19話 記憶の共鳴と王家の秘密 - 過去との対峙
古代文字の解読を進めるアリアは、秘密の部屋に安置された巨大な水晶から、ぞっとするほど強烈な怨念の気配を感じ取った。
それは、まるで生きているかのように脈打ち、アリアの精神をじわじわと蝕んでいく。薄暗い部屋の中で、水晶は禍々しい黒い光を放ち、アリアの心を言い知れぬ不安で満たした。
「これは…!」
アリアは、水晶に手を伸ばし、触れた瞬間、激しい頭痛に襲われた。目の前が真っ白になり、意識が遠のいていく。冷たい床に倒れ込むアリアの耳に、遠くで誰かが叫ぶ声が微かに聞こえた。
次にアリアが意識を取り戻した時、彼女は秘密の部屋とは全く異なる場所に立っていた。そこは、広大な実験室であり、数多くの研究員が慌ただしく動き回っていた。白衣を着た研究員たちが、複雑な装置を操作し、魔法の実験を行っている。部屋の中央には、巨大な水晶が置かれ、そこから放たれる光が、実験室全体を不気味に照らしていた。
「ここは…?」
アリアは、目の前の光景に戸惑いを隠せなかった。すると、一人の女性がアリアに近づいてきた。
「アリア、どうしたの?顔色が酷く悪いわよ。」
女性は、アリアの母親だった。アリアは、目の前の光景が過去の記憶であることを悟った。
(私は、過去の記憶を見ている…!)
記憶の中で、アリアは自身の家族が古代魔法の実験に関わっていたことを知る。実験の目的は、人々の感情を制御し、理想的な世界を創造することだった。しかし、実験は次第に狂気を帯び、研究員たちは禁忌とされる領域へと足を踏み入れていった。
アリアは、実験の過程、そして悲劇的な結末を追体験した。実験は失敗に終わり、強大な怨念が発生した。怨念は、実験室を破壊し、多くの研究員を犠牲にした。
(これが、怨念の正体…!)
アリアは、怨念の正体と自身の役割を理解した。彼女は、怨念を封印し、過去の過ちを正すために、この世界にいるのだ。
その時、アリアは夢の中でヴィクトルから警告を受けた。
「アリア、気をつけろ。怨念は、お前の記憶を喰らい、力を増そうとしている。」
ヴィクトルの声は、アリアの心に直接響いた。
「ヴィクトル様…!」
アリアは、ヴィクトルの言葉にハッとした。彼女は、怨念に記憶を奪われ、操られかけていたのだ。
「私は、負けない…!」
アリアは、強い意志で怨念を振り払い、現実世界へと意識を戻した。
秘密の部屋に戻ったアリアは、目の前に広がる光景に息を呑んだ。巨大な水晶は、禍々しい黒く変色し、そこから放出される怨念の力は、さらに強まっていた。部屋の隅には、倒れたアリアの体が横たわっていた。
「怨念が…!」
アリアは、怨念との対峙を決意した。彼女は、古代文字の解読を急ぎ、怨念を封印しなければならない。
アリアは、再び古代文字の解読に集中した。彼女の頭の中には、過去の記憶が鮮明に蘇り、怨念の正体と自身の役割を思い出させていた。
「私は、必ず、怨念を封印する…!」
アリアは、強い決意を胸に、古代文字の解読を進めた。古代文字の解読を進めるうちに、アリアは、ある事実に気づいた。古代文字は、単なる封印の呪文ではなく、過去の記憶を呼び覚ますための鍵でもあった。
(記憶…?どういうこと…?)
アリアは、古代文字を解読しながら、自身の過去の記憶を整理していった。
すると、彼女は、ある肖像画に目が止まった。それは、彼女の家族の肖像画だった。肖像画の中には、アリアの母親、そして、見覚えのない男性が描かれていた。男性は、王家の紋章が入った服を着ていた。
(この男性は…一体…?)
アリアは、肖像画をじっと見つめた。すると、彼女の頭の中に、幼い頃に母親から聞かされた、ある物語が鮮明に蘇った。
「アリア、あなたは、特別な力を持っているの。その力は、王家の血を引く者だけが持つことができる力なのよ。」
母親は、そう言って、アリアを膝の上に抱き寄せた。暖炉の火がパチパチと音を立て、部屋全体を優しく照らしていた。
「昔々、この国には、魔法の力を持つ王家がありました。王家の人々は、人々の心を癒し、幸せをもたらす力を持っていました。しかし、その力を恐れた人々は、王家を滅ぼそうとしました。王家の人々は、身を隠し、力を封印することで、生き延びることができました。そして、いつか、再び世界が闇に覆われた時、王家の血を引く者が現れ、世界を救うと伝えられているのです。」
アリアは、母親の言葉を、まるで昨日のことのように思い出していた。
(まさか…私が、王家の血を…?)
