2話 噂の占い師と秘密を抱えた女性 -過去からの呼び声-
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夕暮れ時、アリアは露店の奥に置かれた古い日記帳を開いた。
「…あれから三ヶ月。ようやくこの世界での生活にも慣れてきたけれど、まだわからないことばかりだわ」
日記帳には、異世界での生活、出会った人々、そして自身の過去についての考察が綴られている。
「なぜ私がここに呼ばれたのか、まだわからない。でも、きっと何か意味があるはず。そう信じたい」
日記帳を閉じ、茜色に染まる夕焼け空を見上げる。露店の周囲には、夕闇がゆっくりと訪れ、石畳の道には、家路を急ぐ人々の足音が響いていた。
(レオンさんの件が解決して、少しずつだけど、この街の人たちの事がわかってきた。そろそろ、次の段階に進む時が来たのかもしれない。でも、その前に…)
アリアは、自身の過去について考え始める。
彼女は、二つの前世の記憶を持っていた。
一つは、日本の広告会社で働く平凡なアラフォー女性社員。
もう一つは、中世ヨーロッパのとある大国の宮廷占い師。
なぜ彼女は、この異世界に呼ばれたのか。二つの前世の記憶が、何か関係しているのだろうか。
アリアは、過去の記憶を辿り始める。
「二つの前世、そしてこの異世界。全てが繋がっているような気がする。でも、まだわからないことばかり」
アリアは、日記帳にそう書き記す。
その時、彼女はふと、ある記憶を思い出す。
それは、中世ヨーロッパのとある大国の宮廷占い師だった2つ前の前世での記憶。
ある日、不思議な夢を見た。夢の中で、彼女は光り輝く女神と出会う。
『あなたは、二つの世界を繋ぐ者。過去と未来を紡ぎ、人々の心を導く者』
そう女神は告げると瞬く間に消えていった。
(なぜ、今になってあの頃の夢の記憶が…?…まさか、私が二つの世界を繋ぐ者?そんな、ありえない)
アリアは、自分の考えを否定する。しかし、胸の奥には、確かな予感が芽生えていた。
思わずその場で目をつむり、過去に意識を集中する。すると少し靄がかかったような紗のベール越しに見ているような、そんな視界不良の映像がぼんやりと見えて来る。
(王城でのパーティーだろうか?豪華に装飾されたホールの中、シャンパングラスを持った貴族たちが談笑している。映像はそこから少し離れたバルコニーで椅子に座り穏やかに微笑む若い男性の元へと変わる。金色の髪、優しい眼差し、いつも私を気遣ってくれたあの人…。私たちは、いつしか互いに惹かれ合い、結婚の話も出ていた。…あぁ、そうだ。彼はあの頃私の恋人だった…。だけど………)
「もしかしたら、私がこの世界に呼ばれたのは、過去の過ちを償うためなのかもしれない」
彼女は宮廷占い師だった前世で、ある出来事をきっかけに自らの力を恐れ、次第に占いをすることさえ怖くなり心を閉ざしていった。結果、多くの人々を傷つけてしまったのだ。その償いを、この異世界で果たそうとしているのかもしれない。
「そうだ。私はこの世界で、占い師として生きていく。そして、人々の心を導いていく。それが、私の使命なのかもしれない」
アリアは、そう決意する。
その時、再び一陣の風が吹き、露店の風鈴が鳴り響く。
アリアは、顔を上げ、夜空を見上げる。そこには、無数の星々が輝き、アリアを優しく見守っているようだった。
「…ありがとう、女神様。私は、自分の道を進みます」
アリアは、星々にそう語りかけた。
露店の暖簾が揺れ、一人の女性が顔を出す。
彼女は、薄いベールで顔を隠し、どこか怯えた様子で周囲を警戒していた。
「すみません、占いをお願いしたいのですが…」
突然の来客に、アリアは思考を中断し、笑顔で女性を迎えた。
「いらっしゃいませ。どうぞ、お入りください」
アリアは、女性を奥の席へと案内し、向かい合って座る。
「どうぞ、お話をお聞かせください」
アリアが優しく微笑みかけると、女性はゆっくりと口を開いた。
「実は、最近、私の周りで奇妙なことが起こるんです」
女性は、自分の身に起こる不可解な出来事について語り始めた。
それは、誰もいないはずの場所から聞こえる囁き声や、突然現れては消える黒い影など、常識では考えられないことばかりだった。
「もしかしたら、何か悪いものが憑いているのかもしれません……」
女性は、不安そうな表情でアリアを見つめた。
アリアは、彼女の瞳を見つめ、スピリチュアル鑑定を始めた。
「あなたの周りには、確かに何か、人のものではないものが存在しています。それは、悪意を持ったものではありませんが、あなたに強い関心を抱いているようです」
アリアの言葉に、女性は息を呑んだ。
「それは、一体……?」
「それは、あなたの過去に関係する霊のようです。あなたは、過去に何か、心残りのあることをした覚えはありませんか?」
アリアが尋ねると、女性は目を伏せ、しばらく考え込んだ。
やがて、彼女は重い口を開き、過去の出来事を語り始めた。
それは、彼女が若い頃、ある男性と恋に落ちたものの、家柄の違いから結婚を反対され、無理やり引き離されたという悲しい物語だった。
「私は、彼を裏切ってしまったんです……。もしかしたら、彼の霊が私を恨んでいるのかもしれません」
女性は、涙ながらに語った。アリアは、彼女の肩にそっと手を置いた。
「彼の霊は、あなたを恨んでいるのではありません。ただ、あなたに伝えたいことがあるようです。『許してほしい。そして、幸せになってほしい』と、そう言っています」
アリアの言葉を聞いた女性は、涙を流しながら深く頷いた。
「ありがとうございます、アリア先生。先生のおかげで、心が軽くなりました」
女性は、そう言って深く頭を下げ、アリアの占い処を後にした。
「さて、一件落着っと」
アリアは、露店の軒先に飾られた風鈴が夕日に輝くのを見ながら、小さく呟いた。
「彼女も、過去の呪縛から解放され、幸せになれるといいけれど……」
アリアは、空を見上げ、星々に願いを込めた。
「どうか、彼女が安らかな日々を送れますように」
その時、アリアはふと、女性の背後に見えた、微かな光に気づいた。それは、彼女の過去の恋人の霊が放つ、温かい光だった。
(あの光……。もしかしたら、彼女はもうすぐ、彼と再会できるのかもしれない)
アリアは、胸に希望を抱きながら、次の来訪者を待った。
ーーー3話へつづく
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※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。
作中に出てくる文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。
あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。