城への飛翔
モノと話す内に様々なことが分かった。一旦状況を整理しよう。
まず、どうやら彼女はこの世界に『生誕した』という認識を持っている。モノを含む6人は俺より少し早くこの高原に生誕したらしい。
そしてその後、俺がこの世界に転移した。モノがいることや俺の姿から考えて、おそらくCOLの世界に転移してしまったのだろう。
当然、彼女たちもこの異世界の概要は知らないようだ。周辺地理なども把握していない。
「それで、レクス様が転移されるまでの時間で、私達で簡易的な拠点を作ってみたんです! 案内しますね!」
なるほど、右も左も分からない状況で拠点があるのはありがたい。あまり時間もないなか造ったなら小さな小屋とかか……?
「ありがとう、助かるよ」
「とんでもないです! 私達はレクス様に創り出された存在。レクス様に尽くすことこそが喜びです!」
自分達が俺に創られた存在ということも理解しているらしい。にしてもこんな可愛い少女にここまで肯定されると少し照れてしまう。にやつきが表情に出てないといいが……。
「その拠点まではどれくらいかかる? 見たところあたり一帯は平原みたいだけど……」
「そうですね、飛んで5分ほどでしょうか」
「……飛んで?」
「はい!」
そう言うとモノの背中からバサっと翼が現れる。純白の三対六本の翼のそれぞれが、風に吹かれて静かに揺れる。確かに彼女の種族は熾天使であり、翼も六本ある。そう設定したのは他でもない、俺自身だ。本当に全てが俺の設定通りになっている。
「このまま飛んで拠点まで案内しますね! レクス様、手を」
「あ、ああ。これでいいか?」
言われるままに、モノが差し出した手を握る。俺より一回り小さい、温かい手だ。
「はい、大丈夫です。じゃあ行きますよ‼︎」
彼女が軽く翼を上下に動かしたと思ったその瞬間――
「ぅ、うおおぉぁー‼︎」
信じられない速度で彼女は空中を飛び始めた。そのあまりの速さに素っ頓狂な声がでてしまう。モノは俺の身体を包むように支えながら、にこにことして楽しそうに飛んでいる。俺を振り放さないようにするためだろうが、それなりに強く抱擁されていて……その、胸があたってるんだよな。なんだか申し訳ない気がしてくる。
そうして少しすると、遠くに小さく建物らしきものが見えてきた。
「モノ、あれが俺たちの拠点か?」
「はい!大部分は、テトラがすぐに造形魔法で造り上げたんですよ!」
なるほど、確かに彼女なら簡易的な拠点を造ることは可能だろう。テトラは魔道機械人の少女だ。魔法全般を使えるが、特に造形魔法を得意としている。
……いや待て、近づくにつれてなんかサイズが……
「あのさ、モノ。この拠点の大きさって……」
「大きさですか?テトラには大き過ぎないようにと言っておいたので、あんまり大きくはないと思います……でも、レクス様に似合うよう、これからもっと増強しますよ!」
「いや、これはもう十分……デカくね?」
近くに寄ると分かった。あまりにデカ過ぎる。中心部に城のような建造物がひとつ造られているだけでなく、周りには簡単な防衛壁がはられており、もはや集落と呼んでも良いであろう規模だ。これをテトラは短時間で造ったのか⁉︎
「とんでもないです! テトラも不満げでしたよ? 大きさを制限したくないって……」
確かにテトラは〈造形魔術師〉に大きくレベルをさいている。とは言えまさかここまでとは……
「分かった、増強は……おいおい考えよう。〈六淑女〉は皆あの城の中か?」
〈六淑女〉は六人の俺の仲間たちの総称であり、全員が人間以外の最上位種族で構成されている。例えばモノの種族は、天使の最上位種である熾天使であると言った具合だ。
「はい! みんな揃ってますよ!」
モノ以外の五人も俺の設定通りに存在しているのかが何よりも気になる。仮にそうなら、戦力としては申し分無い強さなんじゃ……? とは言えもちろん、敵もその分強いだろうが。
「よし、じゃあ案内してもらえるか?」
「はい! 折角テトラが作ってくれた道ですし、ここからは歩いて城まで行きましょうか」
防壁から城までは舗装された道路が延びており、いくらか花も咲いている。俺は本当にゲームの世界に転移してしまったんだな……VRでは描写し切れないほど細やかに揺れる木々を見て、改めて実感した。
……ただ、いくつか気がかりな点もある。このゲームの初期リスポーン地点は大きな街のはずだし、さっきからいくつか知らない植物を見かけるんだよな……攻略情報に誤りがあったのか?
ここら辺の設定が一番難しいです。
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