《 苺の国の王様のお話 》
「余は ストロベリーの国の 王である」
目の前に 突然現れた男性が、
私に向かってそう仰いました。
西洋の物でもない、
珍妙なお召し物を着ています。
頭には 苺にそっくりな冠。
“すとろべりー”とは何の事でしょう?
暫く考えていると、
「奇妙な服を着ているな」
と 繁々と私の着物を眺めて、
首を傾げているのです。
「服など関係ないか…
其方にストロベリー味の
キスをしてやろう」
と 仰って、
私の顎に指をかけて 顔を上向かせ、
チュッと音を立てて、
口づけをしたので御座います。
私は驚きのあまり 何も云えなくなって、
頬が熱くなるのを感じながら、
その男性を見つめていると、
「これで良い。
余のことを 決して忘れるな」
と 少し脅かすように、
少し寂し気に 微笑みました。
そして現れた時と同じ様に、
突然 消えてしまったのです。
私の唇は
ほんのり 苺の味が致します。
苺の香りも致します。
“すとろべりー”とは、
苺の事だったのでしょうか…。
そして私は本当に、
あの 苺の国の王様を、
忘れられなくなりました。
王様には、
その後 一度もお逢い出来ないのに。
何の為に、
私の前に現れたのかも解らない。
狡い王様。
不思議な苺の国の王様。
一瞬の想い出だけを 私に埋め込み、
私そのものは 置き去りにして。
今でも ずっと、
すとろべりーの口づけの味が消えません。