1 始まり
気が付いたときから体の感覚がなかった。五感はあるきがする。周りを見回せば木々に囲まれていることが分かるし揺れる木のざわざわという音も聞こえる。ただ、ふよふよと宙に浮いている。
なにがなんだか分らない。過去の記憶をさぐってみる。
そう、たしか私はIT系の会社に勤めていた。30分かけて電車に揺られ会社に行き、毎日2時間以上の残業をしていた。
もちろん定時にタイムカードを切らされ残業代などでない、いわゆるブラック企業でした。
その日はとても珍しく残業がなく、どこかで一杯ひっかけてから帰ろうと思っていた。
よくあるチェーンの居酒屋に入りつまみと日本酒を頼み、ちびちびと楽しんでいた。
そして軽く酔いがまわってきた頃、退店したところまで覚えている。しかしそこから先の記憶がない。
いくら頭をひねっても思い出せない、まあ頭は今は無いのだが。
ふと気づいたことがある、私は誰だ? 少中高大と卒業した記憶はある働いていた記憶もある。
ただ自分の顔が、名前が、年齢が分からない、思い出せない。そもそもここはどこなんだ。
見渡す限りのざわめく木々、鳥の鳴き声、川にせせらぎ。
川だ、川に行ってみよう、水面の反射で自分がどのようなものか分かるかもしれない。
ふよふよと音のなる方へ目指す、が、そもそもなぜ浮いている?まさか死んで幽霊にでもなったか。
幽霊?死?そうか!そうだったか、思い出した。居酒屋を出た後電車に乗り家に帰る途中だった。
駅までもう少しといったところであの事故が起こった、起こってしまったのだ。原因は分からないが電社が線路から脱線し車体は転倒した。そこから記憶は途絶えている。
顔も思い出せない父さん、母さん、こんな親不孝でごめんなさい、私は先に逝ってしまいました。
涙を流そうにも流れてこない。
死んだか、死んでしまったか、まだまだやりたいことがあったのに、彼女が欲しかった、結婚したかった、子供が欲しかった。まだまだほかにもたくさん......
3時間以上経っただろうか、時間の感覚も定かではないが、長い間ただじっとしていた
川に、行くか。 暗い気分のまま川を目指す途中、大木に背中を預け座っている少年を見つけた。
人間、人間だ。うつ向いていて顔は分からないが、体つきから見てまだ幼い。手足をだらんとさせ頭のてっぺんをこちらに向けている。 まるで、死んでいるように。
少年に近づいてみる。血色が悪い、呼吸はしていない。 顔を覗き込むと頬と額に赤黒くなった液体が滴っている。おもわず声を上げそうになったが発声できなかった。
かわいそうに、合わせる手はないので心で祈る。どうか来世では幸せになれますように。
瞬間!私の体?が眩く光はじめた!そして少年にどんどん吸い込まれる、引っ張られる。なんだなんだ、これは
考える間もなく私は少年の体の中に吸い込まれていった。