フィオナ王国へ
俺とモノとフェムはフィオナ王国まで向かい、その様子を偵察するチームだ。問題の王国の場所だが、今回はモノの翼で飛んでいくのではなく、フェムの鼻を頼りに歩いていくことにした。それなら確実に王国までたどり着けるし、飛んでいくと相手に不用意に警戒されるかもだしな。
「フェム、城から王国への距離ってわかるのか?」
「そうじゃな、匂いの強さである程度は分かるぞ。ここからそう遠くはないじゃろう。このまま歩けば夕刻には着くと思うのじゃ」
「なるほど、便利な鼻だな」
匂いからそれほどの情報を読み取れるのは何とも頼もしい能力だ。正直、ちょっとだけ羨ましい。
「そうでもないぞ。匂いが強く感じられるせいで不便なことも多いのじゃ」
それもそうか、嗅覚が鋭すぎると不要な匂いも強く感じられるんだろう。それは確かに困るな。
「でも、索敵出来るのは羨ましいです! 私は直接見て索敵するしかないので……」
「モノ姉はそれ以外が完璧なのじゃ! 索敵くらいわしに任せて貰わんと、わしの出番無くなってしまうわい」
モノは転身術を用いて様々な役割を担えるが、とは言え出来ないこともそれなりにある。索敵もその1つだ。
「フェムは索敵じゃなくて攻撃が本領じゃないですか。もしもの時は頼りにしていますよ!」
「攻撃なら任せてほしいのじゃ! 何人相手だろうと切り裂いてくれようぞ」
そんな会話をしながら歩き続け、1時間ほどが経った。思ってたよりも遠いな……ステータスが高いからか、それほど疲れは感じないが。
「見えてきたぞ! あれがフィオナ王国のはずじゃ」
「わぁー、おっきいです!」
「それに高層な建物の数も多い。かなり栄えてるみたいだな」
見えてきたのは周りを壁で囲まれた大きな都市だ。中央には宮殿のようなも建物が見える。
「大きな門もありますね。あそこから入りますか?」
壁の一部は門になっていて、門番らしき武装した人も数人見える。あそこから入ってもいいが、怪しまれないだろうか……? とは言えそれ以外の壁部から侵入するとなると、なかなか骨が折れそうだ。門に穴を開けること自体は容易だろうが、開けた先に誰かがいれば確実に騒ぎになる。モノの翼で空から行くのも見られたらマズいだろう。
「……そうだな。正々堂々、正面から行こう。門番の対応は俺がするから、何かあっても二人は俺が許可するまで攻撃はナシにしてくれ」
「分かりました! こーら、フェム、不満そうな顔しないの」
「むぅ……分かったのじゃ」
門番は二人、自分の身長より大きな長槍を持っている。見たところレベルは高くなさそうだ。この程度ならもしもの時も俺たちが傷つくことは無いだろう。
声が届く距離まで近づくと、彼らの方から話しかけてきた。
「止まれ! お前らはどこの国のものだ?」
この言い方から察するに、やはりフィオナ王国以外にも国があるのか……少しカマをかけてみるか。
「俺たちは始まりの街ビギンから来た。名前はレクスで、後ろの二人は俺の仲間だ」
始まりの街ビギンは、ゲーム「COL」の初期拠点だ。大きさもかなりのもので、「COL」のプレイヤーで知らない人はいないだろう。
「ビギン……? 聞かない名前だな、どこにある?」
……やっぱり知らない、か。これまでの情報も踏まえて、これでほぼ確定だろう。「俺が転移したのは『COL』のゲームの世界ではなかった」ってことだ。六淑女がいたから勘違いしていた。とすると俺は六淑女と一緒に異世界に転生したってことか?
「ああ、ここからだとかなり遠いんだ。この国に入りたいんだが、入国は出来るか?」
「目的は奴隷売買か?見たところかなり良いのを連れてるみたいだが」
なるほど、この国の異種族差別意識はかなり根強いものらしい。異種族のことを奴隷としか思ってないのか?激昂したい気持ちもあるが、ここは必死に抑えろ。フェムにあれだけ言っておいて、俺が誰よりも早くキレるなんてとんだお笑い種だからな。
「ああ、まあそんなところだ。この国では奴隷売買が盛んなのか?」
「異種族奴隷の売買は盛んさ! と言っても一応は内密にだがな。異種族が治める他国に知られると何かとマズいんだよ。だからこの国は人間とその奴隷以外、立ち入りは許可され無いんだ」
異種族が治める国家も初めて聞くな。どの国でも異種族が不遇な扱いを受けているというわけではないらしい。
それと、一番気になるのは……
「異種族を奴隷にしてることを隠し通すなんて出来るのか? 情報なんてどこからか漏れそうなものだが」
「この国に来る奴隷以外の異種族が少ないというのもあるが、なによりこの国で奴隷売買が始まったのはつい最近のことなんだ。半年ほど前だったか、元国王が亡くなり、現国王が王位に就いた。その時から奴隷売買が奨励され始めたな」
最近になってから栄え始めたのか。ならまだほかの国に情報が洩れてないのも納得だ。いずれバレそうなものだが……
「分かった、ありがとう」
「良いってことよ。入国に問題はない。楽しんでいってくれ!」
気さくな男に別れを告げ、門をくぐると……
「これがフィオナ王国……」
眼前に広がるのは煌びやかな城下町。建物のつくりはヨーロッパ風だ。多くの人々が往来し、その年齢層も幅広い。正直、こんなに活気ある国とは思ってなかったからより驚きが強い。
一方でやはり奴隷の存在は目を引く。手枷足枷で果物の箱を運ぶトカゲのような男、道端で土下座し物を乞う獣耳の少女、首から値札を下げ項垂れるオークのような者たち……
「思ってたよりも酷いな」
王国の現状を目にし、吐き捨てるように呟いていた。
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