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刑務所から冒険に行く前に


 賢一たちは、ゾンビ達との戦いに勝利して、何とか危機を乗りきった。


 刑務所の敷地内には、静けさが戻り、唸り声や銃声も轟かなくなった。



「終わったわね? 軽量プレートや防弾装備を身に付けてない兵士のゾンビばかりだったわ」


「恐らく、車両の整備兵や軽装備の連中だろう? もし、ゲームに出てくるような防弾ゾンビが出てきたら厄介だったぜ」


「君たち、無事だったかっ!?」


 モイラは、兵士ゾンビの死体を蹴りながら、まだ動く可能性がないかと、生死を確認する。


 しゃがみこんで、賢一は、倒れている看守ゾンビの身に付けている装備を触る。



 しかし、ただの黒いベストには、弾痕と血液が付着しており、着られそうにはなかった。


 ちょうど、そこにガンが、何処から敷地内に出たのか分からないが、看守を連れて現れた。



「ああ、何とかな? この様子だと、無差別に民間人を救出するために、入れまくったのか?」


「その通りだ…………指揮官は、ゾンビ災害を甘く見てて、感染している市民すら救助してしまったんだ」


「死ぬのが怖かったり、自分が、ゾンビになるとは思わなくて、隠す連中が居たのね? はぁぁ」


「それで、この様ね? 普段なら、スクープ写真を取っているわ…………生憎と、そんな元気がないけど」


 賢一は、彼を見ながら疲れたのか、右手を少し震えさせ、刑務所内に、ゾンビが溢れた原因を聞く。


 その質問に対して、甘は真剣な表情で答えながら、眉間にしわを寄せつつ両腕を組む。



 民間人の男女が死体となって、転がっている姿を見て、モイラは憐れむような視線を向ける。


 疲れたと言わんばかりに、エリーゼは、ハンヴィーのボンネットに座って、うつむく。



「それで、アンタは誰なんだ? あの偉そうな指揮官は、何処に逃げたんだ?」


「彼の指揮が無ければ、兵士たちは市民の救助を行わないのでは? そうなれば、まだ無事な人々が危険に晒されたままに」


「指揮官と刑務所長は、ゾンビの攻撃により殉職された…………今は、私が責任者だが、これ以上の無闇な民間人の受け入れは拒否する」


 賢一とジャン達は、指揮官の行方と、市民救助に関して、甘に質問した。


 すると、二人の問いに対して、看守が理由を答えながら、衝撃的な発言を口から出した。



「この惨状を見て、市内は危険だと判断したっ! よって、我々は動かない」


「何だと? 市民を助けるのが、我々、公務員の仕事だろうがっ!」


「落ち着けよ、暴れても仕方ないぜ? まずは話を効かないと」


「下手に、また入れたら? 務所の中が、奴等で溢れるわよ~~」


 看守は、自分たちの安全を鑑みて、組織として、動かない事を選択した。


 その言葉を聞いて、ジャンは顔を真っ赤にしながら怒りだし、今にも暴れそうな姿勢になる。



 手を出さない内に、ダニエルは、彼を後ろから押さえて、何とか説得を試みる。


 エリーゼは、疲れきった表情で、暑い陽射しを浴びせる太陽を見ながら呟いた。



「それに、我々は勝手に動けない…………軍の部隊も、私の管轄下にはないし? 外はゾンビだけではない? 暴徒やテロリストが暴れている」


「ならっ! なおさら、市民の救出に向かわないとっ!?」


「ジャン、俺たちだけで行こう、もし困っている人間が居るなら、俺たちが動けばいい」


 看守は、困った表情を浮かべながら、敷地内を囲む建物両側の二階に立つ、見張りたちを見る。


 どうしても、行きたいと言って、ジャンは一人でも救助に向かうべく、踵を返した。



 その様子を見て、賢一は、早歩きで進む彼を止めて、落ち着かせようと試みた。


 行くにしても、何の準備もなしに向かえば、ゾンビや暴徒に殺られて、死ぬだけだからだ。



「私たちは、軍人だからね? それに、米国軍人はピロケト軍の指揮下にないわ」


「JSDFも、指揮権が無いぜ? まあ、勝手に行動したら、本来は始末書と査問委員会もんだが」


「君たち? 成るべくなら危険な場所に向かわせたくないんだが、行くなら止めはしないっ! ただ、君たちの血だけが、血清を作る希望なんだ」


 右側のポケットに閉まっていた、コルト45を抜いて、モイラは、チェッカリングする。


 賢一は、右肩を特殊警棒で叩きながら、苦しそうな表情と、額から汗を垂らしつつ話す。



 六人の血が必要な甘は、彼等には行って欲しくないと、困ったような顔を浮かべる。


 だが、それを止める権限も、また理由も彼にはなく、仕方なく行かせるしかない。



「だから、この周辺の安全を確保して、私たちを首都にある研究所に連れていって、欲しいんだ」


 甘は、ゾンビに対する治療方やワクチンを作るため、六人の前で、真剣な顔をしながら頼む。

 


