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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第一章 序章
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プロローグ 星夜の導き、二つの記憶

*評価・リアクション(絵文字)・感想・イチオシレビュー全て受付けしております。

どれでも反応いただけると、とても嬉しいです。どうぞよろしくお願いします。


星々が煌めく夜空の下、石畳の隙間から雑草が顔を出す薄暗い路地裏。

アリアは、人目を避けるようにひっそりと佇み、静かに息を吐き出した。

冷たい夜風が、彼女の頬を撫でる。


「……なんで、こんなところにいるんだっけ?」


彼女の瞳には、二つの異なる記憶が映し出されていた。

一つは、中世ヨーロッパのとある大国。

煌びやかな宮廷で、星の動きを読み解き、人々の運命を占う宮廷占い師としての記憶。

もう一つは、現代日本。

締め切りに追われながらも、占いと編集の仕事に情熱を燃やすアラフォーの記憶。


(あれ?確か、今日は作家先生の原稿の締め切りで、最後の追い込みをしていたはず……)


最後に見たのは、自宅のデスクに積み上げられた資料の山。

そして、次の瞬間、足元に広がる石畳、見上げた夜空に輝く満天の星々。


「……え?」


状況を理解するのに数秒を要した。

目の前には、中世ヨーロッパ風の建物が立ち並び、行き交う人々は見たこともない衣装を身にまとっている。


(……もしかして、異世界転移?しかも、ヨーロッパ風の街並み?え、ちょっと待って、これって現実?)


混乱と戸惑いを覚えつつも、現代日本で担当作家の様々な異世界モノの作品を編集していたアリアは、妙にワクワクしていた。


「え、私が異世界転移?そんなこと、あるんだ……」


初めての体験は、戸惑いよりも好奇心が勝る。

異世界に飛ばされるなんて、一生に一度あるかないかのレアな体験だ。


(……でも、呑気に感動してる場合じゃないか)


アリアは、アラフォー編集者としての経験から、すぐに思考を切り替えた。


「さて。どうやってこの異世界で生きていこうか……」


今更、元の世界に戻れる保証もない。

それならば、この状況で何ができるかを考える方が建設的だ。


(幸い、二つの前世で培った占いのスキルは使えるみたいだし……)


自分の名前が「アリア」であるという確信と、この異世界でも今まで通り占いが出来るという感覚的な確信だけが、脳裏に直接響いてきた。

そして、信じられないことに、外見は二十歳ほどに若返っていた。



アリアの占いは、宮廷占い師の前世でも、現代日本での前世でも、スピリチュアル能力を使う鑑定と、生年月日から導き出す命占を独自に組み合わせたものだった。


アリアの場合、生年月日を思い浮かべると、自然と相談者の命占内容が色のついた光となって視覚的に表現される。

それは、彼女特有の占い方法であり、二つの前世を通して変わることのなかった能力だった。

しかし、アリア自身はその能力が特異なものであるとは気づいていなかった。


(とりあえず、得意な占いをやってみて、それがダメならまた他の方法を考えよう。)


