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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第九章 虹の記憶と星の芽吹き
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224話 ミーナからの便り - 巡る想い


 旅路の途中、次の街へ向かう石畳の街道で、アリアたちは思いがけない知らせを受け取った。

 街道沿いの小さな村に寄ったとき、教会の修道女が彼らを呼び止め、白封筒をアリアに差し出したのだ。


「アリアさん宛に、教会を通して手紙が届いています。差出人は……セリシア様ですね」


「セリシアから……!」


アリアの瞳がぱっと輝く。幼なじみの名を聞いた途端、胸の奥から懐かしさがこみあげた。


 仲間たちも「おお」「セリシアか」と声を上げる。


「読むね」


アリアはその場で封を切り、皆の前で手紙を広げた。


 便箋に並んだ文字は、懐かしい友の筆跡だった。




《アリアへ。あの日託された少女、ミーナは無事に教会へたどり着きました。今では聖堂の花壇に水をやり、花の世話を楽しみにしています。笑うことも、少しずつですが増えてきました。》


《私の元で癒し手としての学びを始めています。読書も覚え、熱心に書き写しをしている姿はとても健気です。

あなたが彼女に寄り添い、守ってくれた日々が、きっと力になっているのでしょう》


《ミーナは「アリアに会いたい」とよく言います。

その気持ちを伝えたくて、手紙を書きました。彼女をここに託してくれてありがとう。

あなたの旅路に祝福がありますように。 セリシア》




 アリアが顔を上げると、みんなの表情も自然にやわらいでいた。


「……よかったな」


最初に口を開いたのはマコトだった。短い言葉ながら、深く安心した声音。



「ミーナ、お花すき!」


プエルが胸の前で手を組み、ほっと微笑んだ。



「セリシアのもとなら、安心できるな」


ユリウスも小さく頷く。



 その横で、イリスがぽよんと跳ねてアリアの手元に寄ってきた。

透明な体で手紙の端をくんくんと嗅ぎ、「……ミーナ……げんき……?」とつぶやく。


 モルンも低く喉を鳴らし、巨大な竜の鼻先を封筒に寄せてにおいを確かめる。長い尾をゆったりと揺らすその姿は、まるで「よかったな」と言っているようだった。


 そんな光景に皆が微笑む。



「……あいつも、いい顔して過ごしてるんだな」


ぽつりとつぶやいたのはシュウだ。いつもの不器用な声色だが、ほんの少し口元がゆるんでいるのをアリアは見逃さなかった。


「シュウも、気にしてたんだね」


「別に……。ただ、子どもは笑ってた方がいいだろ」


 照れ隠しのように顔を背けるが、その耳まで赤くなっている。



 一方、ルクスはしばし黙って空を仰いでいた。

(ミーナは人間だから、アリアのそばを離れても大丈夫なのか……ずっと気になっていた。でも、こうして彼女を支えてくれる人がいて、居場所があって……想いは巡って繋がっていくんだな)


 ルクスは小さく息を吐き、安堵の笑みを浮かべる。

(俺たちはアリアに拾われて、共に旅をしている。ミーナはセリシアに預けられた。でも……それぞれの場所で守られているなら、それでいい)



 アリアは手紙を胸に抱き締め、瞳を細める。


「セリシア……ありがとう。ミーナが少しずつ前を向いてる。それだけで、こんなに心が温かくなるなんて」


「会いたがってるって書いてあったな」


ユリウスが優しく言う。


「ええ。いつか必ず……再会しなきゃ」


「その時は、俺も胸を張って会いたいな」


エリオットが泥だらけの鎧を見下ろし、苦笑する。


「子どもに“かっこよかった”ってまた言われたいし」


「その前に、ちゃんと風呂に入ってこいよ」


マコトの冷静な突っ込みに、仲間たちが笑い声をあげた。



 笑いが落ち着いたところで、アリアが改めて皆を見回す。


「……ありがとう、みんな。こうして一緒に喜んでくれるから、私は安心できる。ミーナもきっと同じ。彼女の想いも、私たちの旅も、ちゃんと繋がっているんだよ」


 イリスが「ぽよん」と跳ね、ルクスが静かに頷き、プエルが「うん!」と笑顔で答える。


 モルンは大きな翼をふわりと広げ、まるで祝福するように風を起こした。


 その風は、確かに一行の胸にも届いていた。



 ――ミーナの便りは、仲間たちに新しい力を与えたのだった。





ーーー225話へつづく

✪読んでくださり、ありがとうございます。

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※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。

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