第六十一話 世界最後の日に食べたいものは その八
王都、噴水がある大きな広場でのことだ。
シャルリアたちは流星に向けて連合軍の一斉攻撃が放たれたのを見上げていた。
「普通に向こうと合流すれば世界を救った英雄だともてはやされてがっぽり報酬だってもらえただろうに」
「『特別』扱いされるなんてごめんだよ。っていうか私は別に世界が救いたいわけじゃなくて私が知る『みんな』が笑って過ごせる日々が守り抜ければいいんだし。だから私がちょっとばかり他の人とは違う力を持っているってバラさないようガルドさんのほうからあの人たちにも言っておいてよ!?」
「構わないが、そんな念押ししなくてもわざわざこいつらが言いふらすこともないと思うぞ。他人とか微塵も興味ない連中だし」
なんだかんだで一緒に行動しているが、ガルド以外の騎士のような女の人やら薄い布を重ね着している女の子やら金髪碧眼の美女やらは一応顔は見たことあるが、名前さえも知らないくらいの関係性だ。
ガルドが連れてきたのでそれなり以上の実力者であり流星破壊の役に立つのだろうが、それでも自分の本当の力を隠したいシャルリアとしてはあまり知らない人たちと一緒にいるのは避けたいのが本音だった。
そんな悠長なこと言っていられる状況でもなさそうだが。
「おっ。連合軍は見事に玉砕したな。表面の不純物は砕けても本丸本命の退魔石はほとんど削れてなさそうだ」
「そんな軽く言うこと!? やばいじゃんっ!!」
「だから俺たちがここにいるんだ。どうする?」
「私の『暴発』で吹っ飛ばしてやる!!」
「……、そうか。よし、お前らいくぞ!」
そんなガルドの言葉に騎士のような女は『お前が仕切るなでありますよクソ野郎』と吐き捨て、薄い布を重ね着した女の子は冷ややかに鼻を鳴らしていた。
金髪碧眼の美女が淡々と一言。
「ミラユルがいなければこんなものなれば」
「確かにあいつは勇者パーティーが喧嘩別れしないよううまく立ち回っていたが、大体問題を持ち込むのもあいつだったからな? ドジってヤバいの目覚めさせたり、たった一人を殺せばそれで済む話をその一人を救うために世界が滅亡するかもしれない難問を持ち出してきたり、特に恋愛関係な! あいつは本当よく刺されなかったと思うくらい無自覚にヤバい連中ばかり惚れ込ませてやがったしな。それでどれだけ大変なことになったか……。しかも当の本人は恋愛関係に関しては自覚すらしていなかったし!」
「…………、」
「でもなんだかんだで自分が一番好かれているもんねって顔しやがって。あいつに夢中な連中はお前やアリスフォリアも含めて全員が全員そう思っているからタチが悪いんだ」
魔王を倒して世界を救った勇者パーティーではあるが、その実情は歴史書に記されているような綺麗なものではなかった。何なら一応は仲間同士でぶつかって血が見えていないだけ今はまだマシなくらいである。
ーーー☆ーーー
どれだけ仲が悪くとも、その力は世界だって救えるものだというのは歴史が証明している。
『無名の冒険者』ガルズフォード。
今はガルドと名乗っている隻眼の男がその掌を流星に向ける。
「『暴発』っと」
純粋な魔力の一撃が指向性をもって夜空に放たれる。
ガルドとしてランクAの魔獣だろうが軽々と討伐していた男の全力に薄い布を重ね着した女の子が合わせる。
「炎、水、風、土。第七の支配者である女神によって紡がれ、冥なる理を一掃した新たな理は第七を一つの生ある世界だと定義した。自由な行き来を禁じる真なる終焉は、ゆえに限りある生に価値を与える。世界定義の真髄の一端を四つの輝きでもって束ねて、導き、我が眼前の敵を撃滅せよ──ふ、にゃふっ。こ、これでもくらえっしょー!! フォトンバースト!!」
炎、水、風、土。
四つの属性が合わさり、閃光となって夜空に放たれた。
魔法と同じように魔力を纏いながらも、魔法には必要のない詠唱でもって顕現する四色の閃光。
エルフの長老の娘・アリスフォリア=ファンツゥーズがなぜか甘い吐息を漏らしながら放ったそれだけでも連合軍の一斉攻撃に匹敵する力があった。
さらに、
「轟剣・斬波ッッッ!!!!」
『轟剣の女騎士』ナタリー=グレイローズ。
サキュバスの支配する空間さえも両断する一撃を威力減衰することなく遠くまで飛ばすよう調整した遠隔斬撃。
