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第五十四話 世界最後の日に食べたいものは その一

 

 夏の長期休暇、()()()()()


 隠しようもないほど夜空に大きく輝く流星。

 朝を迎えることなく流星はこの国に落着し、国そのものを跡形もなく消し飛ばし、大量の粉塵を舞い上げ太陽を覆い隠してやがては大陸全域を極寒の地獄に変えて滅ぼすことだろう。


 避難誘導もどれだけ意味があるのか。

 王都からは大半の人間が避難しているが、どこまで逃げようともあの巨大な流星が落着すれば大陸全域が極寒の地獄に変わる。奇跡的に単純な破壊から逃れることができたとしても、やがて全ての国が滅びを迎えるのだ。


 そんな結末を阻止するために各国から精鋭が集まっている。他人事として流すわけにはいかないというだけではここまでは集まらなかっただろう。多くの国に影響を及ぼす教会が動いたり、悪巧みが得意な第一王女が綺麗事ではない『理由』を用意したり、多くの要因が重なり合って国の垣根を超えて猛将や英雄と呼ばれる者たちが集結したのだ。


 王都の外に並ぶ大勢の実力者。

 公的には『雷ノ巨人』を撃破したアンジェリカ=ヴァーミリオン公爵令嬢もまたその中の一人である。


(これだけの実力者が集うことはもう二度とないでしょう。それでも……魔力を弾く性質を力づくでねじ伏せて、あの流星を破壊することができるかどうかは怪しいところです)


 ここまでの人員が揃ったのは奇跡に近い。


 それでも、だ。

 天を覆っているのではと錯覚するほどに巨大な流星を破壊するには心許ない。


「せめて店員さんが巻き込まれないくらいには砕くことができればいいのですけれど」


「らしくもなく弱気ですね。というか私の心配はしないんですか?」


「わたくしに仕えるメイドであればわたくしと共に生きて死ぬべきでしょうに、どうして心配する必要があるのですか?」


「はいはい、それもそうですね」


 肩をすくめるメイド。

 夜空が流星に埋め尽くされる。迫るは破滅。落着を許せば最終的に大陸全域を滅ぼすどうしようもない自然災害である。


(シャルリアちゃん……)


 現場指揮を取るブレアグスの指示が下る。

 流星に向けて一斉攻撃が仕掛けられる。


 そして──



 ーーー☆ーーー




 夏の長期休暇、()()()()()()

 流星落着まで残り六日。


 朝。

 シャルリアが店員の格好で店の前の掃除をしていた時だった。



「店員さん!!」


「わっ、アンさん!?」



『アン』に扮したアンジェリカ=ヴァーミリオン公爵令嬢がやってきた……のだが、どうにもその表情には焦りが浮かんでいた。


「避難してください……」


「へ?」


「移動手段はわたくしが用意します。家族や友人を何人か連れていくこともできます。ですからどうか今すぐにでもこの国から避難してください!!」


「まっ、待って、落ち着いてよ。避難ってなに? どうしてそんなことしないといけないの?」


「それは……『どうしてそんなことを知っているのか』と疑問は挟まないでください。これからわたくしが言うことを信じてください。無茶を言っているのはわかっていますけれど、どうかお願いします」


「わかった」


「……、え?」


「アンさんの言うことなら信じるよ。だから話してよ、ね?」


 ヴァーミリオン公爵令嬢だからこそ知り得た『何か』なのだろう。だから信じ難いと考えているということだ。


 未だにバレていないと考えているからこそ不安なのだろうが、気づいているシャルリアからすれば疑問を挟む理由はない。


 それに、もしも気づいていなかったとしても、どれだけ突拍子がない話でもアンの口から出ていれば信じるに決まっていた。


 だから。

 だから。

 だから。



「流星が降ってきます。破壊できなければこの国を跡形もなく吹き飛ばす規模のものがです」



「なる、ほど……?」


 それにしても何の前触れもなさすぎて受け入れるのに時間がかかったが。



 ーーー☆ーーー



 考える時間が欲しい、と答えた。

 本当は答えは決まっていたのだが、それを伝えるには『店員さん』だとうまく伝えられないと思ったから。


『早めにお願いします』と言ったアンジェリカの顔は焦燥にかられていたが、どうしてもあの場で答えを出すわけにはいかなかったのだ。


「メイドさん」


「はい」


「うわっ、本当に出てきた!?」


 アンジェリカが去ってからなんとなく呼んでみたらどこからともなくメイドは現れた。アンジェリカ御付きのメイド。普段からアンジェリカの迎えにやってきているし、あの『雷ノ巨人』との戦闘でも信頼されているのが一目で分かったほどだ。


 そして、何より。

 店員の少女がシャルリアだと気づいている女でもあった。


「アンジェリカ様は私……あー、シャルリアを呼び出しているんじゃない?」


「よくお分かりになりましたね」


「わかるよ、それくらい。助けたいと思うくらいには好かれているってのは、多分自惚れじゃないんだしね」


「……、シャルリア様として返事をするんですね」


「うん。というわけで案内よろしくね、メイドさん。……あっ、いつもの『シャルリアの格好』しないとだからちょっと待ってくれるかな!?」

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