったか? 血じゃなくて、良かったぜ」
ドアの方から、メイスーが思わず叫んでしまったが、賢一は腹を擦りながら敵を睨む。
再び、大柄なゾンビ達は、ドシドシと足音を立てながら接近してくる。
「メイスー、心配するなっ! 今、そっちに走るっ!」
「はい、早くきて下さいっ!?」
「ウガアアアアーーーー!!」
窓側から、回り込むようにして、賢一は敵の背後にあるドアを目指して、即座に駆け出していく。
そんな彼を見守るメイスーを含む、他の仲間たちには、大柄なゾンビが追ってくる姿が目に入る。
「ウガアア」
賢一の後頭部に伸びた、大柄なゾンビが振るった豪腕は、ギリギリで当たらなかった。
「早くしろっ! 奴らがくるぞっ! もう、そこだぜっ!」
「分かってるっ! 捕まるかよ、閉めるぞっ!」
「これを使えっ! ぐっ! 重たいな」
「ホ…………危なかったですぅ~~?」
「でも、どうする? ここからは先は、またドアから廊下に出ないと成らないよっ!」
「行くしか無いわ、出ないと、また…………」
ドアから、トカレフを構えようとしながら、ダニエルは叫び、賢一を急かす。
だが、彼は冷静さを保ち、一気にドアまで逃げると、直ぐに敵が入って来られないようにする。
こうして、ジャンが用意した、休憩用の背凭れがないベンチが、壁に立て掛けられた。
それを見ながら、メイスーは胸を撫で下ろして、ゆっくりと息を吐き出した。
塞がれた出入口とは、また別なドアを見ながら、モイラとエリーゼ達は、険しい顔で呟く。
そして、彼等は、それぞれの武器を構えているが、全員に緊張感が漂っていた。
「賢一、行くぞっ! ここも、突破されるかも知れないからなっ!」
「ああ、アレを何時までも聞いていたら、いい気持ちに成らないからな」
「ウゴアアアアーーーー」
ダニエルの提案に、賢一は頷き、ドアを開いて、物音を立てずに、廊下に出ていった。
その間、大柄なゾンビと、連中がドアを叩く音が、ずっと響いていた。
「で、どうするよ? このまま俺が、先導するから、後ろは任せたぞ」
「私が左を見張るわ、みんな着いてきてね?」
「ああ、後ろは俺が見張るっ!」
「とにかく、先に進みましょう? この惨状も目にしていると、なんか嫌だし」
賢一は、廊下に出ると、右側は行き止まりなので、左側に向かって動き出した。
モイラも、多用途銃剣を構えながら、廊下に転がる死体を警戒しつつ歩きだす。
タガネを逆手に持ち、ジャンは後方から、さっきの大柄なゾンビ達が来ないかと見張る。
床に散らばる無惨な遺体を前にして、それを何度も見てきたとは言え、エリーゼは顔を剃らす。
「死体が散乱しているけど、撃ち合ったり、ゾンビに殺られたのね?」
「こっちのは頭を撃たれているな? コイツは頭を潰されている」
モイラと賢一たちは、惨殺された遺体に目を向けるが、直ぐに前を見直す。
どうやら、ギャングとゾンビ達が戦ったようだが、双方ともに死んだらしい。
二人は、冷静に状況を分析して、あの大柄な三体が、暴れた可能性が高いと思う。
それに、死体が動き出さないか、警戒しながら、彼等は奥へと向かっていった。
「この部屋は、鍵が掛かっている…………中は?」
「ウム? ウム?」
「ムシャムシャ」
「ダメだわ、他は人が見えないわね」
「こっちも、ダメだぜ? 全然、開かねーー!」
右側のオフィスを覗いて、賢一は様子を確かめたが、そこは既に、ゾンビ達が徘徊していた。
反対側にある保管庫を、モイラは調べるが、ドアを開けても、藻抜けの空となっていた。
ダニエルも、色んな部屋を探るが、二人の時と同じような感じで、入られそうには無かった。
仕方がないので、右手に大型ナイフを握り締めた彼は、奥にある両ドアを目指した。
「よし、これを開けたらっ! うわっ! 危ないっ!?」
「何かしら? これ、罠が張り巡らせてあるわ? ブービートラップよ? みんな、気をつけてっ!」
「ベトナム戦争かよ? きっと、通信兵部隊の生き残りが仕掛けたんだな?」
「とにかく、気をつけて、進みましょう」
ダニエルが、両ドアを開けた途端、いきなり落下してきた、バーベルが襲った。
しかし、咄嗟に頭を下げたため、彼は腰を抜かしてしまったが、そのお陰で無事だった。
それを、モイラが調べると、両側に紐が結ばれており、誰かが仕掛けた物であると分かった。
他にも、同じような罠が無いかと、賢一は辺りを気にしながら歩いていく。
エリーゼは、この室内を見渡して、怪しい物品に触れないようにしようと、警戒感を強める。
ここは、職員の休憩室らしく、テーブルや灰皿、パイプ椅子などが、幾つか置いてあった。
「ドアを開けた途端、これか? 奥の部屋にも同じ物…………いや、これより危険なのが有るかも知れないな」
「あ、あそこに長いロープが? 明らかに、ヤバそうな感じが?」
「ショットガントラップだっ! メイスー、危険だから下がるんだっ!」
「だね? どうやら、誰かが仕掛けたらしいわっ! ほら、これで解除できたわ」
下手に歩けないと思って、賢一は立ち止まって、テーブルに目を向ける。
それから、また別のドアを彼が開けると、メイスーは、ロープ罠を発見する。
ジャンは、それが右側に置いてある散弾銃タイプのパイプガンに繋がっている事に気がついた。
モイラが解除して、銃を回収すると、また他のブービートラップを探す。
こうして、廊下に出ると、そこには怪しげな物品が山のように設置してあった。




