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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第七章 過去と未来をつなぐ旅
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113話 遠き地より - 魂は微笑む

✪読んでくださり、ありがとうございます。

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夜の帳が下りるころ。

風がやみ、ひととき世界が静寂に包まれる。


アリアは祈るように、千里鏡の前に座っていた。

磨かれた鏡面は、今はただの水面のように静まり返っている。


(お願い……どうか、繋がって)


ふと、水面に一粒の光が差し込んだ。

そして、波紋のように光が広がり──像が、映る。


「……アリア?」


聞きなれた声が、まるで遠い風のように届く。


「セリシア……!」


アリアの目に、懐かしい笑顔が映る。

あの日のままの姿で、セリシアが鏡の向こうに立っていた。


「……久しぶりね」


「本当に……本当に、会いたかった」


アリアの声が震える。

セリシアも、静かに頷いた。


「サクラ様の容態が、良くないの。いまは深く眠っていて……意識も、まだ戻らないわ」

「だから私が、代わりに」


言葉を継ぐ前に、セリシアの瞳が揺れた。

まるで心の底から湧き出す想いが、言葉をせき止めているかのように。


「ねえ、アリア……」


「……私は、ずっと悩んでた。あのとき、もし私が逃げずに向き合っていたら、もっと違う未来があったんじゃないかって」


「でも、私はもう……償いを選んだの」


アリアは、ただ黙ってその声を受け止めた。


「怖かったの。誰かを信じるのも、背中を預けるのも、あなたとまた向き合うのも。けど……」


「それでも、あなたがここまで生きてきてくれたことが、私には……救いだったのよ」


言葉は、震えていた。

でも、それは泣いているからじゃない。

どこまでも真っ直ぐで、迷いのない強さが宿っていた。


「私ね、ようやく気づいたの。あなたは、全部を背負わなくていいんだって」


「アリア……あなたが願ってくれた未来は、ちゃんと誰かが繋いでいける。だから……あなたは、あなたの光を選んで」


アリアの瞳から、涙がひとしずく落ちた。


「……ありがとう、セリシア」


「ううん。こちらこそ……こんな私を、見捨てないでくれて」


そのとき──


鏡の向こうに、静かな光が差し込む。

セリシアがそっと振り向いた。


「……あ」


彼女の視線の先、淡く揺れる光の中に、白い影が現れた。


静かに、白い光が揺れた。

ゆらりと現れたのは、まるで薄いベールのように光る“魂の姿”。

その向こうには、静かに横たわるサクラの身体が見える――まるで眠っているかのように、穏やかに。


けれどその魂は、確かにこちらを見つめ、微笑んでいた。

声も言葉もない。ただ、優しく、あたたかく。


その笑みはまるで──「大丈夫」と語りかけるようだった。


アリアの喉がきゅっと詰まる。


「……サクラ様……?」


セリシアはそっと頷いた。


「今だけ……きっと、あなたの声が届いたから……」


サクラの霊は、微笑みながら、静かに目を閉じた。

そして、ふわりと光の粒となって空へと溶けていった。


残されたのは、ただ穏やかな光と、静けさだけ。


──ありがとう、と、誰かが囁いた気がした。


アリアはそっと目を閉じる。

胸の奥に、ほんの少しあたたかなものが灯るのを感じながら。


鏡の中の像は、ゆっくりと薄れていった。

まるで夢が覚めるように、波紋のように消えていく。


けれど、アリアは信じていた。

たとえ離れていても、心の奥で繋がっている。

想いは、祈りは、ちゃんと届く。


アリアはそっとつぶやいた。


「……行こう。まだ、道の途中だから」


彼女の目が、夜の帳をまっすぐに見据える。

その瞳には、光が宿っていた。




ーーー114話へ続く

※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。

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