アリーナ=コロッセオの戦い
賢一たちは、運動場の中に入り込み、押し寄せるアンデッド集団から何とか逃れた。
「ガウウーー!! グャッ!!」
「ガルルッ! グワッ!」
「グルルルル~~~~? ブベッ!」
外で爆発音が鳴り響き、ゾンビ達が爆風で、吹き飛んだらしく、変な声も聞こえてきた。
「クレイモアが、全部炸裂したわね」
一安心と言うような顔で、モイラは呟きながら、両ドアから離れていく。
「モイラ…………どこで、クレイモア地雷を入手したんだ?」
「前に、スポーツジムに行った時の残り物だよっ!」
賢一とモイラ達は、両ドアをゾンビ達が突破して来ないかと、それぞれ刃物を握る。
「そこで話してないで、はやく入口から離れよう…………ここは知り合いが運営しているアリーナなんだ」
「マラソン、テニス、バスケット…………それに、ライブまで行っているのよ」
トニーとシンシア達は、廊下の奥に向かって、ゆっくりと歩きだす。
薄暗い廊下の天井だけが白く、両側に続く壁は、ブルーグリーン色に塗装されていた。
「安全な場所なら良いんだが? ここは体育館みたいだな? 観客席がなければ学校みたいだ」
「屋根のある中規模なアリーナだね」
「ああ、普段は責任者のジョニーが管理しているんだが? 姿が見えないな…………」
賢一は、広い運動場に出ると反対側にある観客席と、その間にある出入口が見えた。
左右を眺めて、そこにも中央に両ドアがあるのを、モイラは見つけた。
トニーは、一人で歩いていき、周りをぐるりと見回して、仕事仲間たちの姿を探す。
だが、薄暗い屋内には自分たちのほかに、人間は誰も存在しないように思われた。
「静かだな? 妙だ…………」
「何か、怖いです…………」
「まさか、敵が? いや、まさかな」
薄暗いせいか、屋内アリーナは不気味な静寂に包まれており、賢一は身構えてしまう。
シーンとする場内で、メイスーは体に力を入れ始め、ジャンは九九式軽機関銃を構える。
「おい? 動くなっ! って、トニー? シンシアじゃないか?」
「知り合いなのか?」
白人男性が、観客席から怒鳴りながら立ち上がり、こちらに向かって、金属バットを振るう。
その手前でも、ミニM14を構える白人男性が、こちらを睨んでいる。
「ジョニー、スティーブ達はどうした?」
「私たちは、軍用放出品店から来たのよ」
トニーは、姿が見えない他の仲間たちを探して、観客席や両ドアに目をむける。
シンシアも疲れた顔で、首を左右に振りながら、同じく知人や友人たちを見つけようとする。
「スティーブ達は、分からんっ! 俺たちも、ずっと、ここに居たからなっ!」
両腕を組ながら、ジョニーは残念そうな表情で、うつむいてしまった。
「なんだ、知り合いなのねっ! ふぅぅ」
「よかった…………敵が来たのかと思ったぞ」
太平洋系の女性は、ダブルバレルを向けていたが、敵意がないと分かると緊張を解いた。
CF98を、ホルスターに仕舞いながら、アラブ系の男性は、階段を降りてくる。
反対側の観客席でも、何人か生存者たちが生き残っており、こちらに近づいてくる。
やがて、彼らは両側から、賢一たちと合流して、中央で話し合いを始めた。
「トニー、シンシア、そっちの人たちは?」
「ギャング達に、捕まえられている所を助けてくれたんだ」
「危うく、ゾンビの餌にされそうになったわ」
ジョニーと呼ばれた中年で、茶色い口髭を生やした白人男性は、賢一たちのことを聞いてきた。
トニーとシンシア達は、手短に六人が助けてくれたのだと話した。
「賢一と言います…………自分はJSDFの所属で、こちらはアメリカ海兵隊員のモイラです」
「と言っても、私たちは本隊とは別行動しているから、軍隊は助けに来られないけどね」
「そうか? こちらはギャング連中の活動が活発だからな、仕方ないか…………君たちも休んでいくといい」
賢一とモイラ達が敬礼すると、ジョニーは助けが来ないと聞いて、ガッカリした。
