83話 騎士団の反旗 - 動き出す覚悟
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王宮の中庭に、硬く澄んだ朝の光が差し込んでいた。
その静けさは、不気味なほどだった。まるで嵐の前の一瞬の凪。
「全隊、配置についた。王宮北棟、南棟、すでに包囲済みだ」
低く抑えた声でルシウスが告げる。騎士団の副団長である彼の視線は鋭く、戦場を見据える鷹のようだった。
その隣で、ユリウスが短く頷く。無駄のない動きで剣の柄に手を添えた。
「……ルシウス、副団長。あの塔の上、見張りが二人。恐らく内通者だ」
「よし、制圧は俺が指示する。お前は、アリアたちと合流してくれ。王宮内の潜入は、やつらが本命だ」
「了解しました」
ユリウスの背筋が伸びる。だが、その横顔にはほんの一瞬、迷いが差した。
(騎士としての務めを果たすべきか。彼女を守るために、剣を抜くべきか……)
だがその迷いは、一歩を踏み出した瞬間に消えた。
「アリア、準備は?」
静かに振り返ると、アリアがフードを深くかぶり、神殿の回廊から姿を現した。
その背後には、エリオットとマコトも控えている。彼らの目もまた、揺るぎない。
「うん、行こう。王宮の心臓部に、黒幕がいる。もう、迷ってる時間なんてないから」
アリアの声は静かだったが、胸の奥に火を灯すような力強さがあった。
「念のため言っておくが、今回はただの潜入じゃない。やつらは、魔術師を使って内部から混乱を煽ってる。道中、騎士と魔術師の混成部隊が待ち構えている可能性もある」
エリオットが冷静に状況を読み上げる。その口調は落ち着いていたが、右手にはすでに防御魔法の準備が整っていた。
「正面突破は避けよう。私は裏手の文官用通路から侵入する。マコト、あなたは……」
「敵を引きつける役なら任せてくれ。静かに、正確に」
マコトの言葉は短いが、その瞳の奥に宿る鋭さに、誰もが頼もしさを覚える。
かつての彼の弟子であるアリアでさえ、その背中に一瞬、敬意を込めて目を伏せた。
「行こう」
その一言で、4人の影が闇の中へと消えていく。ユリウスの背で揺れるマントが、かすかに風に舞った。
*
王宮の内部は、かつて知っていたはずの空間がまるで違って見えた。
豪奢なシャンデリアも、赤絨毯の廊下も、今は静かすぎて不気味だ。
「こっちだ。西翼の書庫に繋がる通路がある」
エリオットが示した細い扉を、アリアが素早く開ける。扉の向こうから、微かに人の気配。息を殺しながら、ユリウスが剣を抜いた。
「っ……来る」
マコトが、壁に身を滑らせながら囁く。直後、数名の兵士が通路の奥から駆け込んできた。魔術の光が一閃。反射的にエリオットが魔法障壁を展開し、衝撃がその場を揺らした。
「エリオット!すぐ横から回り込む!」
「わかってる!」
アリアが指示を飛ばし、ユリウスがその隙に前へと出た。剣先が敵の槍を弾き、続けざまに一撃を返す。静かな怒りが、彼の動きに宿っていた。
(……彼女を、これ以上巻き込ませるものか)
彼の「主」は、戦うべき場所に立っている。ならば自分は、剣でその道を切り開くだけだ。
*
激しい応酬を潜り抜け、ようやく奥の間へたどり着いたアリアたちは、密かに手を取り合った。
「ここが……黒幕のいる場所?」
「間違いない。中央会議室。この部屋だけ、魔力の流れが異常だ。恐らく結界か……あるいは、呪具の力を使ってる」
「入るよ」
アリアの瞳が、強い光をたたえた。
彼女の旅が、いよいよ一つの大きな節目を迎えようとしていた。
ーーー84話へつづく
※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。
作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。
あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。