「えっと、賢一さんが行くなら、私も…………」


「いい、スクープ写真が撮れそうだわ? これは、政治家のスキャンダルより、凄いのが撮れるわ」


「お前ら、行くのか? まあ、どの道、ここに長居しても仕方がないからな」


「みんな、市民の救出に手を貸してくれるのか?」


 メイスーは、他に頼れる人も居ないので、賢一を含む仲間たちに着いて行くしかない。


 バッグから黒いカメラを取り出し、エリーゼは兵士と看守たちを、レンズ越しに眺める。



 両肩を、ダラリとさせながら、ダニエルは入口の方を見て、背筋を伸ばしつつ呟く。


 ジャンは、皆が自分とともに行動してくれる事が、嬉しくて驚いてしまう。



「まあなっ? ここに、何時までも籠城するワケには、いかない? それに兵隊は、給料分は働かなきゃなっ! 出るかどうかは分からないが…………」


「ふむ、行くなら止めはしないが? 無線機を持って行くといい、全員分はある」


 賢一は、ヤル気を出したが、すぐに大事な金のことを思い出して、表情を曇らせる。


 彼に、看守は右側にある仮設テント内の携帯無線機が、いくつか置いてあった木箱を指差した。




「ああ、待ってくれ、くれぐれも気をつけてくれっ! 私が刑務所の無線室から、サポートする? あと、首都に行くには、それなりの準備が必要だろう」


 甘は、そう言いながら右手を出して、全員を止めて、神妙な顔つきで話す。



「分かった、まず何が必要なんだ? 銃か? それとも爆弾か?」


「いや、必要なのは船だっ! ここは出島のような地形になっている、ボロロハル島だ? ただ、殆どの船は沖に逃げてしまったし、残っているのは海賊や密輸業者…………」


「或いは? 凶悪なテロリストだね」


 賢一が、何気なしに質問すると、甘は地域の名前と、現況を説明する。


 それを聞いて、モイラは目付きを鋭くさせながら、さらなる悪党の名を呟いた。



「て、テロリストッ? ヤダ、怖いっ!? 普段なら、街に出ないのに?」


「ジャングルの連中が、この混乱に乗じて、沿岸部に出てきたか? 厄介だな、救助の邪魔になる」


 地元民であるメイスーは、普段なら居ないはずの悪党たちを怖がり、両肩を触って、体を震わせる。


 同じく、地元で働いているジャンも、凶悪な武装集団の存在は知っている。



「そうだ? 様々な武装集団が動いている……だから、まずは現在地の北部ボロロハル島ビーチから、海峡を隔てた南部ボロロハル州都コロランに向かわねば成らない?」


 甘は、懐からピロケト諸島の地図を取り出しながら、六人に現在地を教える。



「さらに南下して、ワギオブラス島に、そこからヘランソロン島、最後はマカラナル島だ」


「段々、インドネシアに近づくんだな? はあ、市街地と海、ジャングルを越えるのか」


 甘の説明を聞いて、賢一は、かなり壮大な冒険に成りそうだと思った。



「賢一さん、もう行くんですか? 私は、大丈夫ですけど、皆さんは…………」


「早く行こう、俺たちを待っている人たちが居るんだ」


「いやいや、まずは準備が先よ」


「行き先も決めないとなーーで、まずはビーチに行って見るか? ふぅーー」


 メイスーは、勇気を振り絞りながら、怖いのを我慢して、外に出て行こうと決意する。


 一方、ジャンはと言うと、今すぐにでも、飛び出していきそうな顔を見せる。



 冷静なエリーゼは、無鉄砲に進む事を危険視して、使えそうな物は無いかと辺りを見渡す。


 ダニエルも、両手を空に掲げながら、大きな欠伸アクビをしながらため息を吐いた。

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