#5 エンジェル・メッセージ
シンジは、ルチルと最初に会った空き地にいる。
残された時間はわずかだ。数分でルチルは天に帰ってしまう。
シンジは、早速核心にふれる。
「なあ、ルチル。転生しないか?」
「生まれ変わったら、あんちゃんのこと忘れちゃうんじゃろ? ルチルはイヤじゃ」
シンジが胡坐をかいている膝の上で、ルチルがふと顔を上げた。
その瞳はどこか寂しげで、ほんの少しだけ不安を含んでいるようだった。
シンジにとっては1日足らず。
シンジが生まれた時から守護をしていたルチルには20年間の想い出がある。
「怖い夢を見なくて済むぞ?」
「……」
ルチルの反応が鈍くなってきている。
午後11時59分が近づいているからだろう。
「ルチル、眠い……」
答えを告げる前に、ルチルは空へと帰っていった。
シンジが必死に声をかけても、ルチルの魂の抜けた人形は反応しなかった――。
☨
ルチルが最後に姿を見せてから一年。
年に一度だけ、彼女が再びこの世界に触れる“特別な時”がやってくる――
今日、ルチルは7歳の誕生日を迎える。
ルチルの姿を見ることができる唯一のチャンスだ。
だが、それはルチルが答えを出したことを意味する。
彼女が守護天使の道を選んでいたら、『ルチル』と名乗るということだ。
そうでなければ違う名を口にするだろう。
転生か、守護天使か。
ルチルはどちらを選択したのだろう……。
午後11時58分。
銀髪碧眼の人形の目がゆっくりと開いた。
ルチルには転生の道を選んで欲しい。
過去の記憶をすべて消去し、新たな人生を歩んでほしいとシンジは願う。
あれだけ考えて、決めたはずだった。
それでも、会う直前になって、また気持ちが揺らいでしまう自分がいた。
すがる思いで、シンジは人形に話かけた。
「ひさしぶり。いや、初めまして、かな……。君のなまえを教えてくれる?」
「ルチル……」
悲し気な表情でルチルが告げた。そう名乗ることで、彼女はすべてを選んだのだ。
「そうか……」
本人が決めたことなら何も言うまい。
シンジは、二度とルチルに触れることはできない。声を聞くこともできない。
微笑みかけてくるルチルの姿を見ることすら叶わない。
なにより、守護天使の道を選んだルチルは、この先も悪夢を見続けるのだ。
嬉しさと悲しさが混ざりあったものが胸に突き上げてくる。
「ほんとうは、ルチルな、転生してみたかったんよ」
「……」
「あんちゃん……」
「なんだい?」
「バイバイ……」
一瞬だけ笑みを浮かべると、人形と共にルチルは消えてしまった。
シンジがふと見上げた空には、エンジェル・ナンバーが浮かんでいた。
1159
天使が見守っているというサイン。
そんな意味のメッセージを、ルチルが残していった。
シンジは、そっと目を閉じる。
ルチル。
お前にも、幸せが訪れますように。
Liberer une ame errante de l'emprisonnement.
(彷徨える魂を、囚われから解き放つ)
彼女の魂は、もう自由だ。