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間話 それぞれの事情 その二

 

 ・『魅了ノ悪魔』クルフィア=A=ルナティリス


 魔族四天王の一角。

 悪魔の系譜であるサキュバス、すなわち淫魔や夢魔としての性質を持つ魔族の一種。『A』は七つの大罪・色欲を司る『A』のことではない。では何かと言えば、悪魔において真名を知られることは特別な意味を持つため今のところ『A』に関しては誰にも知られていない。


 一つ言えるのは『魂だけの存在である普通の悪魔』を召喚・仮の肉体を与えて契約で縛って使役する召喚術の適合範囲外の変異種だということ。アブラメリン伝書、レメゲトン・ファーストオーダー、赤龍の魔導書、変わり種だと『初代』光系統魔法の使い手の日記の知識をもとにした召喚術でもって七つの大罪を司る悪魔が現世に表出した古い記憶もあるので、彼女に色欲の悪魔という一面以外の『何か』があるのは確実だろう。


 ガルドに対して女の子同士仲良くしているのがどれだけ尊いか語ったこともあるが、戦意を鈍らせる魅了効果を狙っていたのはもちろんとして、内容それ自体は彼女の本音だったりする。その証拠に戦闘において必要な場合は除くとして、これまで生きてきた長きに渡って女の子同士の間に挟まるような魅了行為はしたことがない。


 女の子同士の美しき関係を魅了で穢すのは万死に値するわよお!! ネトラレ駄目絶対い!! と熱弁するのが彼女の本質である。


 百年以上前の覇権大戦終盤では他の魔族と同じく魔王の瘴気で強化されていたが、『轟剣の女騎士』には勝てず死んだふりをして逃げ出すのが精一杯だった。


 吸収した瘴気は時間経過で失われるので今の『魅了ノ悪魔』は覇権大戦時よりも弱体化している。とはいえ弱体化したのは覇権大戦時に『魂魄燃焼(ブレイクオーバー)』を使って魂を摩耗した『轟剣の女騎士』も同じであったので再度の対戦で一方的にやられることはなかったが。


 彼女の力は以下の通り。


 悪魔として他者の魂を直接喰らったり、夢魔として他者の夢の中に入り込んで精気を奪う『体質』。


 淫魔として他者を虜にする性質を拡大解釈して好意を誘発する魅了の魔法。


 そして『雷ノ巨人』の魂を喰らって奪い取った雷や憑依、肉体再構築の魔法さえも扱うことができる。


 ……それとは別に『本来の』彼女の力──『A』の真髄もあるはずだが、今のところ観測されてはいないので戦闘には使えないような力なのか、特殊な条件下でないと使用できないのか。


 そもそも『A』たる彼女の正体は何なのか。

 悪魔の系譜らしく魂だけでも存在できて、だけど普通の悪魔と違って淫魔として自前の肉体を持って他者を直接誘惑できる存在。


 淫魔としての性質はアリスフォリアも知っていたが、夢魔としての性質は軽く二千年以上生きているアリスフォリアでも知り得ていなかった……というよりも、そんな伝承はこの世界には存在しない。


 あくまで夢魔としての性質は『大きな枠組みでの世界』で語られる伝承のものなのだ。


 さて、そんなサキュバスの特徴を宿す彼女だが、実は因果関係は逆である。


 彼女が生まれて、サキュバスを語る伝承が広まったのではない。


 まず初めに『大きな枠組みでの世界』でサキュバスという伝承が語られ、それに引っ張られる形で彼女は生まれた。それこそ都市伝説や怪談の主が実体化したようなものだ。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それが形をなして力を内包したのが魔族の中でも悪魔と呼ばれる者たちの正体である。


 この世界だけではなく『大きな枠組みでの世界』さえも範囲に含めた形のない願望。その存在を強く意識する想い。サキュバスという『わかりやすい』存在は広く認知されている分だけ他の悪魔よりも形をなしやすかったのだろう。


 ちなみに魔族の中でも特に特異な悪魔だけの話であり、魔族はそこまで特殊な種族ではない。


 とはいえ、どんな経緯で生まれようとも彼女は彼女。

 誰がどんな風に信じていようが、その歩みは彼女だけのものだ。


 そう自分に言い聞かせて、彼女は非の打ち所がないほどに幸せになってやると決意した。誰かの想像の中ではない。確かに存在する一つの生命体として、だ。


 そのためなら同じ魔族四天王の一角である『創造ノ亡霊』や自分を我が主と呼ぶ認識を希薄化させる魔族の男と結託して魔王さえも裏切ることに躊躇はなかった。


 本来は魔王の力や人格(つまり魂魄情報の全て)を『娘』に刻み込む秘奥に小細工を仕込み、力だけを刻んで人格は捨て去るように立ち回り、そうして得た力で世界の全てを手に入れればまさしく何の文句もない幸せな結末に決まっている。全て。何もかもが手元にあれば不足はあり得ず、不満もないはずだから。……そこまでいけば生まれてからずっと感じていた飢えだって満たされるはず。


