本格的なコロッセオの戦い
黒装束の女性は、ブルーグリーンに輝く瞳を、鷹や狼を思わせるほど、鋭くさせている。
「おい、アイツらは抗体があるんだ? 変なことは考えるなよ? 心配する気持ちは分かるが、生存者同士の対立は良くないからな」
「ふんっ! どうだか、分からないわ」
声をかける賢一に対して、今度は鋭い目付きを向けて、黒装束の女性は殺気を放つ。
「リーマ、彼らを困らせるな」
「…………は? ウザいわ」
白装束を身に纏う、アラブ系の男性もトラブルを防止するために動いた。
リーマと呼ばれた女性は、不機嫌そうな顔で、その場から離れていった。
「済まないな? 彼女は、戦場を通ってきたらしく、警戒心が強くなっているようだ」
「アンタの連れか? いや、その話を聞くに知り合ったばかりのようだな」
アラブ系の男性は、やつれた顔で近づいてきて、賢一に事情を説明しようとする。
「ああ、私はタラル・ハズルール…………観光目的で、ここに来たんだ? 彼女は…………リーマの事は同じような地域から来た観光客だと言うことしか知らないんだ」
さっきの女性と、タラルと名乗る男性は、夫婦や親子かと思われたが、全く関係性がなかった。
「ただ? 本人の話しでは、激しい戦闘をギャングやゾンビ達と繰り広げてきたとしか、語られなかった…………特に、手榴弾やロケットランチャーを撃ったらしい?」
「それで、あんなに気が立っているのか?」
タラルの話を聞いて、賢一は自分たちが戦ってきた敵を思い出す。
大量の狂暴なゾンビによる襲撃、凶悪なギャングによる銃撃などだ。
「ビール、お前は酒飲みだから? コイツを飲みたいんじゃないか?」
「さあ、金持ちも居ないし、昨日の続きと行きましょうか? 飲まなきゃ、やってらんないし」
「いや、流石に飲めないぜ? 昨日、あんなに飲んだせいで、腹の具合が悪くてな…………モニカ、ドンスコイ、お前らだけで飲んでてくれ」
賢一は、さっき殺意を向けられていた二人を眺めて、ゾンビに転化しないかと思う
ロシアンマフィアは、ドンスコイと呼ばれ、太平洋系の女性は、モニカと言うようだ。
顔を青くして、今にも吐きそうな東南アジア系の男性は、ビールと呼ばれた。
どうやら、彼は酒飲みらしく、それで変なニックネームをつけられてしまったのだろう。
「まあ、喧嘩しないように離しておこう? 俺は賢一って言う」
そう言いながら、賢一はトイレに行きたくなったため、廊下の方へと向かおうとする。
「じゃあな、タラル」
「ああ、賢一? 困りごとがあったら頼ってくれ」
こうして、賢一とタラル達が、話を終えて別れてから少し時間が立った。
「ゲホゲホ、オレンジジュースが喉を刺激したっ!」
「一気に飲むからよ? ああ、まだ、ヒリヒリするわね」
パイプ椅子に座りながら、ドンスコイは背中を丸めて咳き込み、モニカは腕を辛そうに痒がる。
「もう末期ね…………私は間近で見たのよっ!」
M1カービンを持つ、リーマはパイプ椅子に座っている二人に銃口を向けた。
「よせっ! 何をするっ! 止めろーーーー!?」
「邪魔しないでっ!!」
「な、俺たちを撃つなっ! 噛まれても、発症しないって、聞いているだろう?」
「ちょちょ、ちょっと、撃たないでよ…………」
トイレから戻ってきたばかりの賢一は、リーマが握るM1カービンを取り上げようとした。
ドンスコイは焦りまくり、パイプ椅子の裏に隠れ、モニカは両手にダブルバレルを抱える。
「アイツらは転化しないっ! 噛まれてから、二日も立っているんだぞ?」
「知らないわよっ! はやく、撃ち殺さないとっ! 撃ち殺さないとっ! コロさないト…………ゲボアアーー!!」
「うわああああっ!? ゾンビ化したあーー!」
「いったい、どうなっているのよっ!? はあ、なっ! なんなの?」
リーマが握るM1カービンの銃口を下げた瞬間、賢一は背後に回り込み、羽交い締めにする。
これで、彼女は身動きが取れなくなったが、いきなり激しく暴れだすとともに吐血した。
それで、苦しそうに首や胸元をかきむしりながら、手榴弾のピンを取り外してしまった。
