間話 光系統魔法に関するある魔族の見解
一口に魔法といっても『できること』には個人差があるっす。だからあくまで系統魔法と呼称されているっすよ。……基本中の基本ではあるっすけど、まあわかりやすく説明するための前ぶりとして聞いてくださいっす。
例えば強化系統魔法。
この魔法そのものは無機物やら有機物やら自然現象やら強化できる対象は様々っすけど、使い手によって『できること』は決まっているっす。ある使い手は無機物全般の強化ができるけど、ある使い手は無機物の中でも剣しか強化できない、またある使い手は無機物全般は強化できないけど人間なら強化できるみたいにっすね。
光系統魔法でも同じことっす。
三百年前に大陸の半分を支配した『光龍の女帝』は空間ごと対象を捩じ切る光系統魔法を、五百五十年前に教会が今でいう聖女の雛形として祭り上げていた『救世の乙女』は超大規模自然災害による大陸の崩壊さえも防ぐほどに強力な光系統魔法を、二千年以上前にエルフと共にひっそりと暮らしていたらしい『初代』は、あれっす、ここまでくると流石に長寿な魔族の記録を漁っても大した情報は残ってなかったっすね。女神暦の遥か前に『初代』がいたことがわかっているのが奇跡なくらいっす。……これは女王ヘルの介入もあるっすかね。
とまあ、他にも何人か光系統魔法の使い手はいたっすけど、情報不足な『初代』は置いておくにしても誰もが光系統魔法で『できること』は一つだけだったようっす。
光系統魔法そのものの自由度が高くてもなんでもできるわけじゃないということっすね。他の使い手に可能だからといって、一人の使い手が『できること』はあくまで一種類なのは他の魔法と一緒っす。
あ、もちろん複数の魔法を使えればその分『できること』も増えるっすけどね。シャルリアがあらゆる魔法を無効化していたのは光系統魔法、軽度の傷を癒していたのは治癒系統魔法という『仮説』のようにっす。
『白百合の勇者』? あれはメチャクチャだったけど、その力の本質は一言で説明できるっす。無数の魔法を使えたわけじゃなく、あくまで光系統魔法しか使えなかったんすよ。
あの力の正体は──
──光系統魔法は他の魔法に似ているけど他の魔法よりも強力なこともあれば、『白百合の勇者』のように既存の魔法の法則の埒外にある力を発揮することもあるっす。
つまり自由度が高く、なんでもありとしか言えないのが光系統魔法ってことっす。
だから光系統魔法の使い手に関しては過去の記録なんて全然アテにならないっす。はっきり言って予測なんて不可能っすよ。
今代の使い手であるシャルリアの光系統魔法はあらゆる魔法を無効化できるのであり、学園で力を偽っていた時の『シャルリアの光系統魔法は軽度の傷を癒すことしかできない』というのは治癒系統魔法による誤魔化しだ、なんてのが最も可能性の高い『仮説』っすけど……本当にそうなのやらっす。
『雷ノ巨人』はそんな風に納得していたっすけど、明確な証拠はないっすからね。光系統魔法は驚くほど自由度が高いからこそ疑ってかかるべきっす。
闇系統魔法?
ああ、そういえば人間は魔王の力のことをそんな風にも呼んでいたっすね。
他にも瘴気の極大魔法とか言われることがあるっすけど、僕は魔王の力を魔法とは思っていないっす。超常的な力をなんでもかんでも魔法だとする風潮はあんまり好きじゃないっすから。
『魅了ノ悪魔』の魂喰いや夢渡りは魔法ではなく魔力を必要としない体質みたいだし、ガルズフォード……いやガルド? とにかくあの野郎の『能力向上』はそもそもアレ何っす? 『魅了ノ悪魔』は魔法だと思っているみたいっすけど、絶対にそんな言葉で片付けられないっすよね。一人だけ生物として根底から逸脱している気がするっす。
ごほん。というわけで僕は魔王の力もまた魔法とは異なる『力』だと考えているっす。
あくまで根本となるエネルギー源こそ魔力だったっすけど、あの力の本質は奇跡、つまりは神々と──