『計画』通りいけば自分に懐くよう魅了した『娘』を使って好き勝手できるはずだったのだ。


 だけどそれが彼女の本当の願いだったのか。

 仕草や言葉、魅惑的な肉体でもって他者を魅了する悪魔。そう定義されて、そういう風に力を与えられた彼女が本当に欲しかったのは大陸全土の支配権でも絶対的にして好きに操れる強大な『力』でもなくて──



 ・『娘』ラピスリリア=ル=グランフェイ


 魔王の娘ということになっているが、その正体は『黒滅ノ魔王』と『白百合の勇者』という魔族と人間の最も優れた個体の遺伝子情報を組み合わせてつくり上げられた理想個体──『娘』である。


 超常的な効果を発揮する道具を生み出すことを得意としていた魔族四天王の一角『創造ノ亡霊』が覇権大戦の最中に設計図を描き、後は放っておいても全自動で『娘』や『「娘」に魂を刻み込んで擬似的な不死を再現する秘奥』が作られる……というところで『創造ノ亡霊』は勇者パーティーに撃破された。


 後に残ったのは魔王の娘(ということにして真相は知らされずに祭り上げられた)『娘』と『「娘」に魂を刻み込んで擬似的な不死を再現する秘奥』というわけだ。


『創造ノ亡霊』は『魅了ノ悪魔』や認識が希薄化された魔族の男と秘密裏に手を組んでいた。魂だけでも存在を維持できる『魅了ノ悪魔』に『「娘」に魂を刻み込んで擬似的な不死を再現する秘奥』を作り出す実験に協力してもらう代わりに魔王の力を簒奪する『計画』に協力していた。


『「娘」に魂を刻み込んで擬似的な不死を再現する秘奥』。


『創造ノ亡霊』が残した七大秘奥の一つ。登録された生命体の肉体が死した瞬間、魂を自動回収。その後、本来なら魔法から人格から魂を構築する全てを専用個体となる『娘』に刻み込むのだが、その仕組みに細工を施して『娘』には魔法や魔力だけが刻み込まれるようにすれば魔王の死後にその力だけを『娘』(を裏で操る者たち)が掌握できる。


 そういう『計画』だったのだが、認識を希薄化できる魔族の男が誰に気づかれることなくその細工を破壊していた。つまり魂の情報は通常通り魔法や魔力だけでなく人格から記憶から全て『娘』に刻み込まれていたのだ。


 魔王は四天王の裏切りを見抜いていたのだろう。

 だからこそ認識を希薄化させる魔族の男という裏切りの刃を忍ばせておいたのだ。


『雷ノ巨人』と共に行動する仲間……のはずが実はクルフィア=A=ルナティリスの部下……であるはずが本当は魔王に忠実な配下であったということだ。


 自分は他の生命体を魅了して意のままに操ることができる。だから部下が裏切るわけがない。皮肉にも『大きな枠組みでの世界』で語られるサキュバスらしい自惚れであっただろう。


 だから『娘』には魔王の魂の全てが受け継がれている。

『白百合の勇者』に殺されることがなければこの世界を滅ぼすこともできたはずの魔王の全てが。


 ──ラピスリリアは気づいていた。

『魅了ノ悪魔』や魔王の企みを、ではない。

 クルフィア=A=ルナティリスが何か目的があって演技していることくらい。


 それでも、だ。

 ラピスリリアはそんなクルフィアのことをお姉ちゃんと慕っている。演技だろうが何だろうが、芽生えた想いに嘘はないから。


 そう、ラピスリリアはどれだけ強大な力を持っていようとも頭の中はお姉ちゃんのことでいっぱいでそれ以外が入り込む余地はなかった。もしも彼女がその意思でこの世界に生きていたならば決して百年以上前の覇権大戦のような悲劇は繰り返されなかっただろう。『魅了ノ悪魔』がどれだけ策を巡らそうとも、力を使うかどうか決めるのはラピスリリア自身なのたから。


 誰が何を企もうとも、ラピスリリアは良くも悪くもお姉ちゃんしか見ていない。

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[良い点] 続きは…続きはどこで読めますかッッッッっ(震え声)
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