混乱の最中、ドンスコイは慌てて逃げ出し、モニカは床に突っ立ったまま、思考が停止する。
「ゲグエエエエーーーー!!」
「コイツ、体に手榴弾を巻き付けて…………っ! みんな、離れてくれっ!」
大量の吐瀉物が混ざった血を、リーマは撒き散らしながら、賢一に捕まれた体を投げ飛ばされた。
直後、彼女の体が爆発炎に巻き込まれて、原型を留めないほど吹き飛んだ。
「はあ、はあ? 感染していたのは、コイツだったか…………だから、あんなに殺気だっていたんだな」
「おいっ! 賢一、来るぞっ! どうやら、今の爆発音が、ゾンビ達を呼んだらしいっ!」
賢一は、黒焦げになった地面を見ながら呟き、唖然と立ち尽くす。
そんな彼に、ジャンは声を掛けながら、左側の廊下に九九式軽機関銃を向けた。
「不味い、集まってきたか? ここは二階の窓は開いてないよな」
「お願いだから、ドアを破壊しないでくれよ…………」
「ギャアアアア」
「ガルルルルッ!?」
九九式狙撃銃を持ち、もしゾンビ達が入ってきたら、賢一はゴボウ銃剣で牽制しようと身構えた。
ジャンも、膝立ちになりながら、九九式軽機関銃を何時でも撃てるように待機する。
廊下の奥にある両ドアは叩かれまくり、女性ゾンビや男性ゾンビ達が、吠えまくる。
バンバンと、強く板が揺れる音が鳴り響き、足尾も段々と大きくなってきた。
「ゴアアアアアアーー!!」
「ギャア、ギャアッ! グエン…………」
「ガアアアア~~!? ウギ、ギ、ゲ、ガア?」
「こっちから来たわっ! 撃つのよっ!」
「ひぇぇぇぇ!?」
両ドアが蹴破られてしまい、マッスラーが中に大量のゾンビ達を引き入れてくる。
モイラは、すぐにM4カービンを連射して、中に入ってきた敵を射殺していく。
M1カービンを乱射して、メイスーの射撃も、アンデッド達を倒していった。
だが、小走りするゾンビは何とかできても、特殊ゾンビ達までは止められない。
「グアアアアーーーーーー!!」
「ガアア~~!?」
「ガアガア、ギャーー!!」
「ゲロロッ! ゲロロロロ」
「ウガア、ゲロロロロロロ~~~~」
銃弾を何発も受けながらも、マッスラーだけは両腕を交差させて、ドンドンと床を踏み鳴らす。
黒人作業員ジャンピンガーは、ジャンプしまくりながら、一気に近づいてくる。
ラテン系フレッシャーも、背を丸めながら前傾姿勢で廊下を走った。
スピットゲロー、ファットゲロー達も現れると、強酸を吐き飛ばしてきた。
「もう持たないわ、下がるよっ! 援護してっ!」
「ひゃああああっ! や、ヤバいですっ?」
「下がれ、俺が金属バットで叩いてやるっ!」
「アギャッ!?」
「ぐっ! 早くして、私が盾で押さえているうちに、撃ち殺してっ!」
「ギギィィ~~~~!」
モイラは下がりながら、M4カービンを単発連射させて、一体ずつ敵を仕留める。
メイスーも焦りまくり、ヌンチャクを取り出して、敵の頭を叩こうとした。
そこに、ジョニーが左側から現れて、廊下から出てきたばかりの警備員ゾンビを殴った。
ゴミバケツ蓋を構えながら、ダイバーナイフを振るい、ジュリアは作業員ゾンビを斬る。
「お前ら、援護してやるっ! 離れろっ!」
「俺たちが、撃ちまくる」
賢一はAR15を、ジャンは九九式軽機関銃をそれぞれ連射しまくり、ゾンビ達を倒す。
「ゴアアーーーー!?」
「ギャアッ!?」
「グエッ!?」
「ガベッ! ギャ」
ジャンの放った大口径弾を受けて、マッスラーを始めとするゾンビ達は、崩れるように倒れていく。
機銃弾が貫通して、後ろのゾンビ集団まで、次々と死んでいった。
賢一が撃った弾も同じく、フレッシャー&ジャンピンガー達を貫いていった。
こうして、だいたいの敵は倒されたが、スピットゲロー&ファットゲロー達は、まだ残っている。
「ゴアアアアーーーー!?」
「ギャアッ!?」
「グルアアアアーーーー」
「なに? 反対側からもっ!!」
賢一が向いている方向とは別の廊下からも、マッスラーがドアを蹴破って現れた。
もちろん、ゾンビやウォーリアー達を引き連れており、連中が我先にと突撃してきた。