「暫くは、ここに滞在しているといい、私は管理責任者だからな?」
「トニー、喉が渇いてないか? コーラとサイダーが有るが、どちらが良い? アンタらも、一杯飲むか?」
「シンシアも無事だったのね?」
気を取り直してから、ジョニーは新しい生存者仲間たちを歓迎した。
水色の作業着を着ている黒人男性と黒人女性たちも、嬉しそうな顔で、みんなに声をかけてきた。
男性の方は、ツルツル坊主で、サングラスを掛けており、体格がよい。
女性は、黒髪をポニーテールにしており、唇は薄ピンク色に光っていた。
「マイク、シンシア、お前らも無事で良かったぜっ! この二人は俺の仕事仲間なんだわっ! ジョニーは上司なっ!」
「ええ、本当に良かったわ…………私は、アマチュアスポーツ選手ね? だから、いつも運動場には顔を出してるのよ? この地域は知っているけど、まさか運動場に逃げ込むとは思わなかったわ」
「なるほどな? だから、ここに逃げてきたんだな? 一杯は後にするよ? 悪いが、今は気分じゃないからな」
「そうか、飲みたくなったら、売店に来てくれ」
トニーとシンシア達は、自分たちのことを教えると、賢一たちから離れていった。
そして、彼らは仕事仲間であるマイクの方へと向かっていき、お喋りを始めた。
「暫くと向こうは言ったが、ここでは少しだけ休憩していよう? はやく漁港に行きたいからな」
「そうね? さっきの駐車場よりは安全そうだけど、先に漁港に行かないとっ!」
「取り敢えず、俺はコーラを分けて貰ってくる」
「呑気ね? まあ、私も化粧室を借りてくるわね」
真面目に話しあう賢一とモイラ達とは対照的に、ダニエルは売店に向かう、マイクを追った。
エリーゼも、尿意を我慢していたらしく、出す物を流す場所を聞きに行った。
「俺は、負傷者が居ないようだから、あっちで休んでいるよ? ここでは、消防士が活躍する必要がない」
「私は、少しの間だけ横にならせて欲しいです…………さっきので、かなり疲れましたし」
そう言って、ジャンは観客席の下へと向かっていき、そこで壁に背を預けながら座る。
メイスーは、やつれたような表情で呟き、階段を上がっていった。
「みんな、疲れているんだな…………さっき、休んだとは言え、またゾンビっ追っかけられたもんな」
賢一は、一人呟きながら、アリーナ内で何か問題がないかと歩いていく。
大丈夫そうなら、彼も何処かで休もうと考えながら、座れそうな場所を探す。
「噛まれた後の治りが悪いわ、これ以上は悪化しないと良いけど」
「クソッ! 目が痒いな、目薬が欲しいぜ」
「はあ? 休憩と言っても、どうするかな…………? 噛み跡があるっ! それに、目だと?」
チリチリポニーテールを、ピンクに染めている太平洋系の女性は、右腕を擦る。
スキンヘッドのロシアンマフィアっぽい白人男性も、両目をポケットティッシュで吹いていた。
それを見て、賢一は大慌てで、腰からCF98を引き抜こうとした。
だが、彼は噛まれたとしても、ゾンビに転化するとは限らないと、甘が言っていたことを思いだす。
「い、いや? アンタら、何日前からだ?」
「二日前の戦闘で、私たちは噛まれたり、毒血を浴びたのよっ! 最悪のツアーだったわ」
「以降は、何の変化もない…………恐らくは体制があったんだろう? この話しは無線機で聞いている」
賢一は、太平洋系の女性とロシアンマフィア達に、取り敢えず質問してみた。
「そうか、噛まれても平気なタイプだったんだな…………それを聞いて、安心したよ」
二人とも、ある程度の抗体持ちであると分かり、賢一は安堵することができた。
「どうだかね?」
賢一は、胸を撫で下ろした瞬間、背後から誰かの声が聞こえたため、そちらに振り返った。
そこに立っていた人物は、黒装束に身を包んでいるアラブ系の女性生存者だった。
背中に、M1カービンを背負っている彼女の目は鋭く、ブルーグリーンに輝いている。
そして、かなり強い殺意を、抗体持ちの二人に対して向けていた。