根拠のない自信ではあったが、アリアは長年の経験から、占い師としてならどこでも生きていけるという確信があった。


彼女は、人々の様子を観察しながら、占い師としての需要があるかどうかを確かめた。

すると、人々は悩みや不安を抱え、何かを求めているようだった。


「よし、やってみよう!」


アリアは、路地裏を抜け、人通りの多い通りへと向かった。

そして、適当な場所に露店を開き、占い師としての活動を始めた。


使い込まれた天幕の下には、年季の入った木製の椅子が二つ。

占いに使う水晶玉やホロスコープ、命式が、古びたテーブルの上に並べられている。

簡素ながらも、どこか神秘的な雰囲気を醸し出す空間。


彼女が今いる場所、王都セントラルは、ヨーロッパ風の美しい街並みが広がり、活気に満ちていた。

石畳の道、レンガ造りの建物、そして、街の中心にそびえ立つ壮麗な城。

しかし、この街には、ただ美しいだけではない、独特の文化と歴史が息づいていた。


例えば、街の下水道は、ただの排水路ではない。

迷路のように入り組んだ地下道は、かつてこの地を支配していた古代文明の遺産であり、今もなお、街の重要なインフラとして機能している。


また、街の動力源となっているのは、森に生息するスライムだ。

スライムは、特殊な粘液を分泌し、それがエネルギー源となる。

スライムを利用したエネルギーシステムは、環境に優しく、持続可能な社会を支えている。


街には、助け合いの精神が根付いている。

養護院出身者や困窮者にも仕事が与えられ、誰もが尊厳を持って生きられるように配慮されている。

国政を担う者たちは、常に民の声に耳を傾け、誰もが住みやすい国を目指していた。


アリアは、この世界にどこか懐かしさを感じていた。

宮廷占い師だった頃の記憶と、目の前の風景が重なり合う。



露店を開いて数日が経ち、アリアの占いは、王都の人々の間で評判となっていた。


「先生、どうか私の未来を教えてください……」


「この商談は成功するでしょうか?」


「我が子の縁談はうまくいくのでしょうか?」


アリアは、訪れる人々の生年月日を静かに思い浮かべ、目の前に広がる光の風景を読み解いていく。


『あなたの才能は、この道で開花します。恐れずに進んでください。』


アリアがそう告げると、相談者の瞳に希望の光が灯り、それまで曇っていた表情がぱっと明るくなった。


「この商談は、あなたの誠意が鍵となります。相手を信じることです。」


「お子様の縁談は、相手の方との心の繋がりが大切です。焦らず、じっくりと時間をかけてください。」


アリアの占いは、決して人々を依存させるものではなかった。

彼女は常に、相談者自身の力で未来を切り開くことを促していた。

持って生まれた才能や宿命は変わらない。しかし、自らの行動によって未来は変えられる。彼女はそう信じ、人々に伝えていた。


アリアの詳細個人鑑定は、一人につき一度のみ。

スピリチュアル鑑定はアリア自身もエネルギーを多く消費するため、一日に何度も行うことはできない。

そのため、詳細個人鑑定は一日最大四人までと決めていた。

一方スピリチュアル能力を使わない簡易鑑定については、アリアが露店にいる限り受けるようにしていた。



(そういえば、この世界の人達って、ちょっとした事で困ってる人が多いみたい)


アリアは、占い師の傍ら、市井の人々の小さい困りごとに耳を傾け、現代知識と宮廷占い師の知識、そして器用な手先を活かして、手作り出来る日用品や雑貨、便利道具などを今ある物を使ってぱぱっと作って提供していた。


例えば、壊れた水瓶の修理、穴の開いた靴の補修、子供のおもちゃの修繕、現代知識を応用した簡単な照明器具の作成など、彼女の手にかかれば、どんなものでもたちまち蘇った。


すると、相手は銅貨や食べ物や日用品を物々交換だと言って持ってきてくれる。


「わぁ、ありがとう!」


アリアは、物々交換で得た品物を手に取り、笑顔を見せた。


彼女の行動は、占いだけでなく、人々の生活を支えることにも繋がっていた。



ある日、アリアは露店を訪れた若い女性から、複雑な相談を受けた。


「先生、私の婚約者のことで……」


女性は、婚約者の態度が最近冷たくなったと悩んでいた。

アリアは、女性の生年月日と婚約者の生年月日を照らし合わせ、二人の関係性を読み解いた。


「お二人の間には、強い絆があります。しかし、今は少しばかりすれ違っているようです。」


アリアは、女性に具体的なアドバイスを与え、二人の関係を修復するための手助けをした。


後日、女性は再びアリアの露店を訪れ、感謝の言葉を述べた。


「先生のおかげで、彼と仲直りすることができました。本当にありがとうございます。」


アリアは、人々の笑顔を見ることが、何よりも嬉しかった。


彼女の占いには、不思議な力があった。

人々の悩みや未来を視るだけでなく、心の奥底に隠された真実を映し出す力。

しかし、その力は、彼女自身の過去と深く結びついているようだった。


「私の過去には、まだ解き明かされていない謎がある。そして、その謎は、この世界の未来にも影響を与えるのかもしれない……」


アリアは、星空を見上げ、静かに呟いた。


彼女の物語は、まだ始まったばかりだ。

そして、彼女自身もまだ気づいていない。


星々が導く、運命の歯車が回り始めたことを。




ーーー1話へつづく



〈読者の皆様へ〉


この物語は、二つの前世を持つ占い師、アリアが異世界で自身の運命を切り開いていく物語です。


アリアは、突然異世界へと転移し、過去の記憶と不思議な占いの力だけを頼りに、この世界で生きていくことを決意します。


アリアの占いは、人々の悩みや未来を視るだけでなく、心の奥底に隠された真実を映し出す力を持っています。彼女は、訪れる人々に寄り添い、彼らが自らの力で未来を切り開くための道標を示していきます。


この物語を通して、読者の皆様に「自分の未来は、自分の手で切り拓くもの」というメッセージを伝えたいと思っています。

過去に囚われず、今を大切に生きること。

それが、より良い未来へと繋がると信じています。


アリアの物語が、皆様の心に何か温かいものを届けられたら幸いです。


それでは、アリアと共に、不思議な占いの世界へ旅立ちましょう。


作者より

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