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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第一章 序章
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1話 異世界での目覚め -路地裏の導き手-

*評価・リアクション(絵文字)・感想・イチオシレビュー全て受付けしております。

どれでも反応いただけるのはとても嬉しいです。どうぞよろしくお願いします。

夕焼け空が、王都セントラルに赤とオレンジのグラデーションを描き出す。

石畳の路地裏は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返り、夕闇がゆっくりと訪れようとしていた。


そんな路地裏の一角に、ひっそりと佇む露店。

風に揺れる暖簾には、「アリアの占い処」と手書きの文字が書かれている。


そこが、二つの前世を持つ占い師、アリアの店だった。


露店とはいえ、アリアの占い処は、路地を行き交う人々から丸見えにならないよう、工夫が凝らされていた。


骨組みに布をかけ、簡易的な個室風にあつらえてある。


中には、古びた木製のテーブルと椅子、そして四柱推命、西洋占星術、算命学、数秘術、マヤ暦にまつわる小物が置かれている。


香炉からは、心を落ち着かせる香りが漂い、訪れる者の心を癒す。


「さて、今日のお客様はどんなお悩みかしら?」


アリアは、店先に掲げられた水晶玉を優しく撫でながら、来訪者を待つ。

その瞳には、夕焼け空に溶け込むように、微かな光が宿っていた。


(この世界に呼ばれてから、早三ヶ月。突然、異世界の路地裏に放り出された時は、どうなることかと思ったけれど、なんとか落ち着いたこの路地裏に、「アリアの占い処」を開いてみた。二つの前世で培った占いの知識とスピリチュアルな力で、困っている人たちを助けたい。それが、私がこの世界で生きる意味なのかもしれない…)


アリアは、ふと過去を思い出す。


それは、夢とも現実ともつかない、曖昧な記憶の断片だった。


(気がつけば、ヨーロッパ風の街並みのなかにいた。なぜ自分がここにいるのか、どうしてこんなところに呼ばれたのか、皆目見当もつかない。不安と心細さでいっぱいだった。しかし、二つの前世の記憶が、私を支えてくれた。そして、時折見る不思議な夢…)


アリアは、幼い頃から何度も同じ夢を見ていた。

それは、美しい庭園で、自分とよく似た少女が、悲しそうな表情で佇んでいる夢だった。

少女は、アリアに向かって何かを伝えようとしているようだったが、声は聞こえなかった。

庭園には見たこともない花が咲き乱れ、少女の服は見たこともない模様で飾られていた。

少女の瞳は、まるで星を閉じ込めたように輝いていた。


(あの夢は、一体何を意味しているのだろうか…?そして、私はなぜ、この世界に…?)


アリアは、自身の過去と、この世界に呼ばれた理由について、思いを巡らせた。


やがて、一人の青年が暖簾をくぐる。


彼の名はレオン。

王都でも指折りの商家の跡取り息子だ。

しかし、その表情は暗く、深く悩んでいることが一目で伺える。

普段は自信に満ち溢れた表情をしているレオンのその変わりように、只事ではない事がアリアにもわかった。


「あの、占っていただきたいのですが……」


レオンの声は、普段の彼からは想像もできないほど、小さく震えていた。


アリアは、彼を奥の席へと促し、向かい合って座る。


「どうぞ、お悩みをお聞かせください」


アリアが優しく微笑みかけると、レオンは重い口を開いた。


「婚約者のエマとのことで……。最近、どうも彼女の様子がおかしいんです」


レオンは、愛する婚約者の変化に戸惑い、不安を感じていた。

エマは以前は明るく優しい女性だったが、最近はいつも物思いにふけり、レオンに冷たい態度を取るようになったと言う。

エマの気持ちが自分から離れていってしまったのではないかと、レオンは不安でたまらなかった。


「彼女の気持ちが離れていってしまったのではないかと、不安で……」


そう言って俯くレオン。


アリアは彼の心情を察し、そっと手を握る。


「心配ありません。あなたの魂の輝きは、まだ失われていません。きっと、解決策は見つかります」


アリアは、レオンの瞳を見つめ、スピリチュアル鑑定を始めた。

彼女の意識がレオンの魂に触れた瞬間、彼の背後に一人の女性の姿が浮かび上がった。


「レオンさんの守護霊は、とても穏やかで愛情深い女性ですね。白髪を綺麗にまとめた、優しそうな笑顔が印象的です。少し小柄で、いつもエプロンをつけて、温かい家庭料理を作っていそうな雰囲気の方です。あなたの曾祖母にあたる方のようですね」