アリアは、信じられない気持ちで、肖像画と母親の言葉を交互に見つめた。胸が高鳴り、体が震えた。
(でも、もし、私が王家の血を引いているとしたら…)
アリアは、自身の出生の秘密と王家との繋がりを確信した。彼女は、王家の血を引く者として、怨念を封印する使命を背負っているのだ。
(私が、この世界に来たのは、偶然なんかじゃなかったんだ…)
アリアは、自分がこの世界に来た理由が分かったことで、心が満たされていくのを感じた。同時に、彼女は、自分が背負っている責任の重さを感じ、身が引き締まる思いだった。
(私は、家族の無念を晴らすため、そして、この世界を守るため、必ず、怨念を封印する…!)
アリアは、強い決意を胸に、古代文字の解読を完了させ、怨念の封印方法を解明した。
その時ふと、アリアは、あることを思い出した。それは、占い処で人々に振る舞っていた、手作りのお菓子だった。
(お菓子…?そうだ、お菓子には、人々の心を癒す力がある…!)
アリアがそう思ったのは、占い処で様々なお菓子を振る舞った際に、人々が笑顔になり、心が安らいでいく様子を何度も見てきたからだ。そして、お菓子には、単に空腹を満たすだけでなく、人々の心を癒し、幸せにする力があることを、アリアは実感していた。
(手作りのお菓子…)
アリアは、手作りのお菓子にのみ、特別な力が宿ることを感じていた。それは、お菓子を作る際に込めた、彼女自身の「人々の心を癒したい」という願いが、お菓子に宿っているからかもしれない。
(このお菓子なら、怨念の力を鎮めることができるかもしれない…!)
アリアは、手作りのお菓子に、怨念を鎮める効果があることを確信した。
彼女は、お菓子を作り、仲間たちに振る舞うことにした。 占い処に戻ったアリアは、手作りのお菓子を作り、エリオット、エレノア、ルシウス、ユリウス、そして、占い処を訪れる人々に振る舞った。
「アリアさん、このお菓子、とても美味しいですね。」
エリオットが笑顔で言った。彼の顔色は明るく、瞳は輝いていた。
「ええ、アリア様。このお菓子を食べると、心が安らぎます。」
エレノアが微笑みながら言った。彼女の表情は穏やかで、心が満たされているようだった。
ルシウスとユリウスも、アリアの手作りお菓子を美味しそうに頬張っていた。
占い処を訪れた人々も、お菓子を口にすると、笑顔を見せ、心が安らいでいくようだった。彼らの顔色は明るくなり、瞳は輝きを取り戻した。
アリアは、仲間たちと手作りのお菓子を分け合い、絆を深めた。
そして、彼女は、手作りお菓子をユリウスに定期的に食べてもらうにはどうすればいいか?そして、仲間たちにユリウスの事を公表したほうがお互いの安全のためにもいいと思うけれど、どうしようか?とルシウスに相談した。
ユリウスのために作る具体的な
お菓子の種類や、ユリウスに食べてもらうタイミングなどについてもルシウスと話し合った。
ユリウスのことを公表する際に、誰から、どのような形で伝えるか、また、公表後の対策などについても話し合った。
ユリウスのことを公表した際の仲間たちの反応は様々だった。驚き、悲しみ、怒り、疑念、そして決意。仲間たちは、様々な感情を抱えながらも、アリアと共に戦うことを誓った。
「ユリウス様が…そんな…」
エレノアは、信じられないといった表情で呟いた。
「まさか…ユリウスが、そんなことになっていたなんて…」
エリオットは、ショックを隠せない様子だった。
アリアは、仲間たちの反応を見ながら、ユリウスのことを公表して良かったと確信した。
(皆、ユリウス様を信じてくれている…)
アリアは、仲間たちの温かい気持ちに、胸が熱くなった。
「皆さん、ありがとうございます。ユリウス様は、今、とても苦しんでいます。私たちは、ユリウス様を救い出すために、力を合わせましょう。」
アリアは、仲間たちに呼びかけた。
「ああ、アリアさん。私たちも、ユリウスを信じてる。必ず、彼を救い出そう。」
エリオットが力強く言った。
「ええ、アリア様。私も、ユリウス様を信じています。共に、戦いましょう。」
エレノアも、決意を新たにした。
ルシウスとユリウスも静かに頷いた。
アリアは、仲間たちとの絆を深め、協力を誓い合ったアリアは、自身の魔法力を最大限に引き出す準備を始めた。
(皆さんと一緒なら、どんな困難も乗り越えられる…!)
アリアは、仲間たちへの信頼を胸に、静かに目を閉じた。
19話:終わり
〈登場人物〉
* アリア:主人公。古代文字の解読を進める中で、自身の過去と王宮の秘密が深く関わっていることを知る。
* ルシウス:王宮に仕える青年。アリアに過去の実験とユリウスが怨念に操られている事実を伝える。
* ユリウス:王宮に仕える青年。ルシウスの双子の弟。怨念に操られている。
* エリオット:アリアの協力者。妹の死の真相を探っている。
* エレノア:アリアの協力者。王宮で起こっている怪奇現象について詳しい。
* ヴィクトル:アリアの夢の中に現れる謎の人物。アリアに警告と助言を与える。
* アリアの母親:過去の記憶の中に登場。古代魔法の実験に関わっていた。
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※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。
作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。
あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。