本来なら近接攻撃のはずの斬撃が夜空高く流星に向かう。ガルドやアリスフォリアの全力さえも軽々と超える力が、だ。
そして、最後に、
「とおっりゃーっ!!」
本人は大真面目でも、どこか可愛らしささえも滲む声だった。ただしその後に続くのは可愛らしさとは皆無だったが。
閃光。
白という光系統魔法の形が与えられずに『暴発』した魔力の塊が一際力強く輝く。
各国の精鋭さえも含めた連合軍を遥かに超える力の掃射。
魔王を倒して世界を救った『白百合の勇者』と同じ光系統魔法を継ぐ少女の全力が破滅の象徴へと放たれたのだ。
ーーー☆ーーー
ゴッッッガァッッッ!!!! と。
その破壊音は地上の連合軍やシャルリアたちにまで届いた。
ーーー☆ーーー
夏の長期休暇、残り二十一日。
流星落着まで残り一日。
ガルドが連れてきた二人のうちの一人、巫女(?)はこんなことを言っていた。
『惑星の終焉において地脈や龍脈の源泉である中心核に満ちている「星の力」が一点に凝縮されて極大の力場を形成するわフォトンホールとも呼ばれている異常力場は宇宙空間に漂う素粒子さえも呑み込むつまり宇宙という特殊な環境で変異して地上には存在しないようなものだってねそういう素粒子から宇宙を漂う死した生命から漏れた微細な魔力だって全てが同一なわけじゃなくて惑星の規模や構造で属性が変わるわけでそういった無数の選択肢の中から奇跡的な組み合わせがフォトンホール内に荒れ狂う「星の力」と合わさることで退魔石は生まれるわ一つ一つは無害でも偶然の連続が魔力を弾く特殊な鉱石を生み出すというのだから宇宙とは本当摩訶不思議でだからこそそんな奇跡のもとに輝く星は愛おしいのよああっわたしだけならその光で殺してくれて全然いいのにむしろ殺して欲しいくらい──』
『長い長い。結論だけ言ってくれればいいから』
『む。教会の警備を潜り抜けてまでわたしの話を聞きに来てくれた情熱はどこに行ったわけ?』
『あの時に必要な情報を教えてくれれば、別に連れ出す必要はなかったんだがな』
『わたしだってたまには誰かに星の話がしたいの!! 予言とかそんなんじゃなくて純粋な星の話を!!』
『そのために俺は教会を敵に回してしまったんだが? 「星読みの巫女」を誘拐したとか今頃教会から刺客を送り込まれているんだからな?』
『……? わたしとしては誰かに予言とか抜きに純粋に星の話ができれば後はどうなろうが知ったことじゃないから何でもいいんだけど』
『おいこいつとんだクソッタレじゃないか。何で俺の周りの女はこんなのばっかりなんだよ。前のパーティーとか男女比率だけでいったら俺のハーレム一直線だったのに実情はこんな奴ばっかりで手を出そうとも思えなかったしな。なあ、シャルちゃん。酷い話だとは思わないか?』
『あ……う、うん』
上の空でなんて言われたかもわからずとにかく頷きだけ返すシャルリア。
祝福の内容を聞いたばかりだったのもあってうまく言葉が出なかった。
構わずガルドは巫女(?)に視線を向けて、
『で、退魔石の流星はいつできたんだ?』
『五百年前』
『……聞いておいてなんだが、よくわかったな。五百年前とかお前はまだ生まれてもいないだろ?』
『フォトンホールともなれば過去の記録を遡ればそのものの観測情報なりフォトンホールの影響なりとにかくある程度の情報は残っているわ。後は流星の軌道予測とかわたしが観測してきた星々の情報とか過去の星を観察してきた先人たちの記録とか諸々で特定可能ということ。流石にこの短期間で厳密な発生日付とかまではわからなかったけど』
『いや、それだけわかっていれば十分だ。退魔石の元は無害なもんだって言っていたし、あれも俺の予想通りなら普通に破壊するよりも周囲への被害は抑えられるな』
『それより!! わたしはまだまだ話し足りないんだけど!? 祝福とか何とか訳の分からない話が終わるまで待っていたんだから今度はわたしの気が済むまで星の話を聞くべきだわ!! 聞いて聞いてっ。わたしが一番好きな星はねえ、やだそんなの一つなんて決められな──』
『あー……シャルちゃん。これ教会に返してくるから明日までにはどうするか決めておいてくれな』
『ちょお!? まだ話は全然まったく終わっていないんだけどお!?』