その言葉に、レオンは驚きを隠せない表情でアリアを見つめる。


「曾祖母は、私が生まれる前に亡くなりました。なぜ、あなたが彼女のことを……?」


「彼女は、あなたをずっと見守ってくれています。そして、エマさんのことで、あなたに伝えたいことがあるようです」


それは、エマが抱える秘密、そして彼女がレオンに伝えられずにいる想いについてだった。


「エマさんは、あなたのことを今でも深く愛しています。ただ、彼女はあなたに知られたくない秘密を抱え、苦しんでいるのです。『あの子は、昔から頑張りすぎる癖があって、人に頼るのが苦手なの。レオン、どうか、あの子の気持ちを分かってあげて。』と、そう仰っています」


曾祖母の言葉を聞いたレオンは、目を見開いた。


「秘密……?一体、エマに何が……?」


アリアは、レオンにエマの過去、そして彼女が抱える苦悩を伝えた。それは、レオンが想像もしていなかった、衝撃的な事実だった。


「エマさんは、過去のトラウマから、あなたに心を閉ざしてしまっているようです。彼女は、あなたを傷つけたくない、あなたに嫌われたくないと、そう思っているのです。『あの子は、昔、とても辛い思いをしたの。だから、人を信じるのが怖いのよ。』と、そう仰っています」


アリアは、レオンに優しく語りかけた。


「大切なのは、エマさんの気持ちを理解し、寄り添うことです。彼女の過去を受け入れ、共に未来を歩んでいく覚悟があるかどうか、あなた自身に問いかけてみてください」


レオンは、アリアの言葉を胸に刻み、深く頷いた。


「ありがとうございます、アリア先生。先生の言葉で、エマともう一度向き合ってみようと思えました」


レオンは、そう言って深く頭を下げ、アリアの占い処を後にした。


彼の足取りは、来た時よりもずっと力強かった。



「さて、一件落着っと」


アリアは、露店の軒先に飾られた風鈴が夕風に揺れるのを見ながら、小さく呟いた。


「彼なら、きっと大丈夫。愛の力は、どんな困難も乗り越えられるはずだから」


アリアは、空を見上げ、星々に願いを込めた。


「どうか、彼らが再び笑顔で寄り添えますように」


その時、アリアはふと、レオンの背後に見えた、微かな影に気づいた。

それは、レオンの曾祖母の霊とは異なる、黒く淀んだ影だった。


(あれは…?一体、何の影…?)


アリアは、その影の正体を確かめようとしたが、影はすでに消え去っていた。


(気のせい…?いや、そんなはずは…)


アリアは、胸騒ぎを覚えながら、空を見上げる。夕闇が迫り、星々が瞬き始めていた。


(この世界には、まだ何か、隠された秘密があるのかもしれない…)


アリアは、自身の運命が大きく動こうとしていることを感じていた。


そして、幼い頃から見る夢が、その鍵を握っているような気がしてならなかった。



ーーー2話へつづく


〈登場人物〉


* アリア:二つの前世を持つ、異世界の導き手。

* レオン:アリアの鑑定を頼る、悩める青年。

* エマ:レオンの婚約者。

* レオンの曾祖母:レオンの守護霊。



〈読者の皆様へ〉


第一話を読んでいただき、ありがとうございます。アリアの異世界での露店占い師としての生活、そして彼女が出会う人々の物語を、これからもどうぞお楽しみに。


____________________



※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。


作中に出てくる国、文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。


あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。



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