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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第一章 序章
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3話 -後編- 伯爵の苦悩と占い師の導き

*評価・リアクション(絵文字)・感想・イチオシレビュー全て受付けしております。


どれでも反応いただけると、とても嬉しいです。


どうぞよろしくお願いします。



「人の心を救うこと。それが私の使命……今日もまた、誰かの痛みに耳を傾けられますように」


アリアは小さく呟きながら、露店の机に手を添えた。

朝の鐘の音が遠くから響き、まだ薄暗い路地裏に静かな余韻を落としていた。


そのとき、一人の若い男性がアリアの露店へと近づいてきた。

上質な仕立てのコートを羽織り、貴族の従者らしい身なりだったが、どこか落ち着かず、顔には不安が滲んでいた。


「……すみません、少しお話を聞いていただけますか」


「ええ、もちろん。どうぞ、おかけください」


アリアの優しい声に導かれるように、男は小さく頷き、腰を下ろした。


「実は、私の主人であるアデルフォス伯爵が、最近、原因の分からない病に苦しんでおりまして……お医者様にも打つ手がなく……どうにか、心の内を視ていただければと……」


その言葉にアリアは静かに頷き、手を組み、目を閉じた。


「伯爵様の生年月日とフルネームをお願いします」


空気がふっと変わる。まるで音のない深い水の中へ沈んでいくように、意識が集中していく。


やがて、彼女の内に伯爵の魂の気配が浮かび上がる。

それは重く、深く、暗い霧に包まれていた。


「……伯爵様は、若き日に深く愛した女性を失っておられますね」


「えっ……」


「その愛は、周囲の反対により引き裂かれ、伯爵様は想いを封じたまま、心に重い扉を閉ざしてこられた。その喪失と後悔が、今の病の根にあるようです」


男性の顔が驚きと戸惑いに変わる。


「そんな過去が……私は、まったく知りませんでした……」


「伯爵様は、強い方です。誰にも弱みを見せず、すべてを心の奥にしまいこんでこられたのでしょう。でも、もう限界なのかもしれません」


アリアの声は穏やかだったが、その言葉には確かな力があった。


「癒しのためには、その想いを言葉にすることが必要です。伯爵様自身が、かつての想いを語り、自らの心と向き合うことで、闇は少しずつ晴れていくはずです」


男性は深く頷いた。


「……わかりました。私からお伝えします。伯爵様が話してくださるかどうか分かりませんが、やれるだけのことは……」


「ええ、きっと届きますよ。あなたの誠実な想いがあれば」


アリアは微笑んだ。






数日後。


露店の前に立った男性の表情は、前回とはまるで違っていた。

明るく晴れやかで、目には喜びが宿っていた。


「先生、伯爵様が……話してくださったんです。あの女性のことを。初めて、誰にも語ったことのない思い出を……」


その声には感動が滲んでいた。


「伯爵様の目から、涙がこぼれました。静かに、でも確かに。話し終えたあと、まるで肩の荷が下りたように、穏やかな顔をしておられました」


アリアも自然と目を細めた。


「それはきっと、伯爵様の心がようやく自由になれた証です。あなたがそばで支えたからこそ、伯爵様も勇気を出せたのでしょう」


「先生のおかげです。本当に……感謝してもしきれません」


男は深く頭を下げ、何度も礼を述べた。


「私にできることは、ほんの少し背中を押すことだけです。変化を起こすのは、いつもご本人の力なんですよ」


アリアのその言葉に、男性は感銘を受けたように頷いた。


「先生の言葉があったからこそ、道が開けたのです。伯爵様も、今では少しずつ食事を取られ、顔色もよくなられています」


「それはよかった……。心が癒えると、体も自然と回復に向かっていくものですから」


風が通り過ぎ、露店の帆布が柔らかく揺れた。

男性は丁寧にお辞儀をして去っていった。


アリアはしばらくその背中を見送りながら、ほっと胸をなでおろした。


夕暮れが路地裏を柔らかく染める中、アリアは静かに店を片付ける。





夜、部屋に戻ったアリアは小さな窓を開け、星空を見上げた。


そこには、まるで彼女の想いに応えるように、無数の星々が瞬いていた。


「……ありがとう。女神様。私は、私の道を進みます」


そう呟いてアリアは静かに目を閉じる。

彼女の胸の奥には、人々の心を照らす小さな灯が、静かに、確かに輝いていた。




ーーー4話へつづく



〈登場人物〉


* アリア:

* 路地裏で占い処を開く、心優しい占い師。

* 人の心の声に耳を傾け、過去や未来を読み解く力を持つ。

* 人々の幸せを願い、心の闇を払うことを使命としている。


* リディア夫人:

* 仮面で顔を隠した、悩みを抱える貴婦人。

* 夫である侯爵との関係に悩み、アリアの元を訪れる。

* 過去の秘密を受け入れ、夫との絆を深めていく。


* 侯爵:

* リディア夫人の夫。過去の秘密に苦しんでいる。

* リディア夫人の愛によって救われ、心の闇から解放される。


* 伯爵

* 若い頃に深く愛した女性と周囲の反対により引き裂かれてしまい、心の奥底に深い闇を抱えている。

* 心の奥底に抱えている想いを吐き出すことで、心の闇が少しずつ晴れていき、病も回復していく。


* 貴族家の使用人:

* 主人である伯爵の病気を心配しアリアの元を訪れる。

* アリアの言葉を信じ、主人である伯爵に過去の女性との思い出を語るように伝え、病気の回復に貢献する。



〈読者の皆様へ〉


第三話では、過去の秘密や心の闇に苦しむ人々が、アリアの導きによって救われていく様子を描きました。愛と信頼、そして心の声に耳を傾けることの大切さを、感じていただけたら幸いです。





____________________



※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。


作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。


あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